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百三十一段 修行は続けてこそ意味があるんだ
しおりを挟む「……」
グランテの邸宅内の子供部屋でリセスが起きたのは、深夜の二時を少し過ぎたばかりの頃だった。
「準備、出来てる?」
「はい、レイド様」
立ち上がったリセスの背後でひざまずくリカルド。その横にはロープで縛られて豪快にいびきをかく監視役ガーディの姿があった。
「リカルドの弟分、よく寝てるね……」
「ほかにも何人かいたグランテの子分同様、少々酒を飲ませておいたので。メモリーフォンも全て没収しておきました」
「抜かりないね」
「レイド様のほうこそ……少々悪戯を仕掛けようとしましたがまったく隙がありませんでしたよ」
「腕は落ちてないでしょ」
「はい……」
「修行は続けてこそ意味があるんだって公言するくらい修行好きの冒険者がいて、その人を手伝ってたからね」
「……なるほど。何か言葉に艶がありますね。もしや恋人ですか?」
「余計なこと聞かないの」
「……はい」
リセスが行動するのに深夜を選んだのには色々わけがあった。
深夜ということで子供は寝ているので騒がれずに誘導しやすいし、誘拐犯の仲間がほかにいたとして殺すことになった場合、トラウマを植え付けなくて済む。さらにこの時間帯は見張りがいた場合でも緩くなっているはずで、【ディバインクロス】への連絡をなるべく阻止しようという狙いもあった。
もしセリスを助けたことがバレてしまえば、彼らはシギルの報復を恐れてダンジョンから離れてしまう可能性が高いとリセスは考えていたのだ。
「起こさないように、そっとね」
「はい」
子供を一人ずつ抱えて庭の片隅にある物置小屋に隠すリカルド。
「終わりました」
「はやっ……」
気配を消せるだけではない。一切の無駄がないのだ。リカルドの動きには。彼が戦いにのめり込めばクエスをしのぐほどの存在になりうるだけに、尾行や情報収集係だけで終わるのは惜しいともリセスは思った。ただ、彼には闘争に対する興味は今のところほぼなかった。
「さて、あとはグランテを殺すだけね」
「それが、厳重なのですよ」
「……だろうね」
リセスたちはこれから誰にも気づかれずにグランテを殺す必要があったわけだが、彼は昔から用心深いことで知られていて、眠るときも必ず密室の中で寝ていたのだ。
「小窓とかないの?」
「あるにはありますが、レイド様の今のお体でも入るのは難しいかと……」
「それじゃ、黒猫のミミルに《憑依》してから入るよ。それでグランテの喉笛を噛み砕く」
「なるほど……」
「……あれ、ミミルどこ……」
リセスの側で丸くなっていたはずの黒猫ミミルだったが、いつの間にかいなくなっていた。
「――誰かをお探しかな……?」
「……あ……」
月明かりに照らされた庭に不気味な影が侵入する。そこにいたのは、満面の笑みを浮かべるグランテだった。その両手にはミミルが抱きかかえられていた。
「セリスちゃん、こりゃまた随分勝手なことをしてくれるじゃないか……。わしも勘が鋭いから、大事な猫をマタタビで誘き寄せておいて正解だったな……?」
「み、ミミル……」
「ミミルちゃん、可愛いねえ、んー……」
「ウニャー」
グランテがミミルに頬ずりする。
「お願い、殺さないで!」
「……殺さないでだと? 逃げようとしたくせに調子いいものだ……。大事なものを失う痛みがどれほどのものか思い知りなさい。このバカガキめが!」
「ニィ……? ニギャアアアッ!」
グランテが目を剥いた直後、ミミルの悲鳴とともにメキメキと骨の軋む音が響き渡った。
「……ごっ……?」
喉仏を押さえるグランテ。その足元にはリセスが投げた花瓶の欠片が転がっていた。
「お手伝いします」
「……ぬうっ……」
さらにリカルドによる顎先への打撃によってグランテは気絶し、仰向けに倒れてまもなくリセスに頸動脈を切られて絶命した。
「――み、ミミル! ミミルは……」
「ここに。ですが、もう……」
「……ニィ……」
リカルドからぐったりしたミミルを受け取るリセス。まだ生きてはいたが、既に息も絶え絶えになっていた。
「シギル兄さんなら……助けられるから……」
「……シギル? まさか、例の修行好きとかいう……」
「うん……」
「……これを救える者がいるとは……」
◆◆◆
「――あぅ!」
トイレの個室の床でうずくまるようにして寝ていたラユルだったが、体全体が揺れるほどの強い振動で一気に目を覚ました。何か連絡があればすぐ起きられるようにメモリーフォンのバイブレーションの強度を上げていたのだ。
「……どきどき……」
それでもまさかここまで揺れるとは思わなくて、さすがは最新式のメモリーフォンだと感心した直後、ラユルは画面を見てはっとした顔になる。
「うひっ!?」
「ぬお!」
「ひょえっ……」
「な、な……?」
その威力は同じように設定してから近くで寝ていたアシェリ、リリム、ティア、アローネの四人にも存分に伝わっていた。
「あ、みなさん起きてたんですね!」
「ど、どうしたんだい……ふわあ……」
「い、今のは……。一体どうしたというのだ……」
「……何かあったのです……?」
「ラユルちゃん、まさか誰かから連絡が……?」
「は、はい、そうなんです! レイドさんがセリスお姉さんを無事助けたそうなんですが、ミミルちゃんが巻き込まれちゃって重傷みたいで……!」
「「「「えええ!?」」」」
「なので、町の外で待っているから至急師匠を連れてきてくださいって!」
回復術士のティアではなく、シギルを呼ぶということがどんな意味を持つのか、それは彼と一緒に戦ってきた彼女たちにはよくわかっていたのである。
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