ノーアビリティと宣告されたけど、実は一番大事なものを 盗める能力【盗聖】だったので無双する

名無し

文字の大きさ
上 下
6 / 50
第一章 隠者の目覚め

シークレット

しおりを挟む

「ふー……」

 訓練を終えて風呂に浸かるこの瞬間がなんとも幸せだった。ここに来てもう十日ほど経つのかな。最近は目に見えて自分の体が引き締まっていくのを感じる。最初の訓練でいきなり腰を痛めて何日か休んだが、今は嘘みたいに体がスムーズに動くようになった。

 ダリルによれば、第二段階の訓練にそろそろ移行できるとのこと。そこで上手くいけばアビリティ発現があるかもしれないっていうから楽しみだ。発現すると体中が熱くなる感覚に包まれるらしい。いやがおうにも期待で胸が高まる。

 あー、早くアビリティを発現させてみんなとダンジョンに行きたいもんだ……って、なんかのぼせてきちゃったな。そろそろ上がるか。

「「あ……」」

 風呂から出ようとするとダリルと鉢合わせしてしまった。

「ちょうどよかった。ダリル、第二段階の訓練っていつやるの?」
「ウォール君……。ちょ……ちょっと、今は考え事してるから……」
「え?」
「ととっ、とりあえず一人にしてくれ!」
「ダリル?」

 あっという間に風呂から押し出されて、戸が乱暴に閉められる。なんだ? ダリルの顔、真っ赤だったな。なんか嫌なことでもあったんだろうか。

 たとえば、リリアと痴話喧嘩とか? もしそうならフォローしとかないとまずいんじゃないかな。新人が出しゃばるなと思われるかもしれないが、男同士でないとわからないこともあるだろうし……。よし、そうと決まったら特攻だ。一気に風呂の戸を開け放った。

「ダリル、俺でよければなんでも話聞くよ」
「う……?」
「え……?」

 そこにいたのはダリルじゃなかった。豊かな胸の少女……。え、誰だ?

「――いやあああっ!」
「ぐわっ……」

 投げられた洗面器が顔面にヒット……した。



 ※※※



「ウォール様? 大丈夫でしょうか……?」
「あ……」

 気が付くとそこは俺の部屋で、側にはあの謎の少女がいた。どうやら彼女に洗面器を投げられた結果、気絶してしまったらしい。かなりのぼせてたしな……。

「なんともないみたいでよかったです……」
「だ、誰なんだよ、あんた……」
「……ダリルです」
「ええ……?」

 そこでダリルのアビリティが【反転】であることを思い出してはっとなった。

「つまり、性別逆転してたのか……?」

 というか性別だけでなく、姿も全然違う。そこにいるのは眼光鋭い短髪の男じゃなくて、気品漂うお嬢様然とした長髪の女の子だった。

「これがわたくしの本来の姿なのです……」
「そうだったんだ……」
「はい……」

 恥ずかしそうに顔を伏せるダリル。喋り方だけじゃなく、仕草とかも全然違う。まるで別人だ。何もかもすっかり反転しちゃってるみたいだ。

「このことはリリアもロッカも知ってるの?」
「はい、知っていますよ。仲間に隠し事はしたくないですから」
「でも、俺は知らなかったけど」
「……ごめんなさい。隠すつもりはなかったのですけれど、なんだかあえて言うのも恥ずかしくて……」
「……あ、いや、気にすることは……」
「……ぐすっ……」

 涙ぐんでるし、可哀想なくらい縮こまっててどうも話しにくい。こんなに綺麗な姿なのに男になっていたのはなんか事情がありそうだな。

「とりあえず男に戻って話をしようか」
「……よいのですか? ウォール様……」
「うん。そのほうが話しやすいだろうし」
「はい、ありがとうございます……」

 ダリルの姿が見る見る変わっていく。……いつものダリルだ。思わず目を擦って二度見してしまった。

「あはは……。なんか……あの子が迷惑かけちゃったね」
「い、いや、気にすることないよ」
「それならいいけど」

 苦笑するダリル。あの子って言い方、まるで他人事のようだ。同じように動揺してたのは俺の裸を見たときくらいで普通に別人っぽい。演じてるというより自然にスイッチが入るのかもな。

