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第一章 隠者の目覚め

ファミリー

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 森林に囲まれた盗賊たちの隠れ家……と思っていた場所が、ノーアビリティの者たちで構成されたパーティーの宿舎だなんて思いもしなかった。

 しかも、俺を四人目の仲間として誘おうとして行き違いになっていたなんてな。まさか、俺のほかに三人もノーアビリティがいたとは思わなかった。

 というわけで俺はリーダーのダリルのパーティーボードに触れ、正式に《ハーミット》のメンバーとして宿舎に入れてもらったわけだが、外だけじゃなくて中まで植物がいっぱいだったのでまだ自分が外にいるような錯覚さえした。

 緑に囲まれた居間に案内されてダリル、リリア、ロッカの三人に目をやる。彼らからは珍種を見るような好奇の視線は感じない。こっちを注目してはいるが、俺のノーアビリティにというより俺自身に興味がある、そんな空気を漂わせている。そのせいか妙に居心地がよかった。珍しいと思っていたノーアビリティもここでは普通なんだ。

 そこで湧いてきた疑問がある。彼らはここで一体何をしているのか。ノーアビリティだと16歳未満だと判断されてダンジョンに通うこともできないからな。

「みんなはここで何を?」
「何をって、普通にダンジョンに通ってるよ」
「えっ……」

 ダリルの即答に戸惑う。

「いや、でもノーアビリティじゃ……?」
「確かにノーアビリティだったけど、今は違うんだ」
「ええ……?」
「みんな16歳のときに教会でノーアビリティの宣告を受けて、そこから紆余曲折あって今に至るんだよ」
「ってことは、遅れてアビリティが発現したってこと?」
「そういうこと。でも、自然にじゃない。それまでの積み重ね、すなわち努力のおかげだ」
「じゃあ、俺にもその可能性が……?」
「もちろんだ」

 一気に視界が開けていく感覚。でも、もし俺だけダメだったらっていう不安も生じてくる。何より疑問なのはもうアビリティがあるのにこんな辺鄙なところに住んでいて、なおかつ俺をわざわざ誘っているということ。ノーアビリティじゃないなら仲間なんてすぐ作れそうなもんなのに。

「……いつ覚えられるかどうかもわからないんじゃ、ほかの人を誘ったほうがいいんじゃ?」
「うん。誰もがそう思うだろうね。でも、なんでわざわざノーアビリティの君を誘ったのか考えてほしい」
「……うーん。ノーアビリティだった者同士の仲間意識、とか……?」

 思い当たるとしたらそれくらいだ。ノーアビリティがどういう扱いを受けるのかはよく知ってるし。彼らにもそういう辛い過去があって、洗礼によってすんなりアビリティを授かった者を仲間にすることに抵抗があるのかもしれない。

「まあそれも少しはあるけど、違う」
「じゃあ、一体……」
「ちょっと遠回しな回答になるけど、アビリティには先天性と後天性があるって知ってる?」
「……え、アビリティってそもそも先天性の独自スキルのことを意味してるんじゃ?」
「アビリティってのは後天性も含まれるんだ。先天性の意味合いのほうが強いけどね」

 初めて知った。でも、それが俺を誘った理由となんの関係があるっていうんだろう……。

「後天性は稀だから、ほぼ先天性の意味で使われるのはしょうがない。でも稀ってことは、希少性があるっていうこと。つまり、ほかの人に比べて独自でなおかつ強力なアビリティが生じる可能性があることを意味しているんだ」
「……な、なるほど……」

 じゃあ、俺のアビリティは後天性だから凄いかもしれないんだな。とはいえ、まだ発現してないからなんともいえないんだけど。

「俺を誘ってくれた理由はよくわかったけど、もし覚えられなかったら……」

 せっかくここに入っても、状況次第じゃまた捨てられてしまうんじゃないかという怖さもある。あんな惨めな思いは二度としたくないしな。

「君は何故最悪の事態ばかり想定するんだい?」
「……そ、それは……」

 ノーアビリティを宣告された直後の光景が浮かんでくる。思い出したくないのに……。

「自信なくて……」
「こら! そこの新人! あんまり弱気だと追いだしちゃうわよ!?」

 リリアが何故か太腿を見せつつ怒鳴ってくる。

「その台詞と太腿を見せることとなんの関係が……」
「わ、わからないの!? これはただのお色気サービスよ! ふん!」

 若干震えてるし、この子なりに弱気な俺を奮い立たせようと頑張ってるんだろうな……。

「ほら、ロッカも手伝いなさい!」
「はぁい。ウォールさん、見て……」

 ロッカにまで強要してるし、白いパンツまで見えちゃってるし……。てかこの子、16歳以上には見えないな。どう見ても9歳くらいに見える。

「ロッカ、あんたは見た目が幼女なんだから幼女らしく、ウォールさんじゃなくてウォールお兄ちゃんって呼んでなさい!」
「は、はぁい……」

 やはり見た目が幼女なだけらしい。お兄ちゃんって、なんか照れるなあ。

「ウォール君と大事な話をしているんだ。リリアもロッカも今は黙っていてくれ」
「わ、わかったわよ!」
「はい……」

 二人ともダリルに叱られてしゅんとしてる。ロッカは巻き添えを食らった形だから少々気の毒だけど……。

「僕たちはウォール君に何があったのかは知らない」
「……」
「きっと辛いこととか内に秘めたことが色々とあるんだろう。でも、それは僕たちも同じなんだ」

 あれだけ鋭く尖って見えたダリルの目が妙に優しく見えた。

「みんながみんな、ノーアビリティを宣告されたんだ。それで不安を抱えながらもここに集まった。そして、見事にアビリティを引き出している」
「俺にもできるでしょうか……」
「神様じゃないから絶対にできるとは言わない。でも、僕たちは引き出せる自信がある。そうじゃなかったら誘わないよ。それを信じてみる気はないかい?」
「……お願いします」

 熱いものがこみあげてきて下を向くしかなかった。

「……リリア。君が泣いてどうする」
「めっ、目にゴミが入ってきただけよ!」

 ダリルに呆れ顔で突っ込まれて、慌てて顔を逸らすリリア。ロッカがその横で口を押さえながら笑ってる。俺、ここにいてもいいんだ。自然とそう思える空間だった。
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