128 / 140
百二十八段 会話が成立しない
しおりを挟む「それじゃ、子供たちを頼んだよ、ガーディ、リカルド」
「へい!」
「了解しました」
ステッキをついたグランテに笑顔で見送られ、町の外へと出発する監視役の男二人と黒猫ミミル、セリスを含む少年少女たち。町の中で騒げばお仕置きするとガーディに言われているので、子供たちはみな緊張と喜びが入り混じった顔をしていた。
「ウニャー」
「リセスお姉ちゃん、もう少しの我慢だからね……」
「……ウニィ?」
セリスが抱えたミミルに小声で話しかけるが、今の宿主はミミルでありもうリセスは体を制御できなくなってしまっていた。ついに起きてしまったのだ。
『ミミル、もうちょっとだけでいいから寝ててほしいんだけど……』
『……ウニャー?』
リセスが藁にも縋る思いで話しかけるが、猫はやはり心の中でも猫であり、言葉はまったく通じなかった。行き場のなくなった彼女の苛立ちは、リカルドという頬傷が目立つ剣士風の男の背中に向けられる。
『……リカルドのバカ。あんな男の部下になってたなんて……』
華奢で長髪という、一見すれば女性のようですらあるリカルドは殺し屋レイドの助手だった。物静かな雰囲気そのままに気配を消すことに優れており、ダンジョンにおける標的の情報収集係を担当していたのだ。剣士としての腕も相当なものだが、ダンジョン攻略にはほとんど興味がないという一風変わった男だった。
――やがて町の外に到着したが、もう辺りは夜の顔を見せ始めていた。
「いいか、よく聞け。暗くなる前にすぐ帰るからなクソガキども。思いっ切り遊べるのは30分だけ――ってお前ら!」
ガーディの言葉を最後まで聞くことなく、子供たちは黒猫とともに歓声を上げながら各々走り回っていた。それまでいた家の庭も結構な広さを持っていたとはいえ、町の外は別格だったのだ。
「少しでも逃げる気配を見せたら、ぶち殺してやるからな! いいか、皆殺しだぞクソガキども! ……リカルド兄貴もなんか言ってやってくださいよ」
「……僕は怒るのが苦手なのですよ。要は子供たちが逃げないようにすればいいのでしょう?」
「え、まあ――あっ……」
次の瞬間にはガーディの目が大きく見開かれていた。すぐ近くにいたはずのリカルドが、ここからかなり距離のあった子供たちの輪の中に既に入ってしまっていたのだ。
それからまもなく彼が鬼役になり子供たちと鬼ごっこを始めたわけだが、スキルも使っていないのに一瞬で全員捕まえてしまった。
「すげえ……。リカルド兄貴速すぎだろ……」
「「「「「はやーい!」」」」」
「はははっ……」
実際はそこまで速いわけではないのだが、リカルドが気配を消したためにガーディや子供たちにとっては彼があたかも瞬間移動したかのように見えてしまっていたのだ。
「ほらっ、ガーディお兄ちゃんも早く来てよー!」
「え、クソガキども、俺はいいって!」
「「「「「はやくはやくっ!」」」」」
「ちょっ……」
セリスを筆頭に子供たちに押されるガーディ。次は彼が鬼役になって子供たちを追いかけ始めたのだが、誰も捕まえられずにとうとう倒れてしまった。
「……く、クソガキども、覚えてろよおぉ!」
あどけない笑い声が次々と上がる中、ガーディの叫び声が虚しく響く。
『……お願い、ミミル。私に体を譲って……』
『……ウニャー?』
その一方でリセスもまた懸命になっていたが、身軽に跳ね回るミミルの心を捕えることは未だできずにいた……。
◆◆◆
激怒状態のボスが消えた直後、地面から次々と羽衣を着た赤いゾンビが這い出てきた。こりゃ凄い数だ。ボスと同じ姿だし、おそらく分裂したんだろう……。
「ご、ごめん……僕のせいでややこしくしちゃって……」
「仕方ねえよ、ビレント。糞のシギルがそもそも悪い!」
「そうよ、ビレント、気にしないで。みんなこの汚物のせいだわ!」
「……」
……なんでそうなるんだ? あれか、ビレントが俺に活躍させまいとしてボスを攻撃したから俺のせいってか。無茶苦茶にもほどがある……。
「うらあああああっ!」
「来ないでよおおお!」
「死んじゃえええ!」
ルファスたちがばっさばっさとゾンビたちをなぎ倒していくが、減る気配がまったくなかった。倒した分近くですぐ復活してまた襲ってくるような感じなんだ。
俺はというと、周りを見渡すことなく近寄ってきたゾンビだけ倒していた。足元から伸びてくる手も瞬時に破裂させる。目玉猿のおかげで俺の感知能力は相当鍛えられたからな。
「いやああ!」
あ……エルジェの足をゾンビが掴んだ。足元湧きしたんだ。
「この野郎!」
ルファスがゾンビの腕を切断するが、手首だけしつこくエルジェの足首を掴んでいて、まるでその部分が意志を持ってるかのように細い体を一気に駆け上がり、首を絞め始めた。エルジェの顔が見る見る紫色になっていく。なんという力、執念だ……。
「ぐぐっ……」
『《微小転移》!』
俺が手首を木っ端微塵にしてやった。こんなところで死なれたら困るからな。
「……おい! 俺がやろうとしてたんだから余計なことすんじゃねえよ糞シギル!」
「ルファスの言う通りだよ。シギル先輩って本当にゾンビ並みに邪魔だね!《ホーリーブレス》!」
ルファスとビレントがモンスターを倒しつつ罵倒してきた。俺なんか悪いことしたっけ……?
「……ぐえっ、こほっ、こほ……」
「……」
四つん這いになって咳き込むエルジェ。この様子だとしばらく立てないだろう。結構強い力で絞められていたから、少しでも手首を破壊するのが遅れていたらやばかった。
まあこいつらには何を言っても無駄だろうけどな。俺をとことん貶したいのか会話が成立しないし……。
11
あなたにおすすめの小説
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~
軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。
そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。
クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。
一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる