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七九段 今までよりもぐっと縮まったように見えた
しおりを挟む「《微小転移》――!」
飛び掛かってくるワームたちを一気に破裂させてやろう――と思ったが、用心深く《微小転移》でひとまとめにして湖の中に落とし、そこでバラバラにしてやった。湖の色が見る見る紫色に染まっていく。なんとも毒々しい体液の色だな……。しかも水量は溢れんばかりになっている。
「わあぁ……湖の色が紫色になっちゃいました……。師匠ぉ、一体何が……?」
「ああ、リリムの大声に反応したのかモンスターが飛び掛かってきたんだ。念のために湖の中で処理したらこうなった」
「な、なるほどぉ……」
「大声に反応するのですな。申し訳ない……」
「リリムって、大人しそうに見えて結構声が大きいですしね……」
「うぐ……。ティアどの、それは何気に結構傷つく……。だが、そもそも悪ケミが調子に乗ったのが悪いのであって……」
「うるさいのはメシュヘルちゃんじゃなくてあなたのほうだったわね」
「ぐ、ぐぬぬ……」
「……うぷっ」
リリム、アローネに一本取られちゃったな。ツボだったのかティアが噴き出してリリムに睨まれてる。
……さて、この紫色の液体がどれくらい毒性が強いのかを確認してみよう。というわけで試しにそこらにある葉っぱを幾つか投げてみたら、一瞬で蒸発してしまった。
「こ、これは……」
「わわっ、全部溶けちゃいましたぁ……」
「酸だな、それも超強力な……」
「はうぅ……」
湖から後退するラユルの唇も紫色だ。もし湖の中でやつらを四散させなかったらどうなっていたかと思うとぞっとする……。
「メシュヘルちゃんが怖がるわけねぇ……」
アローネの言葉には実感がこもっていた。
「……」
《念視》で確認してみると、さっきよりも多くのワームたちに囲まれているのがわかった。これくらい倒せばボスも出現するかもしれないな。ただ、大声を出して引き寄せて同じように湖の中で爆発させるやり方だと、骨まで溶かしそうな体液で溢れ返ってしまって危険な気もする。ここはラユルに任せたほうがよさそうだ。
「ラユル、《テレキネシス》を使いなさい」
「ええっ!? もが……」
慌ててラユルの口を塞いだが、やつらはそれにちょっと反応してじわりと寄ってきただけでまだ襲ってくるところまではいってなかった。危ない、危ない……。
「それも、あのときみたいに全力で使うんだ、いいな?」
「も、もが……!」
……おっと、口から手を放すのを忘れてた。
「――《テレキネシス》!」
ラユルはノーコンだから意味がないし、方向までは指定していない。それでも、彼女の圧倒的な念動力によってワームたちはほとんどが遠くまで飛ばされた挙句、空中で圧し潰され、跡形もなく体液ごと掻き消されたのも数多くいた。相変わらず凄い威力だ……。
とはいえ、さすが百一階層のモンスター。その影響を受けてもまだ向かってくるものが数多くいた。
「その調子で、ボスが出るまでやっつけてくれ」
「……し、師匠ぉ。もうダメですぅ……はぁ、はぁぁ……」
「……ラユル? あ……」
ラユルがうつ伏せに倒れてしまった。そういや、さっき起きたばっかりだったな。まずい……。
「ティア、ラユルに《アストラルヒール》を!」
「……それなんですが、シギル様、あれって結構精神力を消耗するんです。なのでもうしばらくお待ちを……」
「そ、そうなのか……」
まずいな……。呑気に回復するのを待ってる場合じゃないぞ。ワームどもはどんどん増えてきてるし……。
「私に任せて。行って、メシュヘルちゃん」
お……アローネの一言で赤蠅のメシュヘルがそこに飛び込んでいった。囮になってやつらの位置を知らせてくれているっぽい。触れると危険らしくて得意の体当たりまではしてないが、それでもやつらの動きが鈍ってることからも弱らせてくれているのがわかる。近くにいる敵の体力を吸うとか、そういう特殊効果があるんだろう。俺もかつて味わったことがあるからな。
……とはいえ、増え捲ってきたからかメシュヘルが押され始めている。集まりすぎて山のように重なっていくワームたちの上からさらに数十匹同時にジャンプしてくるような状況だから、あれだけ俊敏な蠅でもいずれは当たってしまうだろう。
「見えないモンスターどもはそこか!《ブーメランアックス》――!」
「……おおっ」
そこでリリムが待ってましたとばかりに赤蠅目がけて斧を投げ捲り、モンスターの山をどんどん切り崩していった。蠅が位置を知らせてくれているとはいえ、命中率は90%を超えてるんじゃないか。
「凄い上達振りじゃないか、リリム……」
「あ、ありがたきしあわせです、シギルどの……」
「……言いたくないけど悪人さん、あれからまあまあ腕が上がったわね。私が煽ったおかげかな?」
「ふん。悪ケミのおかげなどではない。強いて言うならあのハエのおかげだ」
「……あっそう。何度も言うけど、ハエじゃなくてメシュヘルちゃんね」
リリムの即答に対してアローネが呆れたように笑ってるが、二人の距離は今までよりもぐっと縮まったように見えた。
あ……振動がしたと思ったら足元に魔法陣が現れて輝き始めた。いよいよ百一階層のボスのおでましだ……。
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