転移術士の成り上がり

名無し

文字の大きさ
53 / 140

五三段 目の前で大切な人を失うなんて許されない

しおりを挟む

 こっちに向かってきていたパーティーが突如視界から消えた。

 初心者の頃はこういう光景にもいちいち驚いてたっけ。これは階層の内部構造が変化して前方に壁ができたことを意味しているんだ。

 迷宮ステージの構造は階層が進むごとに頻繁に変わるようになるため、十階層に進む頃にはもう慣れ切っていたのを覚えている。壁の中に入ったり閉じ込められたりするんじゃないかと不安がる初心者の冒険者も見かけたが、一瞬で構造が切り替わるし、必ずどこかに出口が作られる仕様なのでそういう心配はない。

『ゴゴゴッ……』

 石像型モンスターのウィンカーが突然横湧きして殴りかかってきたが、《微小転移》で難なくかわした。

 石像にも色んなタイプがあって、こいつは拳闘士モンクの姿をしていた。ウィンカーたちは歩くことができず、離れてしまえば魔道術士ウィザードタイプを除いてまばたきするくらいで攻撃してこないが、パンチでも死ねるほど攻撃力が高いため近距離だと要注意だ。

 以前なら結構肝を冷やした場面だが、避けるのと同時に《念視》で見た心臓を吹っ飛ばすくらい余裕があった。やつらは物理攻撃に強く、無属性であるものの魔法耐性が皆無なため、魔道術士にとっては絶好のカモと言えるだろう。実際、この階層ではエルジェが大活躍でルファスの出番があまりなかったくらいだ。それでむきになったのか血眼でモンスターを倒そうと走り回ってたが……。

 そういや、もうそろそろ《中転移》の冷却時間クールタイムが切れる頃だと思ったが、基本的に転移系スキルというのは行ったことのある場所にしか行けないので、迷宮ステージだとその階層の構造がすべて変化するためにろくに使えなかったことを思い出す。だからほとんど《極大転移》と《集中力向上》のセットだったんだよな。

「……」
「ラユル?」
「……」
「おーい、ラユル!」
「……あ……し、師匠ぉ、どおひたんでしゅか?」
「……」

 こりゃダメだ。相当疲れてるな……。以前にも増して舌が縺れて幼女っぽくなってるからむしろ自然に見えてしまうが……。

 ラユルがこういう状態なので横湧きに細心の注意を払いつつ徘徊し、石像が現れたら即座に倒すというやり方を繰り返すうち、ようやく振動とともに周囲に魔法陣が現れて輝き始めた。

『グゴゴゴオオオッ……』

 十階層のボス、キングウィンカーが光の中から現れた。その名の通り、玉座にいる王様の姿をした、通路を隙間なく埋めてしまうほどの巨大な石像型モンスターなわけだが、周囲に一瞬で骨になるほどの大きな火柱を幾つも従えているため、決して近寄ることはできない。

 ただ、自分から攻撃することはできず、少しずつ前に進む、あるいは後退することで冒険者を火柱に当てようとするくらいだ。

 ……って、あれ? なんでボスが俺のほうを向いてないのかと思ったら……。ま、まさか……ラユルのやつ、魔法陣が出たのに気付かず、先のほうに進んでしまっていたのか……。疲労困憊の様子だったし、てっきり後ろにいると思っていた。俺に迷惑をかけまいと思って無理したんだろうか。しかもそこで構造が微妙に変わって姿が見えなくなったんだろうな……。

『おい、ラユル! 大丈夫か!?』
『……』
『ラユルッ!』
『……あ、師匠ぉ……あ、わわっ……ボスが迫ってきますうぅ……!』
『な、何してるんだ、早くそこから逃げろ!』
『……ふ、袋小路です……!』
『……なっ……』

 構造的にそうなるのはありえないし、ボスが行く手を塞いじゃってる形だ。

 まずい。明らかにまずいぞこれは……。まず火柱で近寄れないから《微小転移》が使えない。かといって背中に向かって《テレキネシス》のような魔法攻撃でもやろうものならたちまち激怒バーサク状態になり、若干浮き上がったあと猛然と進み出してラユルは火柱によって骨になり、さらに無残に潰されて跡形もなくなってしまうだろう。

 構造が変わったのなら、もう冷却時間は終わったであろう《小転移》でさえ役に立たないし、《大転移》も今一応確認したがやはりまだ使えない状態だった。

 ……畜生、一体どうすれば……。

『……師匠ぉ、なんだか凄く眠いです……』
『ラユル、頼む。意識をしっかり持つんだ!』
『……私、忘れません……』
『え?』
『シギルさんとの大切な思い出……。たとえ、この世からいなくなっても……』
『ら、ラユル、何を言ってるんだ』
『……生まれ変わったら、また……一緒に……』
『お、おい……』

 どうすればいいんだ。どうすれば……なんで俺はこんなにも無力なんだ。修行を重ねて強くなったんじゃなかったのか……? 目の前で大切な人を失うなんて許されない。俺は師匠と同じ過ちを犯してしまうっていうのか。こんなところまで歴史は繰り返すなんて……。い、嫌だ……そんなの絶対受け入れられない……。

『シギル兄さん、気を確かに持って。大丈夫だから……』
『り、リセス……頼む、頼むよ……ラユルを、ラユルを助けてくれ……』
『まず激怒状態にさせて、それからあの子に全力で《テレキネシス》を使わせて』
『……え?』
『いいから、早く』
『わ、わかった! ――ラユル、今から俺がボスを怒らせるから、そしたら《テレキネシス》を使うんだ! 全力で!』

 返事がないのが不安を掻き立てる。頼む、ラユル、最後の力を振り絞ってくれ……。ボスの背中に向かって《テレキネシス》を使うと、真っ赤に染まった玉座が若干浮き上がった。

「ラユルウゥッ――!」
「――《テレキネシス》!」
「《微小転移テレポート》――!」

 掻き消えた火柱の中からボスの背中が見えたときには、俺の渾身の《微小転移》が決まっていた。

「……ら、ラユル!」

 心臓ごと木っ端微塵になった石像を置き去りにして、壁の下でうつ伏せに倒れていたラユルを抱きかかえる。良かった、息もしっかりしてるし大丈夫だ……。

「……凄いじゃないか、ラユル……。《テレキネシス》でボスの火柱を掻き消せるやつなんて、お前くらいだ……」
「……えへへ……」

 祝福の光に包まれる中、自分の涙がラユルの頬を濡らしていた。弟子より師匠のほうが涙脆いなんて恥ずかしいな……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~

軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。 そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。 クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。 一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...