反魔師~外れ勇者として追放されたおっさんは最高の魔法職となり真の勇者を目指す~

名無し

文字の大きさ
上 下
79 / 110

第八一回 闇討ち

しおりを挟む

「……頼む」

「うん……」

 シャイルが影になり、交代したばかりの見張りの背中を駆けあがっていく。再び姿を現わしたとき、その小さな両手には俺が地魔法で出した大きめの石があった。

「ごふっ……」

 見張りが白目を剥いて倒れる。よし、上手くいった。俺は振り返り、勇者たちに合図を送る。

「なるほどっす、シャイルちゃんを利用するとは、さすがは兄貴っ」

「シャイルさん、すっごーい」

「もうこの手段しかないしな。シャイル、人質のいる方角は大丈夫か?」

「うんっ。吉も凶も出てないよ」

「よし、見張りが交代に来てバレるまでにみんな急ごう……っと、この男を連れて行かないと……」

 俺は気絶した見張りの男を背負った。

「あ、兄貴、なんでそんなやつを……」

「なんでぇ?」

「《忠心の刻印》だけじゃなく、《束縛の刻印》も《因縁の刻印》でこの見張りと関連付けられてるから、このまま放置してたら逃げられない」

「な、なるほど……」

「んー、それなら殺しちゃえば? 僕ならそうするよ?」

「「えっ……」」

 ヒカリの衝撃的発言で俺とソースケの素っ頓狂な声が被る。しかも彼女は笑顔のままという……。

「ほおら、あたちの言った通りでしょっ……?」

「……」

 シャイルが耳打ちしてくる。いや、冗談で言ったかもしれないしな。とにかくこれ以上考えてる場合じゃない。急ごう。



「――マスター、あそこっ」

「あれか……!」

 家の影に隠れながら見る先には、篝火に照らされる眠そうな三人の見張りと納屋があった。

 あそこにアトリたちがいるわけだ……。だが、さっきやったように石で一人を殴ってたらほかの見張りに気付かれてしまうだろう。なので三人同時にやっつけるしかないが、それは不可能だ。だから……一か八か、アレを使うしかない。

 っと、その前に……。

「《スペルレイン》」

 俺を含め、勇者たちに呪文の雨を降らせる。

「あ、雨? これ兄貴の術すか……?」

「コーゾー君の術―?」

「ああ、みんな走るぞ!」

「「「――あっ……」」」

 見張りたちが俺たちに対して仰天した顔を見せるも、もう遅い。

「《ダークフォレスト》」

「「「ひぇっ……?」」」

 一瞬で周囲が暗い森に変化する。もうこの時点でやつらは迷子だし、声もそう遠くまでは届くまい。

「がふっ」

「ぐへっ」

「ぶぎっ」

 立て続けに鈍い音が響いて男たちが倒れるのがわかる。シャイルがやってくれたんだ。

 やつらの無様な姿がクリアになってるし、今までと比べると楽になってる気がするから、もしかしたら《ダークフォレスト》のレベルが一つ上がったのかもしれない。もちろん、精神鏡を覗いてる暇はないのですぐに術を解除し、納屋の中に飛び込んだ。

「――アトリ!」

「コーゾー様! 無事でよかったです。信じてました……」

「ああ……みんなも無事か?」

「はい。私以外は寝ちゃってますが……」

「……」

 みんな随分気持ちよさそうに寝ちゃってるなあ……っと、それどころじゃなかった。

 人質全員を外に出し、目立たないところまで運ぼうとしたものの、何故かついてこないと思ったら……そうだ、《束縛の刻印》を食らってるんだった。見張りが気絶してるだけじゃ術は解除されないからな。

「一緒に連れて行こう」

「えー、面倒だよぉ。僕がなんとかするっ……」

「ヒカリ?」

「《精霊召喚サモン・シャドウ》」

 ヒカリが詠唱を始めてまもなく、魔法陣が現れた。

「あ、わーい。一発で成功したー!」

 ……ま、まさか……。

 勇者たちからどよめきが上がる中、魔法陣が完成して中から人の子サイズの黒い影が出現したかと思うと、立ち上がって俺たちをきょろきょろと見回し始めた。あれが闇の精霊シャドウなのか……。

「シャドウ、あの倒れた三人を食べていいよっ」

「なっ……」

 あっという間だった。召喚主のヒカリの命令で、待ってましたとばかりシャドウが倒れた三人に飛び掛かり、食べ始める。血が出るわけでもなく、食われた部分が影になってシャドウに吸収されているようだった。実際、食べるたびにどんどん大きくなっていく……。

「あ、あぁう……」

 ヒカリがしゃがみ込み、首を押さえて悶え苦しみ始める。気絶した相手でも《忠心の刻印》が効果を発揮している証拠だ。俺は目を背けた。高レベルの呪術だから、死ぬのは避けられないだろう……。

「んんっ……」

「……え……」

 よがり声がしてヒカリのほうに視線をやると、依然として赤い顔で苦しそうではあるが、それだけじゃなくて喜びも入り混じっているように見えた。

 なんてタフなんだ……。まさか、体力が凄くあるタイプなんだろうか? その間に、闇の精霊シャドウは見張りの三人を全員食べてしまって三メートルほどの巨人になっていた。

「……あー、危なかったあ。僕、もうちょっとで死ぬところだった……てへっ」

「――ひ、ひい!」

「あ、ダメだよ、今逃げたらっ」

「ぎゃああああっ!」

 逃げ出した一人の勇者をシャドウが追いかけて捕縛すると、同じように黙々と食べ始めた。

「そ、そんな……」

「うげげっ……」

 アトリが呆然とするのも、ソースケが苦い顔で口を押さえるのもわかる。なんとも胸糞悪い。

「あーあ、言わんこっちゃない。一度食べ始めたら狂暴化して、逃げる人に反応しちゃうの。はーい、残さず食べたね。お疲れ様、シャドウッ」

 ヒカリの発言で満足したかのように消えていくシャドウ。末恐ろしい。終始笑顔の召喚師も含めて……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

処理中です...