115 / 140
百十五段 今度こそカタをつけてやる
しおりを挟む「あー、もう、むしゃくしゃするうぅぅ!」
翌日の午前九時、溜まり場のベンチに座っていたエルジェが溜息をつくと堪らず立ち上がった。
「クエスさん、今度こそあいつをぶっ殺……じゃなくて、シギってください」
「わかったわかった、早いうちにやるさ。まあ向こうから来るだろうよ」
クエスは苦笑いで返しつつ確信していた。必ず転移術士のシギルは自分から再戦を求めるためにここに来ると……。
「《ヒール》! エルジェ、悔しいのは僕も一緒だよ。でももう少しの辛抱だから……」
ビレントが回復魔法で支援してもエルジェの表情は冴えないままだった。
「わかってるんだけど、あいつの得意顔を思い出しただけでもう心がシギれそうになるほどイライラするのよ。クエスさんに負けそうになったからって仲間に《無作為転移》ってのを使わせるとかさ……本当にどうしようもない卑怯者よ!」
「うん、僕もそう思うよ……。でもそれだけシギル先輩をシギったときの快感は上がると思うから……」
「その瞬間、頭の中バラ色になりそうよね。シギル、見てなさい……最後に勝つのは正義なんだから!」
両手に握り拳を作るエルジェ。脳裏には自分たちの勝利した姿が、目には感動の涙が浮かんでいた。
「なんか僕までジーンとしてきちゃった……。《無作為転移》ってのも使えないようになったし、今度こそクエスさんがやっつけてくれるよ」
「……うん」
エルジェが涙を拭って微笑んでみせた。
「ほらグリフ、あんたもなんか言いなさいよ。そんな調子じゃまたルファスに蹴られちゃうわよ?」
「は、はいであります、シギルを殺してほしいのでありますっ……」
「グリフ、そこはシギるって言わないとルファスにダメだしされちゃうと思うな、僕はっ……」
「し、シギルをシギってほしいのでありまあああす!」
「「ぷはっ!」」
グリフの言い方があまりにハイテンションだったので、エルジェとビレントが堪らず噴き出した。
「……あー、もうグリフのバカァ。あんまり笑わせないでよ……」
「ひー……。グリフ最高……って、あれ? ルファス……?」
違う意味で涙を流すビレントだったが、さっきからルファスがまったく笑っていないことに気付いた。ベンチで大の字になり天井を見上げるいつものスタイルだったが、眠っているわけでもなく目を開けていたので尚更不可解だった。
「ルファス、どうしたの? ぼーっとしちゃって……」
エルジェもそれに気付いて笑うのをすっかり止めてしまった。
「いや、考えをまとめてたんだ。もう結論は出たしこれからお前たちにあることを話そうと思ってる」
「え、何よ、急に改まっちゃって……」
「《ヒール》! なんかルファスらしくないよ……」
「いいから聞けって……」
◆◆◆
「えー!? いいのぉ……?」
「ああ、いつも見送ってもらってたからな。プレゼントだ」
溜まり場に来たセリスに、メモリーフォンから取り出したばかりの包装箱を渡す。中身は開けてからのお楽しみ。黒猫ミミルへのプレゼントは新鮮なマグロの缶詰だ。
「ありがとおー! 何かな何かなぁ――……わあぁ! 最新式のメモリーフォンだあっ!」
「ウニャアー」
みんなが笑う中、セリスはミミルを抱えて楽しそうに踊り出した。俺も含めて全員購入したからセリスにも買ってやったんだ。彼女も立派な仲間だからな……ん? ふと我に返ったように真顔でこっちを見てきた。どうしたんだろう?
「……こんなに凄いものをプレゼントしてくれて本当にありがとう。でもね、シギルお兄ちゃんやリセスお姉ちゃん、それにアローネお姉さん、ラユルちゃん、ティアさん、リリムさんが無事に帰ってきてくれたことのほうが何より嬉しいよ……」
「……そうか」
少し感動してしまった。セリス、こんなに小さいのに泣かせることを言うじゃないか……。
「うぅ、セリスお姉さん、私泣いちゃうでしゅ……」
「ラユルちゃん、ママの胸で泣きなさい……」
「はぁい……」
ラユルのやつ、すっかりアローネに手懐けられてしまった様子。
「ぐすっ。泣かせるねえ……って、セリスちゃん、あたしを忘れてないかい!?」
「あっ……アシェリさん、ごめんなさい!」
「「ププッ」」
リリムとティアが噴き出している。ま、まあ悪気はなかったんだし……。それより、リセスのことを言うべきか迷う。義理とはいえリセスとセリスの二人は姉妹の関係だからな。ただ、言ってしまうと折角喜んでくれてるところに水を差してしまう形になるだろうしな……。
……よし、やめとくか。仲間に対しても、俺が自分で殺したくなったから途中でレイドに交代してもらったって説明しちゃったからな。それにあいつが完全にいなくなったなんて俺も思ってないし。きっと一時的に眠ってるだけなんだ……。
「そろそろ行くか」
俺はみんなと顔を見合わせてうなずいた。午前十時の鐘がもうそろそろ鳴る頃だからな。それまでにあいつらの溜まり場に行かないと。
「え、みんなもうダンジョンに行くの?」
「ああ。セリスはそのメモリーフォンでお絵描きでもしててくれ」
「うん! ……でもその前にミミルと一緒にお見送りに行くよ!」
「い、いや、今日は大丈夫だ。ちょっと様子を見に行くだけですぐ戻るからな」
「そっかあ。じゃあここで待ってるね!」
まだ決闘は終わってない、なんてとてもじゃないが言えないからな。結果が伴えば俺たち全員誰も傷つかない優しい嘘だと言えるだろう。さあ、今度こそカタをつけてやる……。
11
あなたにおすすめの小説
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる