110 / 140
百十段 お前たちもいずれこうなる運命なのだ
しおりを挟む「それじゃ、そういうことで」
「しょ、承知したのであります……」
同盟を組んだ【ディバインクロス】のリーダー、グリフが俺から離れて仲間の元へと歩いていく。やつの背中に担がれた十字盾がやたらと小さく感じた。グリフがあそこで立場をなくしているのはわかるが、それでも同情できない。俺としては憎いやつらの一人にすぎないからな。
ただ、敵同士とはいえ強力なモンスターがうようよする場所でやり合うのだけは避けたい。それだとボスの出現も相俟って双方全滅という最悪の事態もありうるからだ。
というわけで俺たちはここから出るために一時的に協力し合うことにして、パーティーは三つに分かれた。俺の単独パーティー【シギルとレイド】、アシェリ、リリム、ティア、ラユル、アローネの【スターライト】、それにグリフ、ルファス、エルジェ、ビレント、クエスの【ディバインクロス】、この三つのパーティーで同盟を組んだというわけだ。
同盟は最大で三つまで組むことができ、その場合各パーティーの金銭獲得設定等が共有されることはない。それでも、ボスを倒した場合討伐に関わらなかった同盟パーティーもその場にいればクリアしたとみなされるのである。
ただし、最上級階層だった場合は倒したパーティーのみが最高到達者として巨大掲示板でクローズアップされるため、実力のあるパーティー同士がボスを倒すために協力し合うことは滅多にないらしい。
「――さあ、行くわよ……!」
打ち合わせ通り、みんなでせっせと山のように枝を集めてこの空間の中央に置くと、エルジェが《ヒートピラー》を放った。天にも届きそうなほどに勢いよく燃え上がっている。こりゃ最高に目立つな。さあ、これからいよいよモンスターの解体ショーが開催されるってわけだ。
ただ、それは化け物どもにとっても同じことらしい。人間の踊り食いを始めようと、続々と周りに集まってきているのがわかる。うわ、凄い数だなこれは……。
この階層のモンスター、目玉猿には色んな性格、属性があるわけだが何度も戦うことで見えてきた最大の特徴は仲間同士で協力し合うことなんだ。なので数がいればいるほど厄介な敵になる。だから俺たちも結束することが重要になるだろう。【ディバインクロス】のやつらと協力し合うのは癪だが、こうなったは原因は俺のほうにあるし文句は言えない。弟子の責任は俺の責任だからな。
――無限を感じるほどの重い静寂のあと、周囲が漆黒に包まれた。目玉猿たちが四方から一斉に飛び掛かってきたためだ。
「《テレキネシス》!」
ラユルの無属性魔法が暗黒を打ち破る。
……相変わらず凄まじい威力だ。飛び掛かってきたモンスターたちは跡形もなく消滅してしまっていた。【ディバインクロス】のところにいるモンスターまで吹き飛ばしてて笑ってしまう。俺の仲間だけじゃなく、あいつらも苦笑を浮かべるクエスを除いて一様に呆然としてるのが面白かった。
ただ、周りにはまだうじゃうじゃいるから油断できない。もう少し魔法の威力をセーブしてくれたらいいんだがこれこそがラユルだからな。早速眠そうに座り込んじゃってるし、超短期決戦向きなんだ。火も枝も今ので消し飛んでしまったので、またみんなで枝を集めてエルジェが点け直す格好になった。
それからしばらくして、目玉の怪物どもがさっきと同じようにあっちこっちから飛び出してきた。そこでエルジェの《ウォータークラッシュ》が炸裂し、ほとんど俺たちに近付くことなく倒れていった。火を焚いている状況でこれをやるってことは相当腕に自信があるんだろう。ある意味ラユルに対しての嫌味とも取れるな……。
それでも上手く掻い潜って近寄ってくるモンスターはルファスがきっちり仕留めていた。やつに飛び掛かる目玉猿たちが一撃で肉塊になってしまうほど桁外れの強さだ。しかもあいつ、攻撃するときくらいしか動いてないな。昔はいちいち走り回ってた印象だったが、それだけ成長したんだろう。《ラッシュアタック》の必要性すら感じなかった。
ビレントも術の切れ目を見計らうかのようにきっちりと味方に支援を重ね続けている。ティアが忘れた頃に支援を掛けてくる状況とは大違いだ。しかもその合間を縫うように上位の聖属性魔法である《サンクチュアリ》をやっているのも見逃せない。あれは周囲にいる味方の体力を回復しつつ、敵を著しく弱らせていく範囲魔法なんだ。要注意だな……。
さらにグリフが《ホーリーガード》をするタイミングも秀逸で、エルジェが魔法を唱えた直後にやっているのがわかる。魔法を唱えたあとが一番隙が出来るためだが、あれをほぼ同時にやると味方の体も硬直してしまって魔法の発動が遅れてしまうことがあるんだ。それで昔エルジェによく叱られていたのを思い出す。
殺し屋クエスは出番すらなくて眠そうに欠伸してるが、それでも隙はまったく感じなかった。そういうときが一番狙い目であり危ないんだという殺し屋としての経験が生きてるからなんだろう。
一方で俺たちはというと、ラユルが火を消してしまって《テレキネシス》の使用を遠慮してからは、遠くにいるのはリリムが《ブーメランアックス》で処理してくれていたし、上手く掻い潜って近寄ってくるようなのはホムのメシュヘルが俺のほうに誘導してくれていた。万が一漏れてもアシェリが《ホーリーガード》してくれてるし安心だ。
そのおかげで俺はエルジェたちの様子を見ながら、近づいてくる目玉猿を一切振り返らずことごとく剥製に変えることができていた。あいつらに見せつけてやってるんだ。お前たちもいずれこうなる運命なのだと……。
あと、これは死角にいる敵でもこうして確実に仕留めるための練習でもある。目玉猿は予想しない動きをすることもあるのでいい練習になる。たまにヒヤリとすることもあるが、死角に入るだけじゃなく攻撃も兼ねるクエスのあの独特の《ステップ》に対抗するにはこうするしかないだろう。
――視界が揺れて魔法陣が現れたのはそれからしばらく経ってからのことだった。もう俺たちが倒したものだけでも目玉猿の討伐数は軽く五千匹を超えちゃってると思う。これだけ倒してようやくボスのご登場だからな。さすがは百十階層だ……。
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
転生者は冒険者となって教会と国に復讐する!
克全
ファンタジー
東洋医学従事者でアマチュア作家でもあった男が異世界に転生した。リアムと名付けられた赤子は、生まれて直ぐに極貧の両親に捨てられてしまう。捨てられたのはメタトロン教の孤児院だったが、この世界の教会孤児院は神官達が劣情のはけ口にしていた。神官達に襲われるのを嫌ったリアムは、3歳にして孤児院を脱走して大魔境に逃げ込んだ。前世の知識と創造力を駆使したリアムは、スライムを従魔とした。スライムを知識と創造力、魔力を総動員して最強魔獣に育てたリアムは、前世での唯一の後悔、子供を作ろうと10歳にして魔境を出て冒険者ギルドを訪ねた。
アルファポリスオンリー
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す
名無し
ファンタジー
アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。
だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。
それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる