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第一章 隠者の目覚め

エスケープ

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 右下の部屋を出ると、広い空間の奥に新たな石板が発生しているのがわかった。いよいよこの美術館――第一階層――ともお別れだな。時間的には短かったのかもしれないが、体感的には長く感じた。

「ふふん、早く乗ってみなさい、ロッカ!」
「う、うぅ……」

 リリアの妨害工作でロッカがなかなかダンジョンボードに乗れないでいる。別に乗らなくてもリーダーの近くにいればいいらしいんだがやっぱり気分的には乗りたいよなあ。

「こらこら、リリア。意地悪はそろそろやめたらどうだい?」
「ダリルの言う通りだって、リリア」
「わ、わかったわよ。ほら、早く乗りなさい!」
「ふふ……や、やぁあ!」

 今度は石板上で強制的なヌードショーの始まりだ。ほかのパーティーとか見てないからまだいいけどさすがに可哀想になってくる。ただ、ロッカは半べそかいてるわりにそこまで嫌がってないところを見ると……いや、これ以上妙なことを考えるのは彼女の名誉のためにもやめておこう。

 しばらくして見る見る周囲の景色が変わっていった。

 え、なんだ……黄昏? 赤く染まった湖に囲まれているのがわかる。

 俺たちのいる場所は……橋の上だった。外にいるのかと錯覚してしまいそうになるが、みんな石板の上にいるし二階層に転送されたのは間違いない。

「ここってどうやれば攻略……?」
「「「……」」」

 俺の問いかけに対して、みんな無言で首を横に振った。

 ……あー、そうか。自分で解決しなさいってことだな。普通に考えれば、この橋の上を渡っていけばいいだけのような。その先に石板があるかもしれない。でもそれだと簡単すぎるような気もするが……まあいいや。攻略に窮したらダリルたちがヒントをくれるかもしれないし。



 ※※※



「……」

 橋の上をずっと歩いてるわけだけど、いくら進んでも終わりが見えてこない。おかしいな。一体どれだけ歩けばいいんだ……。

「ウォール君、走るよ!」
「走るわよ、ウォール!」
「ウォールお兄ちゃん、走って!」
「……え……?」

 みんな急に俺の前に駆け足で出てきた。

 ま、まさか……。走りつつ恐る恐る振り返ると、三叉の槍を抱えた魚人の大群が迫ってきていた。

「――なっ……!?」

 転びそうになりながらも慌ててみんなを追いかける。いつの間にあんなに押し寄せてきてたんだ……。

 あれかな、橋の上を歩いてたらトラップが発動して一気に魚人の群れが発生したとか? 途中まではなんの気配もなかったしそうとしか思えないな。少しずつ増えてたならみんなも気付いたはずだし。あの量だとさすがに相手にするのは厳しそうだから逃げるしかなさそうだ。

「――くうぅ……!」

 畑で鍛えた体を奮い立たせてみんなに追いつく。スピードはそこまで出ないがスタミナは充分だ。でもこれってどれだけ逃げればいいんだ……?

 終わりがまったく見えない上に、魚人たちは猛然と迫ってくる。それもかなりの速さだ。魚の頭してるくせになんであんなに速いんだ……。

「――ウォール君、飛び降りよう!」
「……え?」

 ダリルが走りながら俺の横に並んできてとんでもない案を出してきた。ここから湖まで結構高さがあるんだけど……。それも、相手は魚人だから一緒に飛び込んできてさらにピンチになるんじゃ?

「このままじゃいずれ追いつかれてしまう!」
「う、うん」

 でも、よく考えたらこの階層を攻略してるダリルが言うんだ。あの湖は魚人たちにとって有害なものが含まれてるのかもしれない。実際、湖に魚人の姿は今のところ見られないし……。もうどうにでもなれ!

「――うおおおおっ!」

 橋の上から思いっ切りジャンプして飛び降りた。

「……ゴポッ……」

 ……け、結構深い。急いで水面を目指していると、みんなも飛び降りたのか波紋が立て続けに広がるのがわかった。有害どころか普通の魚の姿もあったことから至って平凡な湖っぽいし、あの魚人たちも飛び込んでこないか不安になる。

「――ぷはっ……」

 ダリル、リリア、ロッカ……別々の場所だけどみんないる。

 魚人たちは……? いた! でもまだ橋の上だ。口をパクパクさせながら俺のほうを見てる。身を乗り出すも飛び込んでくる気配はない。なんか足が震えてるし怯えてるっぽいな。まさか、水を怖がってるのか? 魚人が……?

 とにかく泳いで向こう岸へと行こうとしたわけだけど、あっさり着いてしまった。橋の終わりには石板も見える。あれだけいた魚人たちの姿もいつの間にかなくなっていた。これがこの階層のギミックか。あんなに歩いたのが馬鹿みたいだ……。

 お……みんなもようやく岸に上がってきた。

「ふぅ……。いやー、運がよかったね、ウォール君……」
「え?」

 ダリルが上がってくるなり妙なことを言った。

「だよねえ。まさか、魚人が泳げないなんて思いもしなかったわよ……」

 リリアまで……。みんなここを攻略してるわけだしこのことを知ってたんじゃなかったのか?

「もう死んじゃうかと思ったよぉ……」

 ロッカに至っては涙ぐんでるし芝居をしてる様子もない。一体どういうことなんだ……。

「みんな、ここのギミックを知ってるはずじゃ?」
「いや、僕たちが以前攻略したときは昼間だったからね」
「え……?」
「この階層は時間帯によってギミックが変わることで有名なんだ。僕たちが知ってるのは昼間のギミックだけなんだよ」
「な、なるほど……」

 だからあのとき俺の質問に対してみんな首を横に振ったってわけか。

「ちなみにダリル、昼間はどんなギミックなのかな?」
「ん、えっと確か……リリア、覚えてる?」
「あれ……あたしも忘れたわ。なんだっけ?」

 ダリルもリリアも忘れてしまった様子。それだけ今回のギミックの印象が濃かったってことかもな……。

「んとね……ウォールお兄ちゃん、私覚えてるよ」
「おお……」

 さすがはロッカ。Sランクアビリティ【維持】の持ち主なだけあって記憶も保ってたわけだ。

「橋をね、ゆっくり渡ると向こう岸の石板に到着する仕組みだったよ。少しでも急ごうとすると、いつの間にかスタート地点に逆戻りしちゃうの」
「へえ……」

 それはそれで面倒そうだ。ゆっくりだと魚人たちから逃げられないだろうし……。

「ああ、そうだったね、ロッカ。今回みたいに沢山は出てこなかったけど、魚人が面倒で見るのも嫌になったんだ……」
「そうそう。あたしもやっと思い出したわ。一匹でも結構手強いのよね、あれ……」

 ダリルもリリアも回想に耽ってる様子。それを聞くと、あのとき飛び込まなかったらどうなってたか考えただけで恐ろしくなるな……。
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