82 / 110
第八四回 倍増し
しおりを挟む「はー……酷い目に遭ったぜ……」
「ですねえ……」
「もうあたし、くたくた……」
「僕も……。ふう……」
古都ゲフェル――リンデンネルクの北部にある町――の冒険者ギルドで、セリアたちは一様に疲弊した面持ちでテーブルを囲んでいた。
馬車の中で暴れたために激昂した御者に追い払われ、悪い噂を広められた結果、一日遅れて出発することになり、先程ようやく到着したばかりだった。
「馬車に揺られてばかりでしんどかったよ。何か美味しいスイーツ食べたいなあ……」
「おいユージ、てめぇよくそんなことが言えるな!」
「わっ……」
雄士の前にあるコップから水が飛び出すほど、勢いよくテーブルを叩くロエル。
「元はといえばてめぇのせいだろうが。その間抜け面見てるだけで疲れも倍増しなんだよ……」
「そうですよお」
「そっ、その件に関しては何度も謝ったんだし、スイーツくらいいいじゃないかぁ……」
「そうよ、みんな許してあげてっ。ユージ様、スイーツ頼んであげてもいいけど……あたしの口移しで食べてね?」
「ひっ……」
見る見る青ざめていく雄士。
「もー、相変わらず素直じゃないんだからっ……」
「「はあ……」」
ロエルとミリムの溜息がテーブルに添えられるが、それが容易に掻き消されるほど冒険者ギルドは人でごった返していた。
「それより、なんかやたらと人多くない? それに勇者っぽいのもちらほらいるし。ここ、寂れた町だって聞いてたけど……」
セリアが怪訝な顔で周囲を窺うと、固まっている雄士を除いてロエルとミリムもそれに続いた。
「そういやそうだな。こんなに遅れてんのに……」
「不思議ですねえ。なんかのイベントでもあるんでしょうかあ――」
「――あれには負けるよ。あれこそ真の勇者だ」
そんな台詞がセリアたちの近くから降りかかってきて、しばらく沈黙が続いた。
「ねえ、さっきの聞いた? もしかしてユージ様のことかもっ……」
「なんでだよセリア」
「ですよお」
「ユージ様には、普通の人にはないオーラがあるの。だって、こんなに美形なんだもんっ――」
「――えっと……名前は確かコーゾーだっけか。確かにありゃ凄い能力だし到底かなわねえな。俺を含めて、ほかの勇者たちが雑魚に見えるくらい勇敢に引っ張ってたし……」
「だな……って、誰だあんたら……」
「誰なんだよおめーら……」
会話していた二人の男が、ただならぬ空気に触れて眉間に皺を寄せる。それを取り囲んでいたのは、すぐ隣のテーブルにいたセリアたちだった。
「コーゾーが真の勇者? はっ……笑わせないでよ。あんな小汚い無能おっさん!」
激怒したセリアがテーブルをひっくり返して、ギルドは静まり返った。
「な、なんだこの女……」
「正気かよおめー……」
「何よ……やるっての!?」
立ち上がった男二人と睨み合うセリア。
「「「喧嘩か!?」」」
「おい、外でやれ!」
「やれっ、やっちまえ!」
セリアたちはギルド内にいる者たちの様々な感情――畏怖、驚愕、好奇、疑念、憤怒等――が入り混じった視線を独り占めすることになった。
「お、おいやめろセリア」
「さすがに分が悪いですう……」
「そうだよセリア。みなさん、僕はあまり関係ないけど、騒がせて申し訳ない……!」
雄士が割って入るも、足はガクガクと震えていた。
「ユージ様、謝る必要はないわよ。あんたたち、何ジロジロこっち見てるんだよコラアアアァァ!」
「ひ、ひ……」
セリアのあまりの迫力を前にへなへなと座り込む雄士。
「行こう。この女正気じゃない」
「だな。とんだキチガイに絡まれちまったもんだ」
「はあ!? キチガイはコーゾーなんかを褒めてるあんたたちのほうでしょ! 死ね! マジ死ねブサイク――もがっ!?」
ロエルに後ろから口を押さえられるセリア。
「――落ち着けって、セリア。これはいい機会だろ」
「も、もが……?」
「落ち着いたなら話す」
「……」
セリアは何度もうなずき、ようやく口が解放された。
「な……何がいい機会なの……? あのおっさん、何したか知らないし知りたくもないけど、まるでヒーローみたいじゃない。これじゃあたしたちがただの引き立て役みたいだわ……」
「だからこそいい機会なんだろ。わからないのか?」
涙を浮かべるセリアに向かってロエルは微笑んでみせた。
「な、なんなのよ、ロエル。もったいぶっちゃって……」
「だからさ、そのヒーローがこの町に来るのは間違いねえだろって話」
「あ……」
「見た感じ、さっきのやつらは誘拐されてた勇者なんじゃねえかな。ほら、そういう噂があったろ」
「そういえば、聞いたことがありますう……」
「んー、そういえばそうね……って、それがどうかしたの?」
「だからよ、その勇者誘拐事件を解決したのがコーゾーなんだろってこと。んで解放された勇者がここにいたってことは、リンデンネルクからゲフェルまでの間で解決された可能性が高いわけだ。戻れば選定の儀式に間に合わなくなるしな」
「ってことは、コーゾーもここに……?」
「そそ。もうこの町のどっかにいるんじゃね……?」
「あうあう。ロエルさん、いよいよチャンス到来ですう……」
「ああ。ミリム、セリア。今までの屈辱を倍にして返してやろうぜ……」
「考えただけでわくわくしちゃうわ。あのおっさんとアトリ、絶対に倍返しで八つ裂きにしてやるんだから……」
「な、なんかみんな迫力あって怖いんだけど、もうそろそろスイーツ食べてもいいよね……?」
「「はあ……」」
雄士のあまりの空気の読めなさに対し、ロエルとミリムの溜息も倍になっていた。
1
お気に入りに追加
613
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー
不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました
今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った
まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います
ーーーー
間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします
アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です
読んでいただけると嬉しいです
23話で一時終了となります

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる