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第九三回 探り合い
しおりを挟む翌朝、俺は真っ青な空の下、広い庭園の中心に立っていて、みんなに屋敷の前から見守られる形でリュカと向き合っていた。
まさか、ここが魔女と戦う場所になろうとはな。それも、魔術師……。その気になれば都を一つあっけなく滅ぼすことのできる相手だ。
なのでみんな反対してくるかと思ったが、意外にも快く送り出してくれた。それだけ反魔師としての俺の力を信じてくれてるってことだろうし、不安を顔に出すことで変な空気にならないように気を遣ってくれてるんだと思う。
「……」
俺は自分の汗ばんだ右の手の平をじっと見やった。
今までは俺がみんなを守ってると思ってたが、実は逆でもあるんだとわかった。俺のほうこそみんなに守られ、生かされていたんだ。だから、少しだけあった不安もさらに弱まって、リラックスした気持ちでいることができた。
これは殺し合いじゃない……。だが、気を抜けばどうなるかはわからない。とにかく気力を振り絞って全身全霊で戦い、必ずや魔女に打ち勝ってみせるつもりだ。
「準備はどう? コーちゃん」
「……大丈夫だ」
おそらくリュカは試そうとしてるんだろう。俺の思いがどれだけ強いのかを……。
人を信じられなくなってしまった彼女にとっては、力と力のやり取りこそが唯一、人の気持ちを推し量ることができる機会なのかもしれない。それなら、同じ船に乗ってやろうじゃないか。俺の言ってることに説得力を持たせるためには、この戦いに是が非でも勝つしかない……。
「それじゃ、お兄様。十数えて」
「りょ、了解だ。十、九、八――」
ルド神父によって、とうとうカウントダウンが始まる。この魔女の男――リュカの兄――と戦ってみてわかったことだが、魔女は魔法の威力だけでなく、立ち上がりの速さや反動を抑える力も最高クラスだと感じた。
特にリュカは戦闘経験も豊富にあるだろうし、まずは様子を見ることに専念したほうがよさそうだ。必死に耐えていけば、そのうち相手の強さに心も体も慣れていくはずだからだ。
「――三、二、一、ファイッ!」
「……」
いよいよ始まってしまった。誰もが恐れる魔女との戦いが……。
「《エル・ウィンドカッター》」
「《マジックキャンセル》」
すぐに俺も黒水晶の杖を掲げて詠唱し、先端を輝かせたわけだが、その時点で既に強い重みとともに緑色の風を受けていた。やはり、速い……。それに、受け止めただけで手が痺れるほどの重さがある。まともに食らっていたら俺の耐性でもどうなっていたかと、そう考えただけでもゾッとして背中に冷たい汗が流れた。
「やるわね、次はどうかしら?」
「……俺が受け止めてやる。来い、リュカ」
「じゃあ飛び込むわね。コーちゃん、すぐ楽にしてあげるわ……《エル・ストーンラッシュ》」
さっきと同じように、すぐに《マジックキャンセル》を出したが、リュカがニヤリと笑うのを見てはっとなった。こっちに迫りくるスピードがやたらと遅いのだ。まさか、速さを調整してくるとは……。
まずい。このままだと、杖の輝き、すなわち《マジックキャンセル》が消えるタイミングで石の雪崩に飲み込まれてしまう。重ねて術をかけることができないため、もう一度やるためには杖の輝きが一度完全に消えてからでないとダメなのだ。
「コーゾー様あぁっ――」
アトリの悲鳴が事態の深刻さを物語るが、それとは裏腹に俺は自分でも驚くほど冷静だった。
「――おっとっと……」
風の素魔法を利用し、自らの体を痛みなく後退させ、そのタイミングでようやく杖に輝きを取り戻した結果、目睫に迫った地の魔法を打ち消すことに成功したのだ。本当にギリギリだったが、妙に安心感があった。おかしいな。全然プレッシャーというか、魔法に勢いを感じない。もしかして、リュカは……。
「コーちゃん、ごめん」
「ん、どうした、リュカ?」
「次はちゃんと本気を出して殺してあげるねっ」
「……」
やっぱりか。向こうも兄をやられてるわけだし、初めは様子を見ていく感じだったんだろう。それにしても、リュカは本当に嬉しそうに笑っていた。見てるこっちが釣られて笑ってしまうくらいに。
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