ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し

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第二章 牙を剥く皇帝

リアリティ

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「……ダメだ……」

 まったく眠れないし、これからも眠れそうにない。俺はベッドに横たわり目を瞑ってしばらく経つわけだが、やたらと意識がはっきりしていてどうしても眠れないでいた。

 やっぱり最強パーティー《エンペラー》の一員になったことでそれだけ無意識のうちに重圧を感じていたってことだろうか。寝坊しないように早めに寝たのでそこまで眠くなかったっていうのもあるが、それでも疲れは溜まっているという自覚はあった。

 だから明日につなげるためにも今はとにかく眠らないといけない。皇帝たちの前でウトウトするなんてあっちゃいけないし、なんとしても眠るんだ。羊が一匹、羊が二匹……お、なんかウトウトしてきた。よし、いい感じ――

「――ウォール様がここにいるのはわかっています!」

 ん、この声は……確か、女になったダリルの声だったような……?

「そうよ! ウォールに会わせて!」
「ウォールお兄ちゃんに会いたいよぉ……」
「……」

 エントランス付近にいるダリル、リリア、ロッカの姿が見えてくる。どうやら俺は《エンペラー》の宿舎まであの《ハーミット》の三人が来ているっていう夢を見てるらしい。ダリルなんてお姫様の姿だし俺の願望がもろに現れてるっていうのがわかって照れ臭くなる。気付いてはいたけど、俺って心底あの頃に戻りたいんだなあ。もう無理なのに……。

「ダメだ。ウォールどのはもう寝ている。休ませてやれ」

 シュルヒが強めの口調で追い返してる。なんだかやたらとリアルな夢だな。

「で、でもでも、寝ているといってもまだこんな時間ですし……! ウォール様はわたくしたちといた頃は、こんなにすぐお休みなられるなんてことはほとんどないお方でしたよ……?」
「そうよ! ウォールっていっつも夜更かしするタイプだし、こんな時間に寝るわけないでしょ!」
「私もそう思うのぉ……」
「……」

 そういやそうだったな。《ハーミット》の宿舎にいた頃は楽しいから夜更けまで起きてることも珍しくなかったし、いつしかそれが普通になっていった。リリアたちが騒がしいから眠れないっていう側面もあるが……。

「では、ウォールどのの早期就寝がまったくなかったというわけでもないんだろう。とにかくダメなものはダメだ」
「うっ……そ、それなら……それなら明日でもいいのでウォール様に会わせてくださいな!」
「そうよ、会わせてよ! ねえウォール、起きてるんでしょ!? このままあたしたちから逃げようなんて、そうはいかないんだから!」
「ウォールお兄ちゃん、私たちね、ずっと待ってるよ。だから……」
「……」

 みんな必死だ。そうまでして俺を連れ戻したいんだな。夢の中とはいえ、健気すぎて涙が出そうだ……。

 しばらくして三人は諦めた様子で引き下がったものの、何度もこの宿舎のほうを振り返っていて、やがて無念そうに視界から消えていった。悲しいなあ。なんでこんなに胸が痛むんだろう。なんでこんなにも心臓を抉られるような夢を見てしまうんだろう……。



 ※※※



「あ……」

 気が付くと外は大分明るくなっていた。いつの間にか寝てたみたいだな。少し疲れは残ってる感じだが、まだここには慣れてないしこんなもんだろう。最初のほうはどうなるかと思ったけど、夢を見たあたりから徐々に睡眠が深くなっていったみたいだ。ん、ドアをノックする音だ。多分シュルヒだと思う。

「どうぞ」
「おはよう、ウォールどの」
「うん、シュルヒ、おはよ――」
「――あ……」
「ん……?」

 なんだ? 入ってきたシュルヒが俺に近付くなり慌てた様子で視線を逸らすと、ハンカチを手渡してきた。

「こ、これで涙を……」
「あっ……あ、ありがとう……」

 そうか……俺、あの現実っぽい夢を見ながら無意識のうちに泣いてたんだな。今や皇帝の一人なのに涙を見せてしまうなんて迂闊だった。情けないやつだと思われそうだし……。

「実は昨日の夕刻、ウォールどのの元パーティーメンバーだと名乗る者たちが訪ねてきた」
「……え?」

 ってことは、あれは本当に夢じゃなかったっていうのか……? そうか……俺が『視野拡大』スキルを無意識のうちに使ってて、あたかも夢のように見えていたってことか。あれは紛れもなく現実だったんだ……。

「……うくっ……」

 俺はたまらずハンカチで目頭を押さえた。泣きたくないのに……みっともないから涙なんて見せたくないのに嗚咽が止まらなかった。

「強いのだな、ウォールどのは」
「え? な、なんで……」
「仲間とはいえ他人に弱みを見せることは、自分にはもうできそうにないから……」
「それって……強いの?」
「……自分にはできそうにもない。だから心底羨ましい……」
「シュルヒ……」

 彼女の顔は、少し紅潮しててなんだか照れ臭そうだった。

 弱いから涙を止められないと思ってたのに、それがどうして強く見えたのかはわからないけど、嘘をついてる感じでもないし彼女には確かにそう見えたってことかな。怖いから、か。なんか複雑な事情を抱えてそうだ……。
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