「迷惑かけたお詫びっていってはなんだけど、あの子のことを深く話そうと思う。聞きたい?」
「そ、そりゃ……」
「はは。男の子だもんね、ウォール君は」
「……」

 ダリル、なんか変な意味で誤解してそうだな……。

「あの子は王族の娘なんだ」
「えええ……?」

 どこか良い家のお嬢様っぽい感じは滲み出てたけど、まさか王族だったなんてな。

「みんなが羨む立場に見えるかもしれないけど、あの子はそれが嫌で仕方なかった。結婚相手も最初から決まってるようなものだし、ダンジョンどころか外出さえろくに許されない環境だったんだ」
「そりゃ、王族の子ならね……」
「ああ。だから思い切って家出したんだ。裸足で城から抜け出して、髪を切って変装までした。教会で洗礼を受けて、アビリティを授かったら夢にまで見たダンジョンへ行くつもりだった」
「……でも、ノーアビリティーだったと」
「そうそう。あの子、がっくりと膝を落としちゃってね。おまけに、そのことが原因で正体がバレたらしく、憲兵に追われる立場になっちゃうし。しかも、追手から逃げた先が盗賊たちの隠れ家、つまりここだったんだ」
「へえ……」

 本当に盗賊たちの隠れ家だったんだな。

「だからしばらく床下に隠れてたんだけど、ある日憲兵たちが大勢押し寄せてきて、みんな抵抗したせいでやられちゃって……でも、一人だけ瀕死になりながらも床下に潜り込んできてそこで巡り合ったんだ。有名な大盗賊で、ウェズナーって人だった」
「ウェズナー……」

 そういや、なんか聞いたことある。一際眼光の鋭い盗賊がいて、睨まれただけでしばらく動けなくなるほどだとか。ま、まさか……。

「ダリルの姿って、もしかして話に出てる大盗賊のウェズナー?」
「ああ。この経験がかなり影響したんだと思う。しばらく話してたんだけど、憲兵たちに見つかっちゃって……」
「ありゃりゃ……」

 憲兵だってバカじゃないし床下も調べるよな、普通。

「ウェズナーは囲まれてその場で処刑されてしまったけど、あの子を人質にするようなことは決してしなかった。凄く怖かったけど、思っていたよりずっといい人だったんだ」
「そうか……」
「それから憲兵たちに保護された結果、正体がバレちゃって城まで連れていかれることになったってわけ」
「……それで、よく逃げられたな」
「なんせ王族の娘だし、縄とかで繋がれるようなことはされなかったしね。逃げてもすぐ捕まえられるだろうと思って、舐めてたってのもあるだろうけど」
「実は凄くダリルの足が速くて、憲兵たちの目を盗んで一気に逃げてきたとか?」
「いや、遅いよ。凄く……」

 そりゃそうか。お姫様だしな。でもそれでどうやって憲兵から逃げ切ったんだろう。

「このまま帰りたくない。なんとか逃げなきゃって、そう思ってたら、体中が熱くなって……」
「それって、まさか……」
「そう。後天性アビリティ【反転】が遂に発現したんだ。気付いたときにはウェズナーのような姿になってて、周りにいた憲兵たちが怯んだ隙に逃げた」
「なるほど……」

 なんとなく、ここが幽霊屋敷呼ばわりされてた理由もわかったような気がする。偶然というより、彼女がそれまで経験してきたことが生きたんだろうな。変わりたいという願望が生んだアビリティなわけだ。

「なるほどなるほど……」
「「あ……」」

 俺とダリルの声が重なる。ドアの向こうから聞こえてくるのはリリアの声だ。いつの間に……。

「あら、もう話は終わったの?」

 急いでドアを開けるとリリアがにやけながら立っていた。その後ろには気まずそうなロッカもいる。盗み聞きに付き合わされた格好か……。

「話は聞いたわ。まさか、ダリルにそんな過去があったとはねえ……」
「え、リリアたちは知らなかったのか?」
「女の子なのは知ってたけど、実はお姫様だったとかは初耳よ」
「そうなのか……」

 男になることも【反転】があるからってことで説明がつくことだしな。よく考えると、何かきっかけでもないと話し辛いことかもしれない。

「なんか、とってもいい雰囲気だったけど、気のせいかしらねえ?」
「いい雰囲気って……そ、そんなわけないよね、ダリル……」
「そ、そうだね」

 呆れてダリルのほうを見るとはっとした顔で目を逸らされた。おいおい、なんだよその反応……。

「ヒューヒュー!」
「い、いや、違うって……」
「まあいいけど、ダリル。あんまり奥手だとあたしが貰っちゃうわよ? ウォールをこのナイスバディーで悩殺しちゃうんだから……」

 いやらしく足を上げて太腿を見せてくるリリア。最初はちょっと動揺してたんだが、慣れたもんで何も感じなくなってしまった。

「くう……。ウォール、少しは恥ずかしそうにしてよ。これじゃまるであたしがバカみたいじゃない! ほら、ロッカもやりなさい!」
「は、はぁい……」

 何故ロッカにもやらせるのか……。幼児虐待だろ……って16歳以上か。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

処理中です...