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第二章 牙を剥く皇帝
シーフ
しおりを挟む「な……なんだって? ウォール君が殺人罪で兵士に連れていかれた……? それは本当なのかい!?」
王都のギルドにて、必死の形相で男に掴みかかるダリル。それは彼の大盗賊然とした風貌も相俟って、周りで見ている野次馬たちでさえも声を失うほど恐ろしいものであった。
「ひ……ひいいっ! 本当っす! やられたほうはどうしようもないごろつきみたいで――」
「――何!?」
「あ、ごめんなしゃい! どうか殺さないで……!」
「ちょっと、ダリル、落ち着いてよ!」
「ふぇぇ、ダリル、落ち着いてぇ……」
「……あ、ごめん。つい興奮しちゃって……」
「あひいいぃっ!」
それまで我が物顔で飲んだくれていた強面の男が、すっかり醒めた様子で転びながらも走り去っていく。パーティー《ハーミット》の三人――ダリル、リリア、ロッカ――は、元メンバーであるウォールについての情報を集めるためギルドまで来ていたのだ。
「ということは……あの日の夜、ウォール君は街に出てならず者に絡まれ、命を盗んだってことか……」
「ウォールのバカッ。なんでそんな無茶するのよ……」
「きっとぉ……やっぱり発作みたいなのが起こったんだよ。ウォールお兄ちゃんが簡単に人の命を奪うなんてこと、するわけないし……」
「でも、そんな状況でどうして兵士に捕まっちゃうわけ?」
「あっ……」
はっとした顔になるダリル。
「「ダリル?」」
「もしかしたら……ウォール君は命を盗んだことで発作が収まったけど、その反動で意識が途切れてしまったってことなのかもしれない。それで兵士に捕まったんじゃないかな」
「な、なるほど……それだと納得いくわね。とにかく急ぎましょ! このままじゃウォールが処刑されちゃう!」
「早くウォールお兄ちゃんを助けなきゃ!」
「行こう!」
三人は血相を変えてギルドから飛び出していった。
※※※
「――はぁ、はぁ……も、もう無理だって、ルーネ……」
「えぇー、終わるの早いよー……」
パーティー《ラバーズ》の宿舎にて、げっそりした表情で上体を起こすセイン。ベッドに隣接したテーブルで湯気を立てるコーヒーカップに気怠そうに手を伸ばした。
「ふー……ようやくダンジョンから戻ってきたばかりだってのに三回戦もできっかよ。腰もイテーし……」
「そんなこと言って、三階層からぜんっぜん攻略できてないくせに……」
「しょ、しょうがねえだろ。そもそもゾンビとかスケルトンがキーマンなんてありえねえよ。ギミック作ったやつの頭がイカれてるとしか思えねえ……」
「はあ……あんなの何が怖いんだか。あーあ、もう一人仲間がいればなあ――」
「――ぶはっ!」
口に含んだコーヒーを噴き出すセイン。
「もおやだっ、セインったらきたなーい……」
「お、お前がとんでもねえこと言い出すからだろっ! 仲間がいればってどういう意味だよ?」
「そりゃもちろん……体力のありそうな男の子……」
「お、おいおい、ルーネ……」
ニヤリと笑うルーネに対し、セインの顔が見る見る青ざめていく。
「冗談よ冗談っ。てかもう一人くらいそろそろ増やさないとダンジョン攻略きつくなっちゃうよ? 三階層ですらまだなんだし……」
「そ、そうだけどよお……」
「もしかして、新メンバーに嫉妬しちゃうからぁ?」
「……そ、そうだよ! わりーか!?」
耳まで顔を赤くしたセインがルーネに向かって枕を投げる。
「きゃー。セインったら可愛いんだからっ。それなら男の子じゃなくて女の子のほう募集したら?」
「……ま、それもありだけどよ……俺はしばらくルーネと二人きりでいたい……」
「あぁん……じゃあ三回戦――」
「――だ、だから今日はもう無理だって! あっ……そうだ、明日アレ見に行こうぜ!」
「……アレって?」
「あいつの処刑シーンだよ。ウォールの」
「……誰?」
「ほら、いたじゃん。幼馴染のウォール!」
「んー……そういえばいたような気が……?」
とぼけたような顔をしつつ、口元を綻ばせるルーネ。
「わざとらしいんだよ、ルーネ。知ってるくせに」
「そ、そりゃ少しはね。でも、もうあんなやつのことなんて忘れたかったし……実際、忘れかけてたのは事実だから。セインだってそのほうがいいでしょ?」
「ん、まあな。俺があいつのことを忘れさせたようなもんだし……」
セインはあの日の夜、傷心のルーネを無理矢理押し倒したものの、背中や腕に傷が残るほど激しく抵抗されたことを思い出していた。だから彼は【鈍化】アビリティで彼女のウォールへの想いや大切な記憶を鈍らせ、そこに付け込んだのだ。
「もぉ……でも、おかげさまであいつのことが何故だかどうでもよくなっちゃって、思い出も途切れ途切れになって……その分、セインのことが大好きになったけどっ。で、あいつの処刑なんて見てどうするの? 大体ノーアビリティなんだしもうとっくに死んでるようなものじゃない?」
「そう思うだろ? ルーネ、ちょっと耳貸してくれ」
「え?」
ルーネに耳打ちするセイン。まもなく目を合わせた二人の顔にはなんとも邪悪な笑みが浮かぶのだった……。
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