上 下
66 / 110

第六八回 始動

しおりを挟む

 渦巻き状になった通路を進んでいくと、待ち望んだ魔物――ワインドマン――が姿を見せてきた。これで俺は新たに習得した術を試せるわけで、ようやくスタートラインに立てたということだ。小さな竜巻が人型になるのを見計らって先頭に立った。

「お、おい凶悪犯! 貴様、気でも狂ったのか……!?」

「《マジックキャンセル》」

 詠唱後、俺が高々と掲げたクリスタルロッドが少し経って光り輝いたが、すぐ消えてしまった。まだレベルが1なせいか凄く短い……。

「……」

 それから少し遅れて魔物が放ってきた緑の球体が顔面に命中する。かなり高レベルの魔法なのかちょっとチクッとしたが、その程度だ。

「ふん。素直に我に任せておけば死なずに済んだものを……って、え……?」

 ラズエルは俺が平然としてるのが信じられない様子で目を丸くしている。

 だが、俺がやりたいのは己の耐性を見せびらかすことじゃない。それでも、アトリたちの様子を見ると溜飲が下がったのか、穏やかな面持ちになっているのがわかった。ただ、アトリだけはまだ何かあるのか少し表情が暗かったが……。

「参りましたでしょうか、ラズエル様。コーゾー様は耐性が凄いんです」

「参りましたか、ラズエルさん!」

「参ったって言いなさいよねっ」

「降参ですの……?」

「降伏なのだ!?」

「……ふっ。なるほど、これが勇者の固有能力というやつか。80%とか言ってたから、どうせ30%くらい誇張しているだろうと思っていたが、まさか本当だとはな……。しかし、いくら耐性があろうと完全に無効化できない時点で我の結界術の下位互換だ……」

 ラズエル、あくまでも俺を認めない気か。まあいい。ワインドマンはまだ生きてるし、次こそは成功させてやる。見てろよ……。

 やつは攻撃してきたあと、しばらく小さな竜巻に戻ってうろうろしていたが、こっちが隙だらけと見るやまた人型になって風の魔法を飛ばしてきた。今度はそのタイミングで《マジックキャンセル》を使い、輝いた杖に合わせる。

 すると手に重さを感じるとともに、クリスタルに緑の風が吸い込まれるようにして消えていった。よし、上手くいった。

「コーゾー様……凄いです。本当に打ち消しちゃいましたね……」

「ああ……」

「コーゾーさんっ、凄すぎですー!」

「ラズエルよりずっとちゅごいっ」

「ご主人様、凄いです!」

「すんごいのだー!」

「うぬう……」

 ラズエルの顔が見る見る赤くなる。全体が青いから余計目立つな。

「……だっ、だからなんだ。打ち消しただけではないか! 我と変わらぬ。風と火以外は自動で防げる分、我は貴様の完全な上位互換だ!」

「じゃあ、風と火は俺が上なのは認めるんだな」

「そ、そこだけではないか! 調子に乗るな、凶悪犯めっ!」

 少しは見返せた感じはあるが、ラズエルは懲りてないようだしまだまだだな。

 通路をさらに奥へと進んでいくと、ハイドマンやブライトマンも出てきて、ラズエルは今まで以上にムキになって回り込んで結界を張ってきたが、ワインドマンが出てくると俺に任せていた。そのたびに顔をしかめながら舌打ちしていたが……。



 狭い通路を抜けた先には、天井、床、壁、それに脇に置かれた燭台や香壇、机に至るまで金色に輝く広大な空間があった。奥には幅のある黒い扉があり、一際異彩を放っている。ここが聖所であの扉の向こうに神殿最奥の至聖所があるってわけか……。

 さらに、室内には今まで出てきた魔物たちのほかに火の玉が多く飛び交っているのがわかる。

「――《マジックキャンセル》」

 俺の期待通り、やつはブレイズマンといって近寄ると人型になり火の魔法を放ってきた。当然、ラズエルは火の結界がないために俺の出番も増える。

 タイミングもわかってきたし、ほぼ敵の魔法をキャンセルすることに成功していた。杖に帯びた光が少し長持ちしてる気がして、もしやと思い精神鏡で確認したところ、案の定術のレベルが2になっていた。いいぞ、この調子だ……。

 こうなると攻撃魔法も欲しくなるが、それは贅沢だろうか? いずれにせよ、風と火の魔法を打ち消すことでラズエルの舌打ちとシャイルたちの歓声が交じり合う格好になった。

 順風満帆だが、唯一気になるのはアトリの顔色が悪くて表情も少し浮かないところだ。

「アトリ、ちょっと疲れてるんじゃないか?」

「……いえ、大丈夫ですっ」

「そ、そうか……」

 アトリの笑顔、力がないように見えるんだが……。

「……ふっ。無理はするな。そろそろ帰るぞ」

「……」

 よくみるとラズエルの顔色も悪いな。こっちは原因がわかるが……。

「さてはあんた、至聖所に出るっていうボスが怖いんでしょっ」

「怖いんですの……?」

「怖いのだ!?」

「……ばっ、バカを言うな! 我に怖いものなど存在せぬわ! ただ、まともな攻撃手段がないだろう? あのボスはタフだから火力がいる。召喚師を含む魔法職のパーティーでも倒すのに半日もかかるのだぞ。我の劣化コピーと騎士が一緒では、負けもしないが勝つこともできん!」

「ププッ……!」

「わ、笑うな、三流鑑定師!」

 相変わらず口の減らないラズエルだが、ターニャの笑い声に誘発されるようにシャイルたちも笑ってるし、最早ギャグキャラになってるな……。

 でも俺たちに火力役がいないのは確かだし、もし至聖所にボスがいるなら行くのは止めといたほうがよさそうだ。

「アトリ、ボスはいるか?」

「……います」

「そうか……」

 よく考えたら人自体いないんだし、そりゃ倒されずに残ってるよな。

「じゃあ帰るか」

「あの……」

「ん? どうした?」

「せ、先客がいます……」

「え、先客……?」

「はい。一人……」

 アトリの声が露骨に萎んでいて、それで俺は扉の向こうに誰がいるのか察してしまった……。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

パークラ認定されてパーティーから追放されたから田舎でスローライフを送ろうと思う

ユースケ
ファンタジー
俺ことソーマ=イグベルトはとある特殊なスキルを持っている。 そのスキルはある特殊な条件下でのみ発動するパッシブスキルで、パーティーメンバーはもちろん、自分自身の身体能力やスキル効果を倍増させる優れもの。 だけどその条件がなかなか厄介だった。 何故ならその条件というのが────

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...