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百三十九段 ほんの少しだけ背筋が寒くなった
しおりを挟む「ただいま、みんな!」
「ただいまであります!」
「おかえりなさい、ご主人様ぁ!」
いの一番にラユルが飛び掛かってきたかと思うと、俺の足に頭を擦りつけてきた。
「ね、猫かよ。ラユル……」
「はい、猫さんです! ニャアン……」
「……」
じっとりとしたものが絡みついてくるのを感じて、粘っこい視線を恐る恐る辿るとみんなニヤニヤした顔でこっちを見ているのがわかった。やっぱりなあ……。
「あ、それとグリフさんもおかえりです!」
「あ、どうもであります……」
「あはんっ……」
ラユルのやつ、グリフが俺と同じく生真面目だとわかったのか、お尻を向けると同時にウィンクして色仕掛けしてやがる……。
「……う……」
グリフは既に顔真っ赤で目は明後日の方向を向いていた。幼女同然のラユル相手にこの態度。こいつの女の子耐性のなさは俺以上だからなあ。
「ちゅっ……」
ラユルのやつ、投げキッスまでして調子に乗りすぎだろう。グリフを殺す気か……。
「こらこら、ラユル。からかうんじゃないぞ」
「えへへっ……」
「おかえり、シギルさん! それにグリフ!」
「……あ、アシェリどの……」
グリフがはっとした顔になった。今度はアシェリが俺たちの前に来たからだ。相変わらずの巨乳で目のやり場に困る。俺は少しは耐性ができたがグリフは目を泳がせている。
「あいつら、やっつけたんだろ。あたしもざまーみろって言ってやりたかったなあ」
「あ、ああ」
さすがにあれを見たら楽天家のアシェリもトラウマになりそうだが……。
「しっかしグリフは頭だけじゃなくて腕も包帯グルグルで痛そうだねぇ!」
「……へ、へっちゃらであります、アシェリどの……イテテッ」
言った側からグリフが顔をしかめて笑い声が上がる。本当に折ったわけだし、ちょっとでも力むとかなり痛いだろうな。
「シギルどの、おかえりなさいませ……そ、その……」
次にリリムが俺たちの前でひざまずくも、何か言いたげに口ごもった。なんだ?
「リリム、何か言いたいことがあるんだったら話してくれ」
「……えっと、そのグリフという殿方についてどうするおつもりなのかと……」
「ああ、こいつ雑用係の補欠でいいからここにいたいってさ。恩返ししたいんだと」
「なるほど……グリフどの、よろしくであります」
「よ、よ、よろしくでありまあす!」
グリフが甲高い声で言ってまた笑い声が上がる。これなら異論は上がらなさそうだな。なんていうか笑いのツボを心得てるし、アシェリと並んでいいムードメーカーになってくれそうだ。
「シギル様、おかえりなさいませ……。ずっとお待ちしていたのですよ……」
「ウニャー!」
「ひゃっ?」
今度はティアが陶酔した表情で前に出てきたわけだが、彼女の床につきそうな長いツインテールに黒猫のミミルが飛び掛かり、じゃれ始めたので溜まり場は笑いの坩堝と化してしまった。
「……はあ。お姫様モードで落とそうと思ってたのに台無しです……」
ティアのやつ、露骨に落胆してるが何考えてたんだか……。
「えっと、グリフ様もおかえりなさいませ」
「あ、あ、ははいでありますす……」
ん、グリフがやたらと動揺してるな。そういやこいつ大人しいタイプの女性が好きだって言ってたしティアは好みかもしれない。ただ、彼女は大人しいが結構癖があるんだよな……。
「おかえりなさい、シギルさん。見たかったなー、戦ってるところ……」
「……アローネ。俺も見せたかったが、グロいから止めたほうが」
「あら。私はそういうの割と耐性あるほうよ?」
「あはは……」
とはいえ、見せずに正解だった。さすがにエルジェにしたようなことはアローネたちの前じゃできないからな。
「グリフさんも、おかえりなさい。これからよろしくねっ」
「……は、はい……であります……!」
グリフ、急に汗ダラダラになった。アローネの前だとまるで蛇に睨まれた蛙だ……。
「シギルお兄ちゃん、グリフおじさん、おかえり!」
「どど、どうも……」
最後はセリスだ。とびっきりの笑顔で迎えてくれた。グリフは後遺症を引きずってるっぽいが。それにしても、みんな前に出るときこれだけ被らないってことは、みんなちゃんとジャンケンかなんかで順番を決めてるんだろうな。
「セリス、元気にしてたか?」
「うん! 仇、取れた?」
「ああ、いっぱい取れたよ」
「わー、凄ーい!」
「ウニー」
ミミルを抱えてはしゃぎまわるセリス。ビーチでの修羅場が嘘のようにここは平和だった。
……あ、そうだ。肝心なことを忘れてた。
「セリス、リセスお姉ちゃんは起きた?」
「ううん。まだみたい」
「そっか……」
まだ寝てるのかな。リセスが起きたら本当の体を探しに行かないと……。
「師匠ぉ、レイドさんまた眠っちゃったんですか?」
「ああ。そうみたいだ」
「……なんかレイドさん、いなくなること多いですねぇ……。まさか、成仏しちゃった、とか……」
「こらこら」
「あぅっ……」
ラユルのおでこを若干強めにチョップしてやる。
「戻ってくるさ。近いうちに、また必ず……」
「はぁい、師匠ぉ……。あ、今下になんか落としましたよっ!」
「えっ?」
身を屈ませた途端、ラユルの唇が頬に当たる。
「隙ありです、師匠ぉ!」
……やられた。まあいいよな、これくらい……。
――シギル兄さん……浮気はほどほどにね……。
「……」
どこからともなくそんな声が聞こえた気がして、ほんの少しだけ背筋が寒くなった。
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