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第二章 牙を剥く皇帝
新人
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「ウォールどの、到着いたした」
「……あっ……」
あれから馬車に乗った俺は王都の優雅な景色をぼんやりと眺めてたんだが、シュルヒに声をかけられてはっとなる。
もう着いたのか。目的地のパーティー宿舎まではあっという間だった。しかも王都のど真ん中にある三階建ての旅館のようなところなので圧倒される。エントランスの上部――二階部分――には竜の木彫り装飾付きのバルコニーも設置されていた。ここが最強パーティー《エンペラー》の宿舎なのか……。
「どうしたのだろうか、ウォールどの?」
「……い、いや、なんでもない。行こう」
これくらいのことでいちいち動揺してたら田舎者だと思われそうだし自信を持とう。これは俺のSランクアビリティ【盗聖】が勝ち取った結果なんだ。対象から一番大事なものを盗むことができるっていうとんでもない能力なわけだからな。
「……」
宿舎の中はさらに豪華で、この赤い絨毯の道を歩くだけで料金を取られるんじゃないかと思えるほどの華やかさだった。
厳然と見下ろしてくるシャンデリア、不遜なまでに大きく捻くれた螺旋階段、今にも額縁から飛び出してきそうな誰かの肖像画、広さや奥行きを強調する幾つもの扉……俺が想像していたパーティー宿舎のクオリティを遥かに超えてしまっていた。
「――ウォールどの、ここがメンバーの集う会議室だ」
「あ、うん……」
またしてもぼんやりとしてしまってたが、シュルヒの声で我に返る。それにしてもこの子、なんか淡白っていうか自分を押し殺してるような感じだな。
「あ、ちょっといいかな、シュルヒ」
「はい?」
「俺が新人といっても遠慮とかはまったくしなくていいから」
「……りょ、了解」
目を何度かまたたかせて意外そうな顔をしたシュルヒ。俺の恐ろしい能力からすると、もっと傲慢なやつを想像してたのかもしれない。
「新たなメンバーとなる者を連れて参った」
そう宣言してからまもなくシュルヒが扉を開けると、部屋の中央には大きな窓を臨む長方形のテーブルがあり、三人の男たちが向かい合う形で座っているのが見えた。
「よくぞ連れてきましたね、シュルヒさん。お手柄ですよ」
奥に座っていた長髪の男が立ち上がると、ゆっくりとした足取りで俺たちのほうに向かってきた。穏やかな口調といい朗らかな表情といい、物腰がとても柔らかそうだ。中央に複雑な模様が施された白衣と大窓から射し込む光が影響してか聖職者のようにも見える。雰囲気的に多分彼が《エンペラー》のリーダーなんだろう。
「どうも、俺の名はウォールといって――」
「――ええ、存じ上げてますよ。ウォールさん、ようこそ《エンペラー》の宿舎へ。私の名はバジルといって一応パーティーリーダーでして、そこに座っているのは左がエドナーさんで右がレギンスさんです」
「おう、よろしくなっ、ウォール!」
「ふっ……」
「……」
両極端な対応をされた。左に座っているエドナーというショートベストを着た短髪の青年は陽気で気さくそうな感じだったが、右の座席にいるレギンス――マントを羽織り仮面で目元を隠した男――は鼻で笑うだけでこっちを向くことさえもなかった。まあ俺はあくまで新人だしこういう塩対応も仕方ないか。
「ではウォールさん、パーティー契約を済ませるといたしましょうか」
「はい」
リーダーのバジルから差し出されたパーティーボードに手を置き、契約を済ませる。これで俺は晴れて誰もが羨む最強パーティー《エンペラー》の一員になったわけだ。自分でもまだ信じられない。俺はつい最近までノーアビリティと蔑まれていた男だからな……。
「レギンスさんのことは気にしないでください。彼はいつもああなのでね」
「は、はあ……」
「しっかし、随分見た目と能力がかけ離れてるやつが入ってきたもんだなあ。確か、一番大事なものを盗めるんだっけか? それならもっと山賊みてえに厳つい顔した大男かと思ってたぜ!」
「……」
エドナーがニヤニヤとした表情でからかってくる。まあ俺の普通すぎる容姿だと平凡な能力の持ち主には見えるだろうな。
「こらこら、エドナーさん。ウォールさんを怒らせたら、あなたの一番大事なものを奪われるかもしれませんよ……?」
「ひいっ!」
「あ、あはは……」
弄られてるようだが、これも新人に対する洗礼ってやつだろうから軽く受け流しておこう。
「ウォールさん、私たちで独自に調べさせてもらったのですが、あなたの【盗聖】というアビリティにはこの上なく期待しているのですよ。早速明日にでもダンジョンで試させてもらいますが……構いませんか?」
「は、はい……」
「緊張しなくても大丈夫です。すぐに慣れます。ここにいるだけでも……」
「……」
意味ありげに笑うバジル。ここにいるだけでも慣れる? どういうことだろう。それだけダンジョンで激しい戦いをするから精神的にも強くなれるってことかな?
