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六三段 全身の血が沸騰するかのように熱くなった
しおりを挟む「《微小転移》――!」
俺の視界から赤い蜘蛛が消えた。そのまま巣から落ちたような形だ。何も、このスキルは標的の体内にある臓器を外に出すためだけにあるものじゃない。
あの名射手の矢を逸らしたように、標的自体を移動させることだってできるんだ。こっちに迫ってくるやつの足を、体液が飛び散らないように全て切断でなく折る形で動けなくしてやると、《念視》によって心臓が臀部付近にあるのを確認して透かさず取り出してやった。
これでもういくら暴れようがどうしようもない。たった三秒程度でここまでやったせいか、みんな歓喜の声を上げるタイミングもわからず呆然としているようだった。
『シギル兄さん、お見事』
『ああ、ありがとう、リセス』
『体液のことまで考えてるなんてさすがだね』
『ああ。もしものこともあるしな』
さすがにリセスはよくわかってる。彼女ならもっと上手い動きを見せるはずだ。特に対人戦では……。
「し、シギルさん、さすが! ……正直、何やったのかわかんなかったけど……」
「……うむ、アシェリどの、私もだ。それだけシギルどのの力がずば抜けているということだろう……」
「まー、お二人の頭脳ではわからないでしょうが、私にはなんとなくわかりましたよ……」
「「ティア……」」
「ひいいっ……ごめんなさい、嘘です……」
アシェリ、リリム、ティアの三人もようやく我に返った様子だった。
「……あれ……」
やつが消えて光に包まれるより前に、視界が歪んでいくのがわかった。これは、俺がボスを倒したタイミングでラユルの《無作為転移》が成功したことを如実に示すものだった……。
「――こ、ここは……」
気が付くと俺たちは崖沿いの狭い道の上にいた。岩を抉って作られたような道だ。強めの風が吹いていて、ここから青空や山々まで見渡せる。……って、外に転移しちゃったのか?
「わあ……高いですぅ……」
ラユルが興味深そうに崖の下を見下ろしてる。高いところは平気のようだ。一方でアシェリたちは苦手な様子でかなり内側にいて、特にリリムは壁にピタリと背中をくっつけて座り込んでいた。
「……こ、ここ、崩れやしないよね!?」
「……あ、アシェリどの、その言葉は禁句だ……」
「し、下に落ちたら肉塊確定ですね、これ……」
「「ティアァ……!」」
「……睨まれたら二重に怖いですから止めてください……」
……ティアはマゾ確定だな。それにしてもここ、かなり山奥っぽいがどの辺だろうか。師匠の宿舎があったところよりもずっと深い感じがする……。
「……なっ……」
気になってメモリーフォンを確認してみたら、パーティーの現在位置は二四階層にあることがわかった。そういや、二一階層からは崖のステージだと聞いたことがある。二四階層ということは、俺たちはそれまで十七階層にいたわけで、つまり七階層も進んだことになるな。
「アシェリ、リリム、ティア……ここは外じゃないぞ。二四階層だ」
「「「えええっ!?」」」
三人が挙って目を丸くしながらメモリーフォンに視線を移す中、ラユルが嬉々とした顔で俺の元に駆け寄ってきた。
「し、師匠ぉ、失敗かと思いましたが、やりましたねっ!」
「ああ。ラユル、凄いじゃないか」
「えへっ……ご褒美はチューでお願いします! あうっ」
お約束通りラユルのおでこにチョップしてやる。
『シギル兄さん、おめでとう』
『ああ、やったな。……っていうかここ、リセスは来たことあるはずだよな?』
『うん。でも、久々だから私も気付かなかった……』
『そっか……。一見、外の景色と変わらないしな』
『うん。シギル兄さんの目的、これで果たせるかな……?』
『どうだろ……。この階層を攻略したあとでエルジェたちがいるかどうか見て回ろうか』
『うん』
当然だが、この階層のボスさえ倒せばここまで攻略したことになり、十八階層から次の二五階層までじっくり様子を見ることもできるわけだ。
エルジェ、グリフ、ルファス、ビレント……俺がかつて所属していたパーティー【ディバインクロス】の面々がそのいずれかの階層にいたらと考えると、これだけ風が強くて寒いくらいだったのに急に全身の血が沸騰するかのように熱くなった。
『リセス、ここって落ちたら死ぬ?』
『死ぬよ』
『……ま、まさか……』
『どうしたの?』
『リセスが標的を殺す手段として、ここで落とす方法も選んでたのかなって……』
『うん、何人か落としたよ』
『……』
平然と言ってのけるリセス。さすがは名の馳せた殺し屋だ。今のやり取りのあとで崖の下を覗いたとき、少し体が冷えてちょうどよくなってきた。俺が転移術士じゃなかったら、今頃凍えそうになっていたかもしれない……。
「――あら……」
試しに《テレキネシス》を使って浮遊し、どこまで崖から離れられるのか試してみたらループするようになっていた。これ以上先には進めない。それでも落下しないというのは大きな強みだ。もしこの崖のステージと洞窟のステージが逆だったら、【ディバインクロス】での俺の立場も少しは違っていたのかもしれない。
「師匠ぉ、これ面白いですう!」
「……」
いつの間にかラユルが俺の真似をしてループしまくっていた。頭の中まで幼女になってるな。
「ラユル、あんまり調子に乗って続けてるとぶつかる――」
「――わわっ!」
……やっぱり俺の危惧した通りだ。途中でラユルの進路が大きく変わった結果、岩壁にぶつかって道に落ち、危うく崖から転がり落ちるところだった。彼女の《テレキネシス》はノーコンな上に威力があるから気付いたときにはもうそうなっていた。転移術士がこんなところで落下して死んだら洒落にならない……。
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