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十四段 今日はこれで引き分けだ
しおりを挟む『さすがのシギル君でも驚いたか。無理もない。これぞわしの編み出したオリジナルスキルの一つだ』
『オリジナルスキル……』
『うむ。普通、転移系のスキルというのは一瞬で移動するのはいいが、そのあと続けて使用するためには冷却時間(クールタイム)が消化されるのを待たなければならない。だが、これにはそれがまったく必要ないのだ。連続で使う場合、一続きと見なされ詠唱も最初だけであとは省略される』
『えええ……』
そりゃ画期的だ。《微小転移》を連続で使えば何にも縛られず、どこでもスムーズに移動できるってことになる。Bランクスキルということで燃費は悪そうだが、短期的には凄い効果を発揮しそうだ。エルジェたちだけでなく、腕の立つ殺し屋もいるであろう絶望的な状況で、師匠が何故俺を助けることができたのか、なんとなくわかる気がする。
『《微小転移》を編み出すには、急ぐことをなるべく制御しようとする意識と、その真逆のがむしゃらに前進しようとする意識が必要だ。そもそも、転移系のスキルは少しでも速く目標地点に進もうとする意識が生み出したもの。それを焦らず制御し続けることにより、《微小転移》が生み出されるのだ。相反する意識を同居させねばならんのだから、これを編み出すにはかなりの忍耐力が必要だが、君はそれに耐えきった。だからこそ会得できたのだ』
『……な、なるほど……』
完全に理解したというわけではないが、師匠が言ってることはなんとなくわかる。意図的にそういう状況を作り出せるんだから、師匠がいかに考えているかもよくわかった。
『さらにこのスキルの素晴らしいところは、自分だけでなく味方ではない相手にも無条件で影響を与えることができるというものだ。シギル君も知ってると思うが、普通転移系のスキルはパーティーメンバーに対して行使されるものであり、そうでない場合は触れていないといけない。だが、《微小転移》にはその必要すらなく、相手を小さく移動させることができる』
『なるほど……』
触れずに、相手の位置を少し動かせるわけだな。凄い……って、あれ?
『師匠。それが一体なんになると……』
『今にわかる。明日からそれを利用した最後の修行に入るぞ』
『え……もう修行は終わり?』
『うむ。卒業だっ』
『で、でも、ほかにも師匠のオリジナルスキルはあるんじゃ? まだ《微小転移》一つしか覚えてないんですけど……』
『そうだが、それをすべていちいち覚えさせるにはもう時間がないし、最高スキル習得には必要のないものばかりだ。それに……』
『それに?』
『……残りのスキルは、いずれ覚えることができるだろう。この子を通して、な……』
『え?』
師匠はリセスのほうを向いて言っていた。
彼女が既に師匠の豊富なオリジナルスキルを受け継いでいるというのだろうか。だとしたらこの歳で凄すぎるな。一体何者なんだ彼女は……。そういえば、化け物とか自虐していたような……。いや、さすがにただの人間だろう。この安らかな寝顔を見てたら、尚更そう思う……。
◆◆◆
『……え?《微小転移》でこの木を動かすだけだって……?』
『うん』
最後の訓練というから、どんなにハードなものかと思ってかなり緊張していたんだが……本当に師匠の考えることは予想の斜め上を行く。まさか、宿舎の庭にある、沢山のりんごが実ったこの木を微動させるだけだなんてな……。
『あと、動かすときにちょっと手を抜くように言いなさいって』
『……え……』
『何か明確な違いが起こるまで、常に少し適当にやらせなさいって……』
『……』
もう本当にわけがわからない。ただでさえ簡単なのに、さらに少し手を抜けだなんて……。師匠の考えてることがまったく読めなかった。とりあえず熟練度も低いし、覚えたての《微小転移》に加えて《マインドキャスト》《念視》《集中力向上》というBCCCのスキル構成にした。
『――《微小転移(テレポート)》!』
何度か適当に詠唱するうち、りんごの木は少しだけ移動したが、それだけだった。明確な違いってなんだろう。本当に現れるんだろうか……。
『《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!《微小転移》!』
……だ、ダメだ……。適当に連続詠唱するうちにりんごの木は何度か動いたが、何か明確な違いが現れるということはまったくなかった。
確か、少し適当にって言ってたよな。それって結構匙加減が難しいんだと気付かされる。詠唱するうちに明確な違いを期待してしまって力みが入るのか、少し適当の部分が掻き消されて普通に詠唱してしまうんだ……。
『――様子を見に来たが、こりゃダメそうだの……』
『……師匠……もう、これ以上は……』
朝からやり始めたのに、気が付くとりんごの木の下で赤い木漏れ日を受けていた。ずっと側で座って見ていたリセスも、いつの間にか寝てしまってるという有様だった。それくらい退屈だったんだろうな……。
『シギル君、正直、簡単だと思っとっただろう?』
『……う……』
『図星のようだの。簡単そうに見えるが、これほど難しいものはないのだ。まだ《微小転移》の熟練度自体低いだろうから、もう少し時間がかかりそうだの。ちなみに熟練度はどれくらいなのだ?』
『ついさっき、10に……』
『……たった半日でか。こりゃ参った……』
それだけの数をこなしたからな。師匠、かなり面食らってるようだし、今日はこれで引き分けだ……。
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