「まあ今日はゆっくり休んでください。ある程度のことなら揉み消せますので、例の件は早く忘れてしまうことです」
「ど、どうも……」
そうだ、俺はごろつきとはいえ命を奪ったんだ。いつまでもいい子ぶらずに開き直らないとな。これからは《ハーミット》のウォールじゃなくて《エンペラー》っていう最強パーティーの一人なんだから……。
今すぐにでも早速セインとルーネに俺の力を見せつけてやりたいところだが、こっちから行くのはなんか小物っぽくて違う。それこそパーティー名通り皇帝のようにどっしりと待ち構えてやればいい。
「ではシュルヒさん、ウォールさんを部屋まで案内してください」
「……」
「シュルヒさん?」
「……あ、了解した……」
シュルヒ、どうしたんだろう? 今の彼女、なんかとても浮かない顔をしていたような気がする。心ここにあらずというか……。
「……あっ……」
あれから馬車に乗った俺は王都の優雅な景色をぼんやりと眺めてたんだが、シュルヒに声をかけられてはっとなる。
もう着いたのか。目的地のパーティー宿舎まではあっという間だった。しかも王都のど真ん中にある三階建ての旅館のようなところなので圧倒される。エントランスの上部――二階部分――には竜の木彫り装飾付きのバルコニーも設置されていた。ここが最強パーティー《エンペラー》の宿舎なのか……。
「どうしたのだろうか、ウォールどの?」
「……い、いや、なんでもない。行こう」
これくらいのことでいちいち動揺してたら田舎者だと思われそうだし自信を持とう。これは俺のSランクアビリティ【盗聖】が勝ち取った結果なんだ。対象から一番大事なものを盗むことができるっていうとんでもない能力なわけだからな。
「……」
宿舎の中はさらに豪華で、この赤い絨毯の道を歩くだけで料金を取られるんじゃないかと思えるほどの華やかさだった。
厳然と見下ろしてくるシャンデリア、不遜なまでに大きく捻くれた螺旋階段、今にも額縁から飛び出してきそうな誰かの肖像画、広さや奥行きを強調する幾つもの扉……俺が想像していたパーティー宿舎のクオリティを遥かに超えてしまっていた。
「――ウォールどの、ここがメンバーの集う会議室だ」
「あ、うん……」
またしてもぼんやりとしてしまってたが、シュルヒの声で我に返る。それにしてもこの子、なんか淡白っていうか自分を押し殺してるような感じだな。
「あ、ちょっといいかな、シュルヒ」
「はい?」
「俺が新人といっても遠慮とかはまったくしなくていいから」
「……りょ、了解」
目を何度かまたたかせて意外そうな顔をしたシュルヒ。俺の恐ろしい能力からすると、もっと傲慢なやつを想像してたのかもしれない。
「新たなメンバーとなる者を連れて参った」
そう宣言してからまもなくシュルヒが扉を開けると、部屋の中央には大きな窓を臨む長方形のテーブルがあり、三人の男たちが向かい合う形で座っているのが見えた。
「よくぞ連れてきましたね、シュルヒさん。お手柄ですよ」
奥に座っていた長髪の男が立ち上がると、ゆっくりとした足取りで俺たちのほうに向かってきた。穏やかな口調といい朗らかな表情といい、物腰がとても柔らかそうだ。中央に複雑な模様が施された白衣と大窓から射し込む光が影響してか聖職者のようにも見える。雰囲気的に多分彼が《エンペラー》のリーダーなんだろう。
