77 / 140
七七段 信じられなくて二度見してしまった
しおりを挟む「――こ、ここは……?」
気が付くと、俺たちは暗い森の中に立っていた。
「ら、ラユル、ティア!」
さらにラユルとティアがすぐ近くで倒れていた。本当に二人とも気絶するまでやるなんて……。そういえば崖のステージの次は森林のステージらしいから、三一~四十階層のどこかに飛んだっぽいな。
「てぃ、ティアどのは私が!」
「ラユルちゃんは私が担ぐね」
「ああ、頼む」
リリムとアローネに倒れた二人を背負ってもらう間、俺はここがどの階層なのか見ようとメモリーフォンを取り出す。
「め、メシュヘルちゃん……?」
「ん?」
冷静なアローネが珍しく、動揺した顔を見せた。どうしたかと思いきや、近くにあの蠅型ホムがいない。
「アローネ、ホムはどうしたんだ?」
「後ろにいるわ……」
見ると、アローネの背負うラユルの背中にメシュヘルがリュックのようにくっついて離れようとしなかった。しかもブルブル震えちゃってるし……。
「……この子がこんなに怖がるのは初めて見たわ……」
「所詮はハエだ。臆病なのだろう」
「バカ言わないでよ。メシュヘルちゃんは超攻撃的な子なのよ……」
そう言われてみれば、確かにこの赤蠅、心臓を奪った俺に対しても臆することもなく挨拶してきたわけだから、臆病どころか超攻撃的と言えるのかもしれない。それが怯えるっていうのは一体……。妙な胸騒ぎを覚えつつメモリーフォンでパーティーの位置情報を見たわけだが、そこから開いた口が塞がらなくなってしまった。
「シギルさん?」
「シギルどの……?」
「……ここ……百一階層だ」
「「え?」」
水と油のはずの二人が声を合わせる。俺も信じられなくて二度見してしまった。どんだけ進んだんだよ……。冒険者の最高到達階層は現段階じゃ九五階層だったはずだから、それを六つも更新したことになる。もちろん、攻略したらの話だが……。
『シギル兄さん、おはよう』
『……あ、リセス。おはようって言いたいところだが、それどころじゃないんだ』
『どうしたの?』
『《無作為転移》が成功したのはいいけど、百一階層まで飛んじゃったんだよ。どうすれば……』
『……まず、落ち着いて。それから周りに敵が隠れているかどうか《念視》で確認してみて』
『あ、ああ』
こういうとき、リセスは異常なほど落ち着いてるから本当に助かる。有名な殺し屋なんだから当然なんだが、最高のタイミングで戻ってきてくれたもんだ……。
何度か深呼吸したあと、《念視》で周囲の様子を窺うと、何やら小型のワームのようなモンスターがうろうろしているのがわかった。
……なるほど、存在自体完全な透明だから見えなかったのか。アローネのホムが怖がるわけだ。サイズはちょうどこの赤蠅くらいの大きさで、芋虫を巨大化させたような感じだから弱そうに見えるが、なんせ百一階層のモンスターだから油断できない……。
『あと、この辺障害物多いからなるべく広いところに行ったほうがいいと思う。モンスターを刺激しないように慎重に進んで』
『ああ、わかった』
薄暗いし、何よりずっと《念視》を使い続けるのはとてもきついので、リセスの言うように障害物が周りに少ないところなら負担を軽減できるはずだ。師匠の元で修行してたときもそうだったが、これは結構精神力を消耗するものなんだ。
しかもこれがあれば一気に視界が広がるというわけでなく、見ようと集中した場所が見えるというだけのスキルだからな。姿を隠した敵を見るのと、障害物の後ろにいる敵を見る行為は別々にやる必要がある。これのおかげで目が見えるようになって嬉しかった一方で、普通に目が見えるということのありがたさもよくわかったものだ。
「リリム、アローネ、周りに見えない敵が沢山いて危険だから、なるべく視界の開けた場所に行こう」
「ええ」
「合点」
慎重に森の中を歩き始める。《無作為転移》が成功すれば、《微小転移》を除いた転移系のスキルはしばらく冷却時間が発生して使えなくなるということはアローネにも既に説明済みだ。
とにかく周りで蠢いているワームの数がやたらと多くてドキドキするが、やつらはノンアクティブなのか襲ってはこなかった。
とはいえ、何かのスイッチが入ると切り替わる可能性もあるので、なるべく近寄らないように慎重に歩いていく。見た目はともかくなんの情報もない未知数の化け物というのがひたすら不気味で、ただのモンスター相手にこれだけ警戒するのも久々の経験だった。
「――あ……」
しばらく歩いていると、暗い森の中で比較的明るい空間があるのが見えてきた。近くに小さな湖があり、しかもそこだけ木々が密集していない、砂漠でいうオアシスのような奇跡的な場所だった。
「あの辺はどうかな?」
「あら、いいわね」
「うむ、同意……しません」
「リリム……」
「い、いや、シギルどのには同意したが、悪ケミには同意しないというだけの話なので……」
「「はあ……」」
俺とアローネの溜息が重なる。それってつまり同じことだろうと。でも、言い方に今までのような鋭さはあまり感じなかったし、前よりもリリムとアローネの距離はほんの少しだけだが縮まっているように見えた。
11
あなたにおすすめの小説
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~
軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。
そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。
クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。
一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる