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第二章 牙を剥く皇帝
明暗
しおりを挟む「――なっ……」
バルコニーで朝食会があるってことで俺はシュルヒと向かったわけだが、晴れてもいないのに目が眩むかと思った。下にいっぱい人がいて、こっちを指差してこれでもかと黄色い歓声を浴びせかけてくるんだ。さすが最強パーティーの《エンペラー》、人気抜群だな。ここまで注目されているとは……。
「お、おはよう!」
よし、多少どきまぎしたものの、既に集まっていたメンバーにちゃんと挨拶できた。
「あぁ、おはようございます、ウォールさん。昨晩はよく眠れましたか?」
「は、はい。なんとか……」
「それはよかったですねえ」
リーダーのバジルの堂々とした立ち振る舞いに憧れる。いつかはこうなりたいものだ。
「よー、ウォール。あの群衆どもはよ、多分お前について話してるんだぜ。俺たちの中じゃ見慣れねえ顔だし」
「えっ……」
食べかけのサンドイッチを手にしたエドナーに白い歯を向けられる。そうなのか……?『視野拡大』で下にいる彼らのほうに神経を集中させると、会話内容まではっきり聞こえてきた。
「ねぇねぇ、あの人見て! 新メンバーのウォールっていうんだって!」
「へえー、中々の男前じゃない?」
「きっと能力とか物凄いんでしょうねっ!」
「……」
普通の容姿だと思うんだが何故か男前ってことにされてしまった。やはりそこは人気パーティー《エンペラー》の一員ってことが大きいんだろうな。
「ウォールさーん、こっち向いて-!」
「「向いてぇー!」」
「……」
「「「キャーッ!」」」
俺は彼らにぎこちない笑顔を向けるだけで精一杯だった。今までノーアビリティと言われて蔑まれることのほうが多かったから、こういう風に一般人から持てはやされるのは正直慣れてないんだ。それにしても、俺は殺人まで犯してるのに《エンペラー》の一員になるだけでこうも反応が変わるなんて妙だな……ん、バジルがにこやかな表情で近付いてきた。
「ウォールさん、あなたのことは彼らにちゃんと説明していますよ」
「説明?」
「はい。ごろつきに襲われていた子供を助けるために、やむを得ず殺してしまったということにしておきました」
「……あ、ありがとうございます」
「そんなに恐縮しなくて大丈夫ですよ、ウォールさん。まあ緊張はあるかもしれませんが、すぐに慣れます」
「は、はあ……」
「そうそう! すぐ慣れるぜ。こいつみたいに!」
「……」
エドナーが指差してるのはレギンスという仮面の男で、こういう状況であるにもかかわらず黙々と食事していた。まるで一人だけ別世界にいるかのように、周囲の賑やかさとは対照的に淡々と。
リーダーのバジル、メンバーのシュルヒ、エドナーにしてもそうだが、普段通りな様子で俺は改めてとんでもないところに入ってしまったんだと感じる。正直怖くなってきたな。もし迷惑をかけてしまったらと思うと……。
「あ、あの……」
「ん、なんですか、ウォールさん?」
「俺、時々妙な発作っていうか……盗みたくなる衝動みたいなのがあって……」
「うんうん、それで?」
「……その、迷惑をかけてしまわないかなって……」
「えぇ……?」
バジルはきょとんとした表情を見せたあと、エドナーと顔を見合わせて二人で噴き出すように笑った。俺、何かおかしなこと言ったっけ……?
「くだらん。お前の好きにすればいい」
「あ……」
意外にも、それを口にしたのはあの仮面をつけたレギンスという男だった。
「レギンスさんの言う通りですよ。細かいことは気にしなくても大丈夫です」
「そうそう、殺人だろうとやりすぎなきゃすぐ揉み消せるしなー」
「……」
そうなのか。どれだけ権力を持ってるんだ、このパーティーは……。
「ただ、結果を出さないとすぐ追い出されるかもしれませんから、そこだけ注意してください。あの人のように」
「そうそう、あいつみたいになあ」
「は、はあ……」
誰かここで結果を出せなくて追放されちゃったんだろうか。それで俺が代わりに入ったというなら複雑だが、頑張らないと……。
「――リーダー、少しいいだろうか」
ん、シュルヒが急に絞り出すような声を発した。なんか様子が変だな。
「シュルヒさん、どうしました? 言いたいことがあるなら今のうちに仰ってください。もうすぐ出発ですのでね」
「……いや、やっぱりいい。すまなかった」
「そうですか」
「……」
シュルヒ、どうしたんだろう? というかバジルの言う通り、今日はダンジョンに行くんだったな。
「まあ何を言いたいのか、おおよその見当はつきますがね」
「言ってやるなって、リーダー」
「ふっ、愚かな……」
「くっ……」
なんだ? 無念そうに唇を噛むシュルヒに対して、みんなの小馬鹿にするような視線が集中している。例の追い出されたっていう人と何か関係があるんだろうか? あんなに悔しそうなのに言い出せないというのは、他人に弱みを見せられないという彼女の考え方も影響してそうだ。
「ウォールさん」
「あっ……!」
唐突にバジルに肩を掴まれてはっとなる。なんだ……?
「な、何かな? リーダー」
「あなたはもう紛れもなく《エンペラー》の一員です。なのでもっと堂々となさってください」
「は、はい」
「まさかとは思いますが、今更抜けたいなんて言うつもりはないですよね? 少し小耳に挟んだのですが、昨日あなたの元パーティーの方々がいらしたとか……」
「……事実です。でも、もう俺は過去のことは忘れたいので……」
「……そうですか。それならいいのですがねえ。人間というものは結局動物の一種でして、最後は感情で動く生き物ですから、それまで仲間だったとしても明日には敵になるということも充分にありうるのです……」
「は、はあ……」
なんだろう。パーティーを抜けてしまえばもうその時点で敵と見なすよってことかな。口調は冷静だったが、それくらい強烈な威圧感が込められているような気がした。
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