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第八三回 物騒

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「――うっ……」

「コーゾー様……!」

「アトリ……?」

 気付いたときには、俺は例の大きな馬車の荷台で揺られていた。

 よく見ると、アトリたちだけじゃなくほかの勇者たちやソースケ、ヒカリもいる。それに、腫れ上がった顔の誘拐犯――パルとローガン――も厳重に縛られた状態で座ったまま寝ていた。誰かに鉄拳制裁でも食らったんだろうか。

 奪われた黒水晶の杖等も、まとめて隅に置いてあるのがわかる。あれをなくしてしまったら、今度リュカに会ったときに殺されかねないからよかった……。

「俺が倒れてからどうなったんだ?」

「あ、はい。あれから――」

「――アトリちゃんは休んでてください。兄貴、あっしが説明するっす」

「あ、ああ……」

 ――ソースケによると、パルとローガンをシャイルとリーゼが縛り上げて拷問したことで、みんなにかかっていた呪術《忠心の刻印》《束縛の刻印》《因縁の刻印》を全て解除してくれたそうだ。さすがは闇の妖精に魔人形。

「それにしても、本当にお見事でした、コーゾー様……」

「マスター、素敵よっ。ちゅっ」

「ご立派でしたわ、ご主人様……」

「コーゾー、すんごいのだー!」

「コーゾーさん、格好いいですっ!」

「本当に素晴らしい。コーゾーどのは我の旦那として相応しい……!」

「……」

 殺気を受けたのかラズエルが《オートマティックバリア》でキンキン防いでて、その物騒な音ですっかり目が覚めてしまった。悪い気分じゃないけどな。

「人形もケダモノもターニャもほとんど寝てたくせにっ」

「「「う……」」」

「あはは……でも睡眠は大事だからな」

 パルとローガンもよく眠っている。相当シャイルたちに搾られたんだろう。当然、行き先もゲフェルの牢の中ってわけだ。まさに因果応報だな……。

 少し遅れはしたが、勇者や人質たちが喜ぶ姿を見られたのでちょっとは報われた気がする。いくら真の勇者を目指すといっても、多少の遅れを気にして目の前の困った人間を助けられないなら本末転倒だからな。

「最後の戦いには本当に痺れたっす。あっしは兄貴に一生ついていきやす……」

「ソースケ……そんなこと言っていいのか。真の勇者を目指すんなら俺のライバルだろ……」

「もちろん目指してはいやすが、兄貴が選ばれるならそれが一番かな。もしあっしが選ばれたら、大司教のオヤジさんには悪いっすけど、息子の召喚師がしゃしゃり出てきそうだし、正直複雑っすよ……」

「……」

 ソースケ、あのことを相当根に持ってるようだな。まあ当然か……。

「もー、コーゾー君もソースケ君も人が良すぎるよ。ここでみーんなぶっ殺しちゃえばライバルがごっそり減るのに……」

「おいおい……」

 笑顔でこんなことをさらっと言っちゃうヒカリも凄い。みんな驚いた様子だが、すぐに何事もなかったように各々会話を始めた。ソースケと俺の肩の後ろに隠れたシャイルを除き、ヒカリの表情がとても朗らかなだけに冗談だと思ってそうだ。

「ヒカリちゃんが腹黒すぎるだけっすよ……」

「えー? 僕のお腹、黒くないけどなあ?」

 ローブの上から腹を撫でるヒカリ。墨を腹に直接ぶちまけたくなる。

「ねぇマスター、次のゲフェルって町で、ちゃんとヒカリとお別れしたほうがいいよ……あ……」

 シャイルが耳打ちしてきたが、普通にヒカリがすぐ横で聞き耳を立てていた。

「シャイルさんひっどーい。助けてくれたお礼に、ゲフェルに着いたら見たこともないようなご馳走をタダで食べさせてあげるつもりだったのに……」

「そ、それは聞き捨てなりませんわ……」

「一体どんなご馳走なのだあ!」

 リーゼとヤファが早速駆けつけてくる。

「ヒカリちゃん……あっしらに毒でも食わせるつもりっすか?」

「そ、そんなっ。ソースケ君酷いよ。僕、それは少し考えたけど、そこまでしないよ……」

「うひっ……」

「考えたんだな……」

 またしても頭痛が痛くなってきた……。

「てへっ。だって、コーゾー君もソースケ君もすごーく強そうだし……」

「ど、毒なのだ!?」

「じょ、冗談に決まってますわ、ヤファ。ヒカリ様の笑顔ですぐ判断できます……」

「人形、それにケダモノ……あんたたちって本当にバカね。こっちに来なさいっ」

「「へ?」」

 シャイルに耳打ちされたリーゼとヤファの顔が、見る見る青ざめていく。ヒカリなら本当にやりかねないからな……。

 実際、タダより高いものはないっていうが、どうなんだろう。普通に罠か、あるいは本当に高級なレストランにでも連れて行ってくれるのかはわからないが、こっちには方角で吉凶を判断できるシャイルがいるし問題ないはずだ。
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