転移術士の成り上がり

名無し

文字の大きさ
61 / 140

六一段 ただの偶然とは思えないな

しおりを挟む

「……」

 ここはどこだ? やたらとぼんやりとしているが、宮殿のような場所だとわかる。

 隣には、やはりぼやけているものの少女の姿があった。こんなに近くにいるのに、顔がよく見えない。どんなに目を擦ってもダメだ。それでも彼女が煌びやかな飾りに彩られ、目が眩むような純白のドレスを着ているのはわかった。

「リセス……?」

 不思議なことに、顔も見えないのに俺はそれがリセスにしか思えなかった。

「シギル兄さん、ごめんなさい、もう……」
「え……?」
「ここでお別れだから……」

 周囲の景色とともに、リセスの姿が掻き消えていく。

「――り、リセスッ!」

 あれ……?

 周りを見渡すと、まだ薄暗さが室内に漂う中、冒険者たちが簡易ベッドで横たわっている姿が見えた。なんだ、夢だったのか……。

 枕元にある時計を確認したら午前4時ということもあって誰か起こしてないかと不安になったが、ベッドの周りに張られた結界内にいれば鼾も叫び声も漏れないようになっていることを思い出す。

 それにしても、あのドレスを着ていた少女がリセスだと、何故俺はわかったんだろう。そもそも、彼女は捨てられたんだ。両親が宮殿に住めるほどの金持ちならそんなことをするわけもない。

『シギル兄さん、どうしたの?』
『リセス、良かった……』
『……何が?』
『何がって、心配したんだぞ。昨日の夕方頃から全然応答がなかったから……』
『……ごめん。寝てた』
『なんだ、そうだったのか……』
『寂しかった?』
『ああ。最初は違和感あったけど、こうして心の中でリセスと会話すること慣れちゃったからな』
『……そっか』
『あと、変な夢を見た』
『変な夢?』
『ああ。リセスがどっかのお姫様みたいな恰好しててさ。それに俺が話しかけてるんだけど……』

 言いかけて止めた。そのあと消えたなんて不吉だしな。

『けど?』
『そこで終わったよ』
『そっか。確かに変な夢だね。孤児院にいた私がお姫様だなんて』
『そうだよな……』
『そういえば……』
『ん?』
『……あ、ううん、なんでもない』
『リセス、話してくれよ……』
『ごめん。前に話したことあったよね。私の横に知らない男の人と女の人がいたって』
『ああ』
『二人ともね、とても立派な服を着てたんだ。まるで、どこかの貴族みたいな……』
『……不思議だな』
『だね』

 俺とリセスの夢の内容が一致しているように感じる。ただの偶然とは思えないな。リセスが俺の中にいるから、その影響を受けた形なんだろうか。……謎が多い夢だ。考えてもわかりそうにないし、眠くて頭がくらくらするしもうちょっと休むか。約束の午前十時まではまだ時間があるしな……。

『リセス、もう少し寝るよ』
『うん、おやすみ……』



 ◆◆◆



 アシェリが午前十時から10分ほど遅れて溜まり場にきて、俺たちはようやく十七階層へと出発したわけだが、リリムとティアが言うにはこれでも早いほうらしい。

 なるほど、遅刻魔と言われるだけあるな。ダンジョンに行けないセリスでさえ、みんなを見送ろうと早起きしたというのに……。とはいえ、今度遅れたらみんなの前でお尻ペンペンですよとティアに言われて褐色肌が白くなるほど青ざめてたから、多分改善してくれることだろう。

 ――セリスと黒猫のミミルに見送られながら十七階層に到着すると、なんとも嫌な音に耳を撫でられた。カサカサと地面を這うような耳障りな音と水滴の音が妙にマッチングしていて不気味だ。至るところに糸が張り巡らされていて視界も非常に悪い。

 ここは小型で毒属性のモンスター、イエロースパイダーが巣食う階層なんだ。小型といっても人間の子供くらいの大きさなので、外にいるものと比べたら結構大きめである。

 ノンアクティブなのがせめてもの救いだが、蜘蛛の巣に触れれば容赦なく襲い掛かってくる。この糸、触れれば動けなくなる厄介な障害物なんだが、かなり丈夫で物理でも魔法でもなかなか壊すことができないらしい。

 ただ、《イリーガルスペル》があれば問題ないだろうし、ラユルの超強力な《テレキネシス》でも吹き飛ばすことができそうだ。冒険者が行きたくない階層ランキングで第三位に入るほどだし、生理的な嫌悪感までは払拭できないだろうが……。

「んじゃ、ラユルはここで《無作為転移》を頼むよ」
「はい、師匠ぉ!」

 いつも通りラユルを安全な隅のほうに置いて、俺たちだけで狩りをすることにした。

「――ひっ……」

 ここに来てからティアがかなりびびってる。蜘蛛というか、昆虫自体が苦手のようだ。しかも点在する水溜まりにそれが映ることもあるから恐怖も倍増している様子。こういう構造は明らかに意図的で、この階層を作ったやつの意地悪さがよくわかる……。

「あははっ。ティア、蜘蛛なんて全然怖くないんだから安心しなって。むしろ可愛いくらいじゃないか」
「うむ。アシェリどのの言う通りだ。そもそも蜘蛛は益虫とも呼ばれる存在なのだしな」
「……そっ、そんなのダンジョンでは通用しません。ここじゃただの害虫でしょうが……」

 多分、ティアの感覚が一般的なんだろう。実際、ここでたまにパーティーを見かけるが女性陣はみんな縮こまるようにしていた。うちではラユルも平気そうだったし、露骨に怖がってるのはティアくらいだが……。

「ラユルの《無作為転移》が成功するまでの辛抱だ。頑張ろう」
「「「はい!」」」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~

軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。 そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。 クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。 一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...