69 / 140
六九段 無意識のうちに欲が積もっていたんだろうか
しおりを挟む5000ジュエルをみんなに分配し終わり、俺は例の簡易ベッドに横たわった。オークションが終わるまであと二日だが、多分もう厳しいだろうな。1450ジュエル貯まったものの、即決額まであと1550ジュエルも足りないし……。
『シギル兄さん……』
『……ん?』
リセスの心の声は、いつものように静かではあったがなんとなく怒気を孕んでいるように聞こえた。
『どうしてお金を分配しちゃうの?』
『……そりゃ、俺だけの金じゃないからだよ。パーティーってのは公平にやるべきなんだ。ラユルはもちろん、アシェリもリリムもティアもよくやってくれてるし……。じゃなきゃ俺が以前いたパーティーみたいになってしまう』
『ワンマンがいたんだね』
『ああ。ルファスっていういけ好かない剣士野郎だ。イケメンだし努力家だし才能もあるが、とにかく効率主義でな』
『……その人が入ってからパーティーは変わったの?』
『……正確には、ルファスが強くなってからだな』
『なるほど。自惚れてるんだね』
『そんなところだ。何もかも上手くいってるときほど人間性が見えるんだよ。驕れる者久しからず。いつかこの手でそれを思い知らせてやるさ』
『うん』
『……ただ、昔のあいつは本当に素直でいいやつに見えたんだ。今思えば、甘やかしすぎたのかもしれない。俺は説教とか嫌いだから、野放しにするどころか優しくしてたらいつの間にか増長しやがった……』
『んー……そういう人は接し方とかあまり関係ないんじゃない?』
『……三つ子の魂百までってことか?』
『そんな感じかな。とにかくシギル兄さんが責任を感じることはないと思うよ。そういう人はずっと自分本位で生きてきたんだから相手とかあんまり関係ないと思う』
『……なるほど。俺がいようがいまいがいずれ増長していた、と……』
『うん』
リセスは殺し屋レイドとして色んなやつを殺してきたんだろうが、それだけ様々な人間を観察してきたってことでもあるんだよな。だから相手の癖や本性を見抜く術を持っているわけだし、説得力は大いにあると感じた。
『……今回だけはシギル兄さんだけのお金ってことにしたら? 瞑想の杖、売り切れちゃうかもよ』
『……そうなったらそうなったでいいかな。仕方ない。みんなで出したレアアイテムの収益を独り占めするよりはマシだから……』
『シギル兄さんって、本当に真面目なんだね』
『……そうか? 俺は怒らせると怖いやつだよ』
『私もそう思う』
『……同意が早かったな』
『ふふ。ずっと一緒だからね』
『……そうだな、ある意味、恋人よりずっと近くにいるのかもな』
『そんなこと言ってると奥さんが嫉妬しちゃうよ』
『リセス……』
『眠くなってきたから、そろそろ寝るね』
『ああ、おやすみ……』
『おやすみ』
待てば海路の日和ありというが、欲が出すぎると結果がダメだったときに落胆も大きいしあまり期待しないようにしよう。
できれば瞑想の杖を買ってから【ディバインクロス】や髭面の殺し屋と対峙したかったが、俺には最強のスキル《イリーガルスペル》があるし、レイドという最高の相棒もいるし、威力なら誰にも負けない一番弟子のラユルまでいる。
アシェリ、リリム、ティアも最早ムードメーカーとして欠かせないし、アローネという心強いメンバーも加わった。今のままでもきっと大丈夫なはずだ。
明日起きたらまずオークションをちらっと確認して、そのあと二五階層を隈なく探すとするかな。
◆◆◆
「……」
言葉が出なかった。朝起きてすぐオークションの会場に運び、巨大掲示板に載っているレアアイテムのリストを確認したら、瞑想の杖が売り切れになっていた。しかも即決だった。覚悟していたこととはいえ、ショックが大きい。期待しないようにしていたつもりだったが、無意識のうちに欲が積もっていたんだろうか……。
「――シギルお兄ちゃん!」
「あ……」
セリスがいつものように元気よく笑いながら駆け寄ってきた。俺も笑顔で返したつもりだったが、彼女に比べると幾分不自然なものになってしまったと思う。
「セリス、見送りに来てくれたのか? でも、まだダンジョンに行く時間じゃないぞ」
「違うの。あのね、溜まり場でみんな待ってるって!」
「……え?」
メモリーフォンを確認してみたら、確かに例の溜まり場にアローネを除いてみんないる。遅刻魔のアシェリまで……。まだ出発予定時刻の午前十時まで1時間以上あるっていうのに、妙だな……。
「早く早く!」
「ちょ、ちょっと……」
セリスに引っ張られる形で目的地へ向かう。何か変だな。悪戯でもするつもりなんだろうか? あるいはラユルの超重大発表とか?
「――みんな、シギルお兄ちゃんを連れてきたよー!」
「ふわあ……シギルさん、待ちくたびれちゃったよ!」
「シギルどの、遅いですぞ……」
「シギル様が起きるのが遅くて、私たち半分寝ちゃってましたよ……」
「ウニャー」
「……」
みんな言葉とは裏腹にニヤニヤしちゃって、なんなんだこの異様な空気は……。まさか、ここでラユルと俺の結婚式でも挙げるつもりじゃないだろうな。ラユルだけ個室に入ってるっぽいしありうる。
「――じゃじゃーん!」
ラユルが出てきたが、格好はいつものままだった。てっきりウエディングドレスに見立てた白い布でも被って登場するのかと思ってたのに。じゃあただの重大発表なのか。メモリーフォンをこっちに見せてるし、まさか、また新しいスキルを覚えた……?
「師匠ぉ! これを見てください!」
「……あ……」
ラユルのメモリーフォンにはアイテム欄が表示されていて、そこにあったのは売り切れたはずの瞑想の杖だった。
「ま、まさか……」
「はい、昨日師匠から分配されたお金を出し合ってこれを買ったんです!」
「……な、なんで俺が欲しいのがわかったんだ……?」
「セリスさんから聞きました!」
『……リセス、言ったのか』
『うん。シギル兄さんが寝たあと、体を動かしてセリスに頼んだんだ。ごめんね、勝手なことしちゃって……』
『いや、嬉しいよ。リセス、ありがとう……』
『よかった……』
「……ラユル、アシェリ、リリム、ティア、みんなありがとう……。ありがたく受け取るよ」
みんな早起きしてこれを買ってくれたんだろう。俺を驚かすために。喜ばせるために。みんな眠そうだったものの、顔を見合わせて笑っていた。俺は泣くのを必死に我慢してたが……。
11
あなたにおすすめの小説
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる