ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し

文字の大きさ
上 下
9 / 50
第一章 隠者の目覚め

副作用

しおりを挟む

 あれから七日くらい過ぎただろうか。俺の『視野拡大』スキルもかなりのレベルまで到達した。背後にいる者の姿や表情まではっきりとわかるようになって怖いくらいだ。

 リリアやロッカの悪戯には手を焼いていたが、最近はそれを未然に防げるようになった。それはそれで嬉しいんだが、アビリティ発現の兆候が未だにまったく見られなくて、正直焦っていた。最初の頃は閉じ込めることができていたマイナス思考も徐々に頭をもたげてくる。

「ダリル……俺、本当に覚えられるのかな……」

 いつもの見晴らしの良い場所に俺たちはいた。もう大抵のことはわかる。遠くで楽しそうにさえずっている鳥のくちばしの色や羽の模様まで。なのに、なんで……。

「ウォール君……。確かにここまで『視野拡大』スキルが上達しているのに発現してないのは想定外だけど、まだ可能性はある」
「……なんでそんなことがわかるんだ?」

 ダリルもリリアもロッカも『視野拡大』スキルがある程度進んだ状態でアビリティを発現させていると聞いた。この時点で発現させてないのは俺だけだ。それだけに、完全なノーアビリティだったという最悪の結末もあるように思えた。

「わかるからこそ言ってるんだ。知識を集めたからね」
「知識……?」
「リリアに弟子にしてほしいって言われたときは、まだ僕にはなんの知識もなかったから断ったんだよ。でも、あまりにもしつこかったから条件も出してる。アビリティについて書かれてる本を集めてきてくれたら考えるって言ったら、彼女がすぐに持ってきてくれた。中には古代語も含まれてたから解読するのに苦労したけど……」
「なるほど……」

 教会図書館でバイトしてたリリアならすぐ集められるだろうな。ダリルが行けば目立つし、フードを被ってたら怪しまれるしでリリアに頼むしかなかったんだろう。あいつ、今何してるかと思ったらまたキャーキャー言いながらロッカと追いかけっこしてる。よく飽きないな……。

「それでダリル、ほかにどんな方法が……?」
「ノーアビリティを覆す最終手段が、眠っている願望を呼び覚ますことらしい」
「眠っている願望……」
「ああ。でもそれにはリスクも伴うとか」
「リスクって……死ぬとか?」
「いや、そこまでのことじゃないけど、ちょっと正気じゃなくなっちゃう可能性もあるらしい。そこから先は何故か破られちゃって読めなくなってるけど……」
「……やろう」
「ああ、そのつもりだよ」

 ダリルは笑ってうなずいた。正気でなくなる可能性があるとはいえ、このままアビリティがない状態が続くほうがおかしくなりそうだ。何が何でもアビリティを発現させて早くみんなとダンジョンへ行きたい。



 ※※※



「……願望……潜在的願望……」

 この潜在的願望を引き出すことこそ、アビリティ発現に直結するのだとダリルは言っていた。目を瞑り、自分が本当に望んでいるのはなんなのかを探ろうとする。

「――ダメだ……見えてこない……」
「ウォール君、それなら自分が幼少のときから何を思って生きてきたのか、それを思い出すだけでいい」
「うん……」

 俺の幼少のとき、か……。そうだ。俺って喧嘩が弱くて、いつもセインやルーネに守られてたんだっけ。そのくせ、誰よりも強くありたいとか思っていた。とにかく負けん気だけは強かったんだ。父親を見返すためにも、強いアビリティを持つことを夢見ていたんだったな。

 ……なんだ……。何かが脳裏に浮かんできたと思ったら、自分を見下ろす父親の冷たい目だった。

『お前の躾が悪いんだ! 甘やかすから!』

 う……悲鳴が聞こえてきた。母さんの悲鳴だ……。見たくない、聞きたくない……。

 ……ん、誰だ? 俺に語りかけてくるのは誰だ……?

『ウォール』
『セイン? どうしたんだよそれ……』
『このナイフ、親父の形見なんだ……』

 もういい。あいつのことなんて思い出したくない。嫌だ。

『ウォール! 聞いてる?』
『なに? ルーネ』
『あたしね、大人になったらウォールのお嫁さんになってあげようと思うの……』
『ルーネって暴力的だから嫌だ……』
『もー、あたしがいないと守ってあげられないでしょ!』
『そんなの、アビリティ貰うまでの我慢だし……』

 やめてくれ、もう終わったことだ。やめてくれ……。

 畜生……何もかも手に入れてやる。何もかも覆いつくしてやる。俺が……この手で……。

「はぁ……はぁ……」
「ウォール君、大丈夫? かなり顔色が悪いけど……」
「……てやる」
「え? なんて言った?」
「う……奪ってやる……」

 なんだ、俺、なんでこんなことを。気が付いたら俺は月光のナイフを構えてダリルに襲い掛かっていた。

「ぐ……ウォール君……?」

 ナイフの先からポタリ、ポタリと赤い雫が落ちているのがわかる。ダリルは苦しそうに脇腹を押さえていた。やった、命中だ……って、俺何を考えて……? やめろ、やめてくれ……。

「やめてえええっ!」
「……あ……」

 リリアが涙を流しながらダリルの前に立ちふさがっているのが見える。俺、なんてことを……。ううう、鬱陶しい……。

「に、逃げっ……殺すうううう!」

 何度も何か所も刺して命を奪ってやる。俺の力を見せてやる。

「させません」
「うっ……?」

 リリアを刺す寸前のところで誰かに弾き飛ばされた。ロッカだ。こんなチビガキに不覚を取るとは……。

「どけ……ガキ……」
「どきません。あなたの相手は私ですから」

 なんだこいつ……いつもと様子が違う。リリアに脱がされてべそをかいているロッカではない。この妙な空気が気に入らないな。どいつもこいつも俺を愚弄している。舐められたら奪われるしかなくなる。だから奪うしかないのだ。

「ロッカよ……このナイフでお前の体のあらゆる箇所を刺し、蜂の巣にしてやろう」
「やってごらんなさい」
「うおおおおおおっ!」

 血まみれのナイフを掲げた俺の雄叫びによってロッカは気絶……しなかった。なんだこいつは。平静そのものだ。ハッタリだとでも思っているのか。

 ならば遠慮なくこの世で最も風通しの良い遺体に変えてやる。

「突き刺す抉る切り刻むっ!」

 体が熱い、軽い。突きや斬る動作をするたびにナイフが歓喜し、鋭さを増していくのがわかる。この幼子の血を一秒でも早く浴びたいのだと。なのに……全然当たらないのはどういうことだ。

「当たれ、当たれ当たれ……当たりぇえええっ!」
「当たりません」

 このガキ……ナイフがまったく怖くないというのか? 少しでも避けるのが遅れれば命が尽きるというのに……。死を微塵も怖いと感じていないかのような動きだ。まったく無駄がない。ふざけやがって。

「今です、ダリル」
「――はっ……」

 肩に強い衝撃が走った。しまった。夢中になりすぎていた。このガキは囮に過ぎなかったのだ。意識が遠くなっていく。無念、無念だ……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

処理中です...