81 / 110
第八三回 物騒
しおりを挟む「――うっ……」
「コーゾー様……!」
「アトリ……?」
気付いたときには、俺は例の大きな馬車の荷台で揺られていた。
よく見ると、アトリたちだけじゃなくほかの勇者たちやソースケ、ヒカリもいる。それに、腫れ上がった顔の誘拐犯――パルとローガン――も厳重に縛られた状態で座ったまま寝ていた。誰かに鉄拳制裁でも食らったんだろうか。
奪われた黒水晶の杖等も、まとめて隅に置いてあるのがわかる。あれをなくしてしまったら、今度リュカに会ったときに殺されかねないからよかった……。
「俺が倒れてからどうなったんだ?」
「あ、はい。あれから――」
「――アトリちゃんは休んでてください。兄貴、あっしが説明するっす」
「あ、ああ……」
――ソースケによると、パルとローガンをシャイルとリーゼが縛り上げて拷問したことで、みんなにかかっていた呪術《忠心の刻印》《束縛の刻印》《因縁の刻印》を全て解除してくれたそうだ。さすがは闇の妖精に魔人形。
「それにしても、本当にお見事でした、コーゾー様……」
「マスター、素敵よっ。ちゅっ」
「ご立派でしたわ、ご主人様……」
「コーゾー、すんごいのだー!」
「コーゾーさん、格好いいですっ!」
「本当に素晴らしい。コーゾーどのは我の旦那として相応しい……!」
「……」
殺気を受けたのかラズエルが《オートマティックバリア》でキンキン防いでて、その物騒な音ですっかり目が覚めてしまった。悪い気分じゃないけどな。
「人形もケダモノもターニャもほとんど寝てたくせにっ」
「「「う……」」」
「あはは……でも睡眠は大事だからな」
パルとローガンもよく眠っている。相当シャイルたちに搾られたんだろう。当然、行き先もゲフェルの牢の中ってわけだ。まさに因果応報だな……。
少し遅れはしたが、勇者や人質たちが喜ぶ姿を見られたのでちょっとは報われた気がする。いくら真の勇者を目指すといっても、多少の遅れを気にして目の前の困った人間を助けられないなら本末転倒だからな。
「最後の戦いには本当に痺れたっす。あっしは兄貴に一生ついていきやす……」
「ソースケ……そんなこと言っていいのか。真の勇者を目指すんなら俺のライバルだろ……」
「もちろん目指してはいやすが、兄貴が選ばれるならそれが一番かな。もしあっしが選ばれたら、大司教のオヤジさんには悪いっすけど、息子の召喚師がしゃしゃり出てきそうだし、正直複雑っすよ……」
「……」
ソースケ、あのことを相当根に持ってるようだな。まあ当然か……。
「もー、コーゾー君もソースケ君も人が良すぎるよ。ここでみーんなぶっ殺しちゃえばライバルがごっそり減るのに……」
「おいおい……」
笑顔でこんなことをさらっと言っちゃうヒカリも凄い。みんな驚いた様子だが、すぐに何事もなかったように各々会話を始めた。ソースケと俺の肩の後ろに隠れたシャイルを除き、ヒカリの表情がとても朗らかなだけに冗談だと思ってそうだ。
「ヒカリちゃんが腹黒すぎるだけっすよ……」
「えー? 僕のお腹、黒くないけどなあ?」
ローブの上から腹を撫でるヒカリ。墨を腹に直接ぶちまけたくなる。
「ねぇマスター、次のゲフェルって町で、ちゃんとヒカリとお別れしたほうがいいよ……あ……」
シャイルが耳打ちしてきたが、普通にヒカリがすぐ横で聞き耳を立てていた。
「シャイルさんひっどーい。助けてくれたお礼に、ゲフェルに着いたら見たこともないようなご馳走をタダで食べさせてあげるつもりだったのに……」
「そ、それは聞き捨てなりませんわ……」
「一体どんなご馳走なのだあ!」
リーゼとヤファが早速駆けつけてくる。
「ヒカリちゃん……あっしらに毒でも食わせるつもりっすか?」
「そ、そんなっ。ソースケ君酷いよ。僕、それは少し考えたけど、そこまでしないよ……」
「うひっ……」
「考えたんだな……」
またしても頭痛が痛くなってきた……。
「てへっ。だって、コーゾー君もソースケ君もすごーく強そうだし……」
「ど、毒なのだ!?」
「じょ、冗談に決まってますわ、ヤファ。ヒカリ様の笑顔ですぐ判断できます……」
「人形、それにケダモノ……あんたたちって本当にバカね。こっちに来なさいっ」
「「へ?」」
シャイルに耳打ちされたリーゼとヤファの顔が、見る見る青ざめていく。ヒカリなら本当にやりかねないからな……。
実際、タダより高いものはないっていうが、どうなんだろう。普通に罠か、あるいは本当に高級なレストランにでも連れて行ってくれるのかはわからないが、こっちには方角で吉凶を判断できるシャイルがいるし問題ないはずだ。
0
お気に入りに追加
612
あなたにおすすめの小説
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
パークラ認定されてパーティーから追放されたから田舎でスローライフを送ろうと思う
ユースケ
ファンタジー
俺ことソーマ=イグベルトはとある特殊なスキルを持っている。
そのスキルはある特殊な条件下でのみ発動するパッシブスキルで、パーティーメンバーはもちろん、自分自身の身体能力やスキル効果を倍増させる優れもの。
だけどその条件がなかなか厄介だった。
何故ならその条件というのが────
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる