ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し

文字の大きさ
上 下
22 / 50
第一章 隠者の目覚め

リスタート

しおりを挟む

「――ダリル、ロッカ、大変! ウォールがいないわ!」
「……な、なんだって?」
「ふぇえ?」

 慌てふためいた様子で入ってきたリリアを前に、食事中だったダリルとロッカがほぼ同時に立ち上がった。

「もしかしてあいつ、一人でダンジョンに行ったのかしら!?」
「……いや、そんなはずはない」

 ダリルが顎に手を置いて考え込んだ様子で呟く。

「じゃあ、どこにいるの!?」
「リリア、落ち着いて。ウォール君の性格からして、黙ってどこかに行くとは思えない」
「そ、それって、まさか……」

 あのときのことを思い出して、リリアの顔が見る見る青ざめていった。忘れもしない、ウォールが豹変したあの日のことだ。

「あのときのこと、まだ気にしてるとか……」
「……いや、ああいうことがあったからこそ、ウォール君には僕たちの気持ちが充分伝わってるはず。なおさら出ていくなんてできやしないさ」
「じゃあ、どうしていないのよ!」
「……そんなの、僕がわかるわけない」
「それでもリーダーなの!?」
「リリア……僕だって真剣に考えてるんだ! いい加減にしてくれ!」
「何よ!」
「二人とも、落ち着いてください」

 ロッカがリリアとダリルの間に立つ。そこにいるのは、いつものぼんやりとしたロッカじゃなかった。あの日、ウォールを止めたときのような神々しい風格さえあった。

「どうか、落ち着いてください……。なんとなくですが……街のほうに向かった気がします」
「「街?」」
「はい。あのとき……彼は自分と必死に戦っていました。自分の何かを抑えるために――」
「――そ、それじゃあ、まさかウォール君は……」
「ダリル、どういうことなの……?」

 何かを察したのかダリルがはっとした表情を浮かべるも、リリアはわけもわからずただ呆然とするだけだった。

「あの発作が起こって、それを抑えるために街に向かった可能性があるってことか。僕たちを傷つけたくないからと……」
「あ、あのバカ……。それじゃあ根本的な解決にはならないじゃないの……」

 それでもウォールならやりそうなことだと思って、リリアが声を詰まらせる。しばらく重い空気が続いたが、ダリルが思い立った様子で紅潮した顔を上げた。

「……まだ、まだ間に合うかもしれない。行こう!」
「う、うん。早く止めなきゃ!」
「はい、急ぎましょう」



 ※※※



「……精々、そこで怯えながら待ってるがいい。ノーアビリティーのウォール君」
「……」
「おい、返事くらいしろよこの……ひっ……?」

 何気なく見上げたら、鉄格子越しの憲兵がたちまち青い顔になって逃げて行った。無意識のうちに怖い顔になっていたのかもしれない。どうしてもあいつらのことを考えてしまうし。

『視野拡大』スキルでセインとルーネが抱き合ってるところを見たとき、俺はあいつらから一番大事なものを奪ってやりたいと心の底から思った。例の黒々とした嫌なものと同化するような感覚があったんだ。でも、これは何かに取り憑かれているわけじゃなくて、本心なんだってはっきりわかった。

 結局、人生なんて奪うか奪われるかなんだ。弱いから奪われる。奪われれば当然、不幸になる。俺の能力は決して弱くはない。むしろ滅法強い。だったらその力を使わないのはおかしい。もちろん、ダリルたちに迷惑をかけるつもりはない。個人的な恨みを晴らすだけさ。そのためにはまずこの檻から出ないといけないわけだけど……どうしようか。

 今度憲兵が来たら、隙を見て大事なものを奪ってやるか? 大抵は命だろうから、力尽きたところで鍵を奪い取ればいい。まだ俺のアビリティ【盗聖】については知られてないようだから好都合だ。

 待ってろ、ルーネ、セイン。お前らはもう俺の幼馴染でもなんでもない。この世に産まれたときから敵同士だ。俺が受けた屈辱を何倍にもして返してやるつもりさ……。

「――こ、こここっ……」

 なんだ? 兵士のうろたえた声が聞こえてくる。

「こちらですっ……」

 誰かが面会に来たんだろうか? まさか、ダリルとか。あの人、目つき怖いからな……。

「……」

 兵士とともに俺の前に現れたのは、騎士のようないでたちをした凛々しい女性だった。長すぎず短すぎのさっぱりとした髪型で綺麗な顔立ちをしていて、あまり表情もないけど見てるだけで気圧されそうになるほどの強そうな雰囲気を持っている。

 かなり目上な立場の人っぽい。なんでそんな人がこんなところにっていう疑問もあるんだけど……。

「案内ご苦労だった。さあ牢獄の鍵を渡せ」
「へ……?」
「聞こえないのか?」
「は、はいぃっ!」

 兵士があっさり鍵を渡してしまった。やっぱり、俺の考えに間違いはなかったみたいだ。威圧するような空気を纏って騎士然とした女性がこちらに迫ってくる。ま、まさか、そのままあの人に処刑されちゃうとか……ないよね。って、あれ……? 持っていた鍵で鉄格子を開けたかと思うと、跪いてきた。

「自分の名はシュルヒ。《エンペラー》の一員として、ウォールどのをお迎えに参った」
「え……えええっ……?」

《エンペラー》って、メンバー全員がSランクのアビリティを持ってるっていう、あの最強パーティーのことじゃないか……。俺がその一員になれるっていうのか?

「是非、貴殿のお力をお貸し頂きたい……」
「……」

 でも、よく考えたら俺のアビリティを欲しがるパーティーがいるのも当然かな。なんせ相手の一番大事なものを奪うことができるわけだから。きっと、どこかでその情報を掴んだんだろう。もしかしたら今回の件がきっかけだったのかもしれない。

「悪いけど、少しだけ考えさせてほしい」
「はっ……」

 俺は自分の汗ばんだ掌を見つめた。……これはいい機会じゃないかな? 心を鬼にするんだ。ダリルたちのところに戻っても、またあの発作が起こって大事なものを奪ってしまう可能性がある。それに、個人的な恨みを晴らすことで迷惑をかけるかもしれない。

 でも、あの《エンペラー》の一員になればこの力を遠慮せずに使えるし、色々揉み消せるんじゃないかな。人っていうのはとにかく印象に囚われるように思う。弱者には強く出るけど、強者には何もできない。弱者はどんな理不尽も飲み込むしかない。俺を受け入れてくれた《ハーミット》にそんな惨めな思いをさせたくないんだ。

「……シュルヒ、俺でよければ力を貸すよ」
「ありがたきお言葉。では、ご一緒に……」

 差し伸べてきたシュルヒの手を取る。その冷淡な表情とは裏腹に、彼女の手は凄く温かかった。

 ……ダリル、リリア、ロッカ、ごめん。俺を恨んでくれてもいい。どうか、俺の代わりに、もっといい人と巡り合えることを心から願っている。これから俺は《エンペラー》のメンバーとして新しく生まれ変わるんだ。新しい仲間たちとともに……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

処理中です...