上 下
87 / 110

第八九回 情

しおりを挟む

「さ、食べてくれ!」

 これでもかと並んだ大きな皿から今にも零れそうなご馳走がなんとも凄い。ヒカリの嘘が誠になってしまったようだ。

「「「「「わー!」」」」」

 俺たちは生き残った子供たちを呼んで食卓を囲んでいたが、それでも食べきれないほどの量があった。

「ねえ魔女のおじさん、これ本物なの?」

 シャイルが訊ねるのも無理はない。なんせ、この家どころか町自体が幻なのだからな……。

「本物だ! って、私はまだおじさんって年齢じゃない! まだ382歳だ!」

「……」

 みんな静まり返ってしまった。きっと魔女の間では若いほうなんだろう……。

「いだだきますのだー!」

 あ、ヤファがフライングして食べ始めてしまった。

「ちょ……負けられませんわっ……!」

「あたちもっ!」

「あっしも!」

「自分もっ!」

「我も……!」

 みんな凄い勢いで食べてる。アトリだけ元気ないが……。

「アトリ、折角のご馳走なんだから少しくらい食べてくれ……」

「……はい。私が悪かったんです。子供染みてて……でも、止まらなくて……」

「……感情が高ぶったんだろうから仕方ない。どっちにも不幸な事件だったんだよ……」

「……アトリとやら、どうか妹を許してやってくれ。あの子は、かつては人間のことが大好きな子だったのだ……」

 ルド神父の言葉に驚かされる。あれだけ人間を毛嫌いしているリュカが……。

「元々、リュカは召喚師だった。魔女の中でも特に人間が大好きで、魔王討伐に貢献するためにと、勇者を召喚しようとしていた。十年ほど前だから、つい最近のようにも感じるが……」

「……」

 そういや、リュカも魔術師になったのは最近とか言ってたな。十年というのは長命な魔女にとって大した時間じゃないのだろう。

「そして遂に勇者召喚に成功したんだが、呼び出された青年は元の世界にとても帰りたがっていたらしい。そんな彼を、リュカは必死に宥めたのだそうだ。その甲斐あって、青年はこの世界に馴染み始めたのだが……とある少女と仲良くなってね。人間の子と……」

「……魔女と仲良くならずに?」

「リュカとも上手くいっていたようだが、それはあくまでもささやかな友情だった。長命な魔女と人間ではそれも当然の成り行きだろう」

「なるほど……って、魔女の町に、勇者のほかに人間が?」

「当時、この村には人間の子がいたが、村を襲ってきた人間の子供ということで牢屋の中に入っていたのだ。人質としてな」

「魔女が人質なんて……」

「穏便にことを済ませるためだ。この村の誰も、人間と全面的に争うことは望んでいなかった。自分たちに力があるのは知っていたが、それは村のしきたりとして、古くから不幸の元として教えられていたのだ。だから、召喚師になったリュカは稀有な存在だった……」

「……」

 あくまでもこの村の魔女たちは平和主義だったんだな。

「その人質と、召喚された勇者は日を追うごとに仲良くなっていったそうだ。おそらく、これは私の推測ではあるが、勇者の青年はその少女に対して、召喚されて独りぼっちになった自分と重ね合わせていたのではないだろうか……」

 俺はうなずいていた。多分、ルド神父の考えは合っていると思う。お互いに同情することで絆が深まっていったんだろう……。

「だが、少女は両足を切断される運命となった。人質を奪還するべく村を再び襲ってきた人間たちがいて、その際に村人が一人殺されてな。その報復として……」

「じゃあ、人質の少女は足を……?」

「いや、勇者の青年がその前に少女を助け出し、故郷の町まで送り届けた。リュカはこのことを事前に知っていたが、青年の少女に対する思いを知っていたし、人間のことが好きで処分に反対していたからスルーしたのだ。これが悲劇の始まりとも知らずにな……」

「……ってことは、まさか……」

「もちろん、魔女狩りが始まった。唯一の懸念材料だった人質がいなくなったわけだからな。ほとんどの魔女が殺された。小さな子供を何人も串刺しにして笑う人間もいた。地獄絵図だった……」

「……うー……」

 気が付くと、ヤファでさえ食べるのを止めて聞き入っている様子だった。

「当時、私の村ではジョブを持っている魔女などほとんどいなかったが、リュカは違った。怒り狂った妹は、皮肉にも人間を救おうとして就いた召喚師というジョブで、攻めてきた人間たちを皆殺しにすることになったのだ。さらに勇者と少女が逃げた町まで襲ってしまった。その結果少女が亡くなり、勇者だけが生き残った……」

「……その勇者だけ殺せなかったんだな」

「そうだ……。そしてそれがさらなる悲劇を生んだ。彼は数年後に呪術師となって村に戻ってくると、リュカに様々な呪いをかけた。視力が悪くなる呪い、徐々に痛みが大きくなる呪い、自分の顔や声を忘れさせる呪い……。私が知ってるだけでもこれだけの呪いをかけている。それで二人は憎しみ合う結果になったのだ……」

「……」

 そうだったんだな。俺は遠く感じていたリュカのあの寂しげな顔に、やっとほんの少しだけ近付けたような気がしていた……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

三十歳、アレだと魔法使いになれるはずが、異世界転生したら"イケメンエルフ"になりました。

にのまえ
ファンタジー
フツメンの俺は誕生日を迎え三十となったとき、事故にあい、異世界に転生してエルフに生まれ変わった。 やった! 両親は美男美女! 魔法、イケメン、長寿、森の精霊と呼ばれるエルフ。 幼少期、森の中で幸せに暮らしていたのだが……

処理中です...