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四七段 死体を蹴ってるみたいで面白くないしな
しおりを挟む「……」
レッケの目にはまったく生気というものがなかった。生きてはいるが、死んだも同然の状態だったのだ。
「チックショウ……。あの糞転移術士、レッケをこんな風にしやがって。ただじゃおかねえ……」
「ガートナー、どの口が言うんだよ。あんたが役立たずじゃなきゃ、こうはならなかったのに……」
「ジェリス、お前に言われたくねえんだよ糞騎士!」
「あたいにはパーティーを守るっていう役割があるんだよ! やるのかい糞剣士!」
「まあまあ、落ち着いてください、二人とも……」
いつものように喧嘩を始めたガートナーとジェリスの間にネヘルが割って入る。
「「ああっ!?」」
「ど、どうか私でストレス発散なさってください……ハー、ハー……」
「……そうだな、ネヘル、てめえが一番の役立たずだ、ゴミクズが!」
「そうだよ、本当に気持ち悪いし今すぐ死んじまいな!」
「……い、イクゥウ……!」
「やれやれ……」
アムディは白目を出すネヘルに呆れつつも思う。このパーティーの実質的なリーダーは彼なのだと。本当にどうしようもない変態だが、そのおかげで随分救われていると感じていた。
「なあに、やつさえ殺せばこいつもいずれ元に戻るだろう……」
アムディはレッケの肩をポンポンと叩くと、転送部屋の前に広がる十五階層に視線を映した。岩の数は比較的少なくなり、その代わりに緑色の沼が至るところにあるリザードマンの洞窟だ。
「レッケ、よく見ておきたまえ。ここがお前のプライドをズタズタにしたあの転移術士の墓場になるのだから……」
「……」
レッケは何も言わなかったが、その顔には薄らと笑みが浮かんでいた。アムディはそんな様子を見て、転移術士の悲惨な末路が彼の脳裏に浮かんでいるのだと確信していた。
◆◆◆
「――《テレキネシス》!」
偃月刀を手にした人間型のワニ男――リザードマン――が闊歩する十五階層にやって来たわけだが、やつらはタフさだけが取り柄であるにもかかわらず、ラユルの魔法の前に一発か二発で沈んでいた。
単純な話で、命中すれば一発、しなければ二発だ。再生能力の高いリザードマンもこれにはお手上げの様子だった。弱点である風属性の魔法でも倒すには相当な時間がかかるといわれてるのに、ほぼ一発だからな。煉獄の杖の効果も相俟って最早最強に見える……。
『ふっふっふ。師匠ぉ、どうですか、この威力……』
『す、凄――』
目を輝かせながら《テレパシー》で話しかけてきたラユルを褒めようとしたが、寸前で止めた。それじゃ弟子のためにもならない。
『まだまだだな』
『えええっ!?』
『まだまだラユルはケツが青い! 出直してこい!』
『は、はい、もっと頑張ります、師匠ぉ!』
あえて突き放してやったが、これにはほかに理由もあった。例のパーティーが一定の距離を保った状態で、狩りをしつつも俺の様子をじっと見ているんだ。だから、ラユルとはこの階層に来てからずっと他人の振りをしているし、距離も取っている。弓道士は腑抜けになってしまってるが、転送部屋でずっと俺が来るのを待っていたみたいだし油断はできない。
『シギル兄さん、どうして襲わないの?』
『やつらが仕掛けてきたらやるよ』
『……もしかして、あの弓道士が元に戻るのを待ってるの? もう難しそうだけど……』
『いや、そうじゃない。やつらが仕掛けてくるってことは、その時点であいつらにとって有利な状態だと思ったからだろ。そこを潰してやるんだよ』
『……そっか。毎日が修行だもんね』
『ああ、そうじゃないと死体を蹴ってるみたいで面白くないしな』
ただでさえ弓道士があんな状態なんだ。少しは楽しませてくれよ……。
『『『フウゥッ!』』』
鼻息の荒いリザードマンたちが溜まってきたが、俺はそれを倒さずにひたすらかわし続けていた。大した速さじゃないから何匹集まろうが平気だし、手の内を見せないことも対人戦においては大事だからな。警戒されすぎるのもまずいんだ。
しばらく無心で避けていたが、振動によって意識を引き戻される。もうボスのご登場かよと思ったが、ラユルの強さを考えると当然か。
『師匠ぉ! ボスが出てきますう!』
『ああ、俺に押し付けてくれ』
『えええっ!?』
『いいからボスを俺に押し付けて、ラユルは岩陰か沼の中に隠れててくれ!』
『わ、わかりましたぁ!』
『シギル兄さん、それはいくらなんでも修行っていうより自殺行為だよ……』
『大丈夫。秘策があるんだ』
『秘策……』
いよいよ十五階層のボスが威風堂々とした姿を現わそうとしていた。大型で毒属性の小竜、パープルカラーのアシッドドラゴンだ。リザードマンをそのまま大きくしたような姿だが、武器は持っていない。やつは冒険者の間で、最も殺されたくないボスのランキングで第一位の座に堂々と君臨し続けている。
冒険者を生きたまま捕えて飲み込み、胃の中で消化して殺すというのだから考えただけでもゾッとする。しかも強固な胃の中では一切の攻撃が通用せず、毒によって体が麻痺するため《マインドキャスト》が使える術士でなければ自決もできず、溶けていく痛みで意識がはっきりする中、ひたすら死ぬのを待たなければならないというのだから想像を絶する苦しみだろう……。
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