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第七九回 解

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「なんか気味悪いっすね。そういうの聞いちゃうと……」

 シャイルの話を聞いたソースケが青くなっている。あのヒカリという子とは今まで普通に接してきたんだろうし、余計にそう思うんだろう。

「ああ。けど今はそれより、まずはここから脱出する方法を考えないと……」

 明日の朝には取引が始まるわけで、それまでになんとかしないといけない。

「とは言っても兄貴、もうどうしようもないっすよ……」

「確かに厳しいが……」

 ソースケの言うことはわかる。みんなうずくまって既に寝てしまってるようだし、もうダメだという気持ちのほうが強いのだろうが、俺はまだ諦めたくない。

「ねえ、マスター。アトリとターニャとリーゼとヤファと……あとラズエルはどこ?」

「あ……」

 そうだ。今思いついた。俺にはシャイルがいるじゃないか。この子ならパルとかいう呪術師の術にかかってないし、影に隠れることもできるから自由に動けるはず……って、よく考えたら妖精屋で《束縛の刻印》レベル1が施されてるわけで、十メートルの制約があったか……。

「なあソースケ、呪術ってどうやったら解除できるんだ?」

「それなら、相手が死ぬか、こっちが死ぬか……」

「まさか、それだけなのか……?」

 もしそうなら完全に詰んでる。

「いえ、まだありやす。あと、同じ種類の呪術を術者と標的にかけると紐切り、つまり解除ができるっす」

「おおっ……」

 もう周囲は暗くなってるが、一筋の光明が差してきた。

「ソースケ、《束縛の刻印》は持ってるか?」

「持ってやすけど、《忠心の刻印》と《因縁の刻印》がかかってるから、術者にかけた時点で反抗とみなされて兄貴も仲間も苦しむだけっすよ……」

「いや、敵にかけるわけじゃない。俺とシャイルにやるだけでいい」

「……へ?」

「俺とシャイルも《束縛の刻印》でつながってるんだ。ソースケの呪術で紐切りしてほしい」

「な、なるほど、さすが兄貴――!」

「――おいお前らあ、いつまで喋ってんだコラアアアッ! うるせえから早く寝やがれってんだ此畜生ッ!」

「「……」」

 俺はソースケと苦い顔を見合わせた。あんなにうるさいのがいるんじゃろくに会話もできないな。というわけで、耳打ちする形になる。

「早く例のアレを頼む、ソースケ」

「うっす」

 縛られたソースケの眼前から、パッと小石ほどの闇の球体が出現して俺とシャイルの体に当たった。いつも手や杖から出されているのしか見たことがないので新鮮だ。俺も出そうと思えば出せるんだろうけど……。

「シャイル、十メートル以上離れてみてくれ」

「うんっ」

 シャイルが影の中に隠れて移動する。

「あれ、便利っすねえ。でも、逃げられたら……」

「大丈夫」

 正直、一緒にいるのが当たり前になっててシャイルが逃げるなんて考えたこともなかった……。実際すぐ戻ってきた。

「――マスター、ただいまっ」

「おかえり、どうだった?」

「二十メートルは移動できたと思うの。ソースケ、ありがとねっ」

「あ、ど、どうもっす……」

「おいおい、妖精にまでそんな態度じゃなくても……」

「へへっ。なんか貫録あるっすから」

「そりゃそうよ。あたちは闇の妖精だもんっ」

 シャイルは調子良さそうだな。夜だし、灯りも見張りが持ってる松明から少し漏れてくるくらいだから気分いいんだろう。それに、少し複雑だが自由になれたしな。

「シャイル、これで自由になったな」

「うん……でも、なんかふくざちゅー」

「……」

 シャイルも同じ気持ちだったらしい。っと、時間がないから急がねば……。

「シャイル、みんなの居場所を突き止めてくれ」

「はぁい」

 シャイルが再び影と同一化して納屋を出ていく。まだ先は見えないが、なんとか打開に向けて一歩進めたって感じだ。



 ◆ ◆ ◆



「うう……。わたくしたちは、これからどうなっちゃうのでしょう……」

「あたい、怖いのだ……」

「「ブルブルッ……」」

 光蔵たちからは離れた場所にある納屋で、リーゼとヤファが震えながら寄り添う。

「大丈夫ですよ、リーゼ、ヤファ……。コーゾー様を信じましょう。ね、ターニャとラズエルも……」

「「くー……」」

「……」

 アトリが声をかけたときには、ラズエルにターニャが凭れかかる格好で二人とも既に寝てしまっていた。

「よく眠れますわね、二人とも……」

「疲れてたんでしょう。リーゼもヤファも、今のうちに休んでおくべきですよ」

「わたくし、どうなるのかと思うと恐ろしくて眠れませんわ……。こんなとき、シャイルがいればもうちょっと怖さを軽減できた気がしますの……」

「なのだぁ……」

「ふふ。あんなに普段は喧嘩ばかりしてても、やっぱり大切な仲間なんですねっ」

「……あ、あの間抜け面を見れば、少しは救われる気がするのですわ……」

「一理あるのだー」

「ふふっ――」

「――随分、言ってくれるじゃない」

「……あ……」

「「あー!」」

「ど、どうした! 敵か!?」

「ふえっ!?」

 ラズエルが勢いよく起き上がった結果、ターニャが地面で頭を打って目覚めた。

「ら、ラズエル、ターニャ、あれを……」

「む?」

「にゃ?」

 アトリが見ている先には、孤立した小さな影から頭だけを出したシャイルの姿があった。
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