「どうも、俺の名はウォールといって――」
「――ええ、存じ上げてますよ。ウォールさん、ようこそ《エンペラー》の宿舎へ。私の名はバジルといって一応パーティーリーダーでして、そこに座っているのは左がエドナーさんで右がレギンスさんです」
「おう、よろしくなっ、ウォール!」
「ふっ……」
「……」
両極端な対応をされた。左に座っているエドナーというショートベストを着た短髪の青年は陽気で気さくそうな感じだったが、右の座席にいるレギンス――マントを羽織り仮面で目元を隠した男――は鼻で笑うだけでこっちを向くことさえもなかった。まあ俺はあくまで新人だしこういう塩対応も仕方ないか。
「ではウォールさん、パーティー契約を済ませるといたしましょうか」
「はい」
リーダーのバジルから差し出されたパーティーボードに手を置き、契約を済ませる。これで俺は晴れて誰もが羨む最強パーティー《エンペラー》の一員になったわけだ。自分でもまだ信じられない。俺はつい最近までノーアビリティと蔑まれていた男だからな……。
「レギンスさんのことは気にしないでください。彼はいつもああなのでね」
「は、はあ……」
「しっかし、随分見た目と能力がかけ離れてるやつが入ってきたもんだなあ。確か、一番大事なものを盗めるんだっけか? それならもっと山賊みてえに厳つい顔した大男かと思ってたぜ!」
「……」
エドナーがニヤニヤとした表情でからかってくる。まあ俺の普通すぎる容姿だと平凡な能力の持ち主には見えるだろうな。
「こらこら、エドナーさん。ウォールさんを怒らせたら、あなたの一番大事なものを奪われるかもしれませんよ……?」
「ひいっ!」
「あ、あはは……」
弄られてるようだが、これも新人に対する洗礼ってやつだろうから軽く受け流しておこう。
「ウォールさん、私たちで独自に調べさせてもらったのですが、あなたの【盗聖】というアビリティにはこの上なく期待しているのですよ。早速明日にでもダンジョンで試させてもらいますが……構いませんか?」
「は、はい……」
「緊張しなくても大丈夫です。すぐに慣れます。ここにいるだけでも……」
「……」
意味ありげに笑うバジル。ここにいるだけでも慣れる? どういうことだろう。それだけダンジョンで激しい戦いをするから精神的にも強くなれるってことかな?
「まあ今日はゆっくり休んでください。ある程度のことなら揉み消せますので、例の件は早く忘れてしまうことです」
「ど、どうも……」
そうだ、俺はごろつきとはいえ命を奪ったんだ。いつまでもいい子ぶらずに開き直らないとな。これからは《ハーミット》のウォールじゃなくて《エンペラー》っていう最強パーティーの一人なんだから……。
今すぐにでも早速セインとルーネに俺の力を見せつけてやりたいところだが、こっちから行くのはなんか小物っぽくて違う。それこそパーティー名通り皇帝のようにどっしりと待ち構えてやればいい。
「ではシュルヒさん、ウォールさんを部屋まで案内してください」
「……」
「シュルヒさん?」
「……あ、了解した……」
シュルヒ、どうしたんだろう? 今の彼女、なんかとても浮かない顔をしていたような気がする。心ここにあらずというか……。
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