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第一章 隠者の目覚め
キーマン
しおりを挟む『うぼあぁぁ……』
「ひゃあああっ!」
クローゼットに潜んでいたゾンビに飛び掛かられて、リリアが泡を吹きながら倒れてしまった。
『……お、おで……そんな派手に倒れるなんて、思わなくってよ……』
ゾンビが申し訳なさそうにしてるのがなんとも印象的だった。
彼らのようなユニークアンデッドは脅かしてはきても、こっちが攻撃しない限りは襲ってこないらしいからそこまで怖くないんだけどな。ただ見た目はやっぱりグロテスクだし、人によってはこういう反応も仕方ないか。
リリアにそんなに怖いなら【分身】で移動したらいいんじゃないかとアドバイスしたら、ずっと背負わせるなんて悪いからできないわよって断られたんだよな。割と重いのを自覚してるのかもしれないけど、結局こうやって俺が背負う羽目になるんじゃないか……。
「よしよし、ゾンビさんは悪くないよぉ。いい子いい子……」
『お、おで……なんか、体が熱くなってきたんだけども……?』
ボロ椅子に乗ったロッカに頭を撫でられてゾンビの体が消えかかってる……。おいおい、まだ話も聞いてないのに浄化されたら困る。
「おっと……まだ消えてもらっちゃ困るよ、ゾンビ君」
『う、うごぉ……』
お、ダリルがナイフを眼前に突きつけたら元に戻った。負の感情を呼び起こしたからだろうな。
『……だから、おで、なんにもしらねえって……』
「ふうむ……」
ダリルの石板に関する質問に対して、ゾンビは何度も首を横に振っていた。そのうち、振りすぎたのか捩じれて逆向きになってしまったが。
「このゾンビ君じゃないみたいだね、キーマンは……」
「うん」
「次行こぉ。ゾンビさんバイバイー」
『ば……ばいびぃ……うぎっ』
こっちを向こうとしたゾンビの首が捩じ切れてしまったところは、見なかったことにしておこう。次にここに来たパーティーは一段と怖い思いをするだろうけど……。
※※※
「うーむ。キーマン、見つからないね……」
「そっ、そうねえ……」
「ふわあ。疲れたぁ……」
「……ぜぇ、ぜぇ……」
多分、リリアの本体をずっと背負って歩いてる俺が一番疲れてると思う……。あれからリリアが起きた後、結局【分身】を使ってもらうことになった。リリアはそのおかげか大きな悲鳴をあまりあげなくなったし、同じように疲れるにしてもこっちのほうが大分マシだった。
「ダリル、前回もこんなに苦労したの?」
「いや、前回はそこまでじゃなかったんだ。今のようにきついって思い始める前にキーマンを見つけたから運がよかったんだよ」
「なるほど……」
「もうウォール君もここの空気に慣れた頃だと思うから言うけど、手分けして探すっていうのはどうかな?」
「うん、それがいいかな」
ダリルの提案にうなずく。ここ広すぎるし、もうそれしかないだろうな。
「ま、まあ仕方ないわね……」
リリア、【分身】じゃなかったら絶対賛成してなかったな。
「キーマンのゾンビさん見つけてくる!」
ロッカはすぐに走り出して闇の中に消えてしまった。度胸あるなあ。リリアなんて【分身】でも腰が引けちゃってるのに……。
「ロッカはもう行っちゃったけど……手分けして探すとはいえ迷子になる可能性があるから、みんなあまりこの辺から離れないようにね」
「「了解!」」
ダリルの一声で散り散りになる。俺はリリアの抜け殻と一緒だけど実質一人には違いない。さて、どこを探そうかな……。
「――ぎゃああああっ!」
どこからともなく男の悲鳴が聞こえてきた。そうか、ほかのパーティーとかもいるはずなんだよな……って、この声は、まさか……。
そう思ったときにはもう体が勝手に走り出していた。きっとあいつらだ、あいつらがいるに違いない……。
「……」
足音が近付いてくる。もうそろそろだ。適当にその辺の小部屋に入り、扉の隙間から様子を窺う。ここからだと誰もいない通路が見えるだけだが、扉さえ完全に閉じていなければ『視野拡大』スキルで周囲の状況を見ることができるはずだ。それでも結界の影響か、この程度の距離でも若干ぼんやりはしてるが……。
「――セイン、こんなことじゃいつここを攻略できるのかわかったもんじゃないわよ」
「でもよー……苦手なもんは苦手なんだからしょーがねえだろ……」
ルーネとセインだ……。やはり、俺の思っていた通りだった。表情までははっきりとわからないが、ルーネの後ろでセインが辺りをきょろきょろと見回しているのがわかる。こういうところは相変わらずか。そのせいでまだ三階層を攻略してなかったんだな。
しかし、さっきからなんだろう、この妙な胸騒ぎは。もしかして俺はまだ引き摺ってるのか……? いや、そんなはずはない。《ラバーズ》なんかより《ハーミット》のほうがよっぽど居心地がいい。
でも、それじゃあなんでこんなにも俺はむかついてるんだ。確かにセインにやられたことを完全に忘れられるわけじゃないけど、もう終わったことじゃないか。確かに色々あったけど、もう俺たちは大人だしそれぞれ別の道を歩めばいい。なのに、なんで……。黒々としたものが沸々と湧いてくる感覚がやたらと心地よくて身を委ねそうになる。
――奪え……奪うのだ……。
――あらゆるものを、この世の全てを……。
「ぐぐっ……」
俺は胸を掴んで耐えた。お願いだ、正気よ保ってくれ。もう二度と仲間を傷つけたくないんだ……。
『ファッファッファ……』
「はっ……」
白髪のゾンビが背中にもたれかかってきたが、今それどころじゃないんだよ。
「ひいいいいっ!」
「あ……」
タイミング悪くリリアが戻ってきたようだ。でも、今の悲鳴のおかげで正気に戻れた。よかった……。
「――出ていけよゾンビ野郎! もう二度と帰ってくるな!」
『フォッ!?』
ゾンビを部屋から追いだして扉を閉めた。これでよし、と。
「リリア、起きて」
「……ん、あっ……!」
リリアの頬を軽く叩いて起こしてやった。
「ウォール……ゾンビは? ゾンビはどこ!?」
「もういないよ。大丈夫」
「よ、よかった……」
リリアが涙ぐみながら抱き付いてくる。こんなに震えちゃって。普段の彼女が嘘みたいに人が違って見える。
「ウォールのことが心配になって、戻ってきたら……」
「そ、そうだったのか」
「うん……」
多分、俺が心配というより【分身】であっても一人だと怖いから戻ってきたんだろうな。
『――フォッフォッフォッ……』
「あ……」
「ひあああっ!」
またさっきのゾンビが戻ってきたのでもう一回追い出してやったわけだが、リリアはやっぱり気絶していた。しつこいゾンビだ。今度来たら頭を軽く叩いてやるかな……ん? 俺はそこではっとなった。
待てよ。そういえば、最初に出会ったユニークアンデッドのスケルトンが、キーマンは鍵のある場所から離れられないとか言ってたよな。
『――ファッファッファッ……』
少し経って例のゾンビはやっぱり帰ってきた。そうか、こいつがキーマンだったのか……。
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