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第六二回 輝くもの
しおりを挟む「とまあ、こういうわけである。少しでも我に対する攻撃の意志を持てば、自動的に結界が展開されるようになっている。つまり、貴様たちがどう足掻こうと我には勝てんということだ……」
「なるほど……」
馬車の中、ドヤ顔で大いに語るラズエル。当然俺たちはしらけムードなわけだが、それがまた愉快なのか時折噴き出すように笑っていた。
凶悪犯であるはずの俺たちにこんなことを話す時点でもう舐めきってるレベルなんだが、却って好都合だ。これで俺たちは心置きなくレベル上げに専念できるわけだからな。
「――お……」
光魔法がどれくらい上がったか確認するため精神鏡を覗いたわけだが、習得術のところに、またしても《???》レベル1の文字が見て取れた。光魔法のレベルも3になってるし、それで覚えたんだろう。つまり、光関連の術の可能性が高いということだ。
「ターニャ……!」
「……も、もう無理です……!」
「……」
ターニャ、また異世界言語の辞書に顔を突っ込ませて眠ってるし……。
「ターニャを起こすのはあたちに任せて!」
「いえ、わたくしに!」
「あたいに!」
「「「こしょこしょ……」」」
シャイルたちが競い合うようにターニャの体をくすぐってる。脇やら首やら、見てるだけで体がもぞもぞしてくる……。
「……にゃ……!」
ターニャ、笑みを浮かべただけで起きる気配はなかった。強い……。
「起きてください、ターニャ、コーゾー様が呼んでます……!」
アトリが肩を揺さぶるが、ダメだ。
「ふむ。では我に任せるがよい」
お、ラズエルが起こしてくれるらしい。
「我はあの有名なブルーオーガだ。さあ起きろ! さっさと起きぬと承知せんぞ!」
「……」
しかしターニャは起きなかった。というかまったく反応すらしてない。
「む、むむっ……」
それが効いたのか、ラズエルが眉間に皺を作ってターニャの胸ぐらを掴んだかと思うと、パンッと平手打ちした。
「おいおい、そこまでする必要は……」
「我を無視するからだ。それにこのほうが早い。それ、それっ!」
立て続けに鋭い音が響く。往復ビンタまでするとは……。
「さすがにやりすぎ――」
「――師匠……」
俺が止めようとしたとき、ターニャが薄らと目を開けた。起きたみたいだな。
「ふっ。我の力をもってすればこんなものだよ」
一方的に叩いただけだろ……。
「まだ眠いです。ごめんなさいっ……」
「……な、何ぃ……?」
ターニャがまた眠ってしまった。シャイルたちから笑い声が上がる中、ラズエルが悔しそうに体を震わせている。
「……かくなるうえは……」
ブルークリスタルロッドを振りかぶるラズエル。おいおい、まさか……。
「起きろ――!」
「――ちょっ……!」
寸前で杖を受け止めた。危ない。起きるどころか永遠に眠ってしまうところだった……。
「ターニャは疲れてるんだ。少しそっとしておいてやろう」
「……むう。甘いやつだ。我はスイーツより激辛なものが好みだがな……」
俺たちが無反応なせいか、見る見る顔を赤くするラズエル。ちゃんと辛めな反応をしてやったつもりだが、気に入らなかったらしい。
「――あ、みなさんおはようございまーす!」
しばらくしてターニャが起きたかと思うと、何事もなかったように辞書を読み始めた。
「き、貴様……!」
「やめてください!」
ラズエルが杖で殴りかかろうとしてアトリに止められている。
「ターニャ、辞書はいいから俺の新しい術を鑑定してくれ」
「……あ、はい! また覚えたんですねぇ」
嬉しそうな表情で俺の右手を握るターニャ。いつもなら難しい顔をするのになんだか楽しそうだな。いい夢でも見たんだろうか?
「……ん……わかりましたっ!」
「お、今回は早いな」
「えっへへー。実は、先程《解読》のレベルが3になって、その上《精霊言語》まで覚えたんです!」
「おお、そうなんだな。頑張ってるな……」
それであんなに嬉しそうだったのか……。
「うふふ、コーゾーさんのお役に立つためです!」
「それで、なんて術なんだ?」
「《マジックキャンセル》だそうです! 効果は……んと……んーと……」
「……」
推測だが、《解読》だと異世界言語の単語が読める程度で、《精霊言語》は文も読めるようなるって感じなんだろう。それでも覚えたてなのが影響してるのか難航しているようだ……。
「……魔法を……打ち消す……輝く間……だそうです!」
「輝く間に魔法を打ち消す?」
「多分そうです!」
「……そりゃ凄いな。魔法を打ち消せるのか……」
《マジックキャンセル》という名称通りの効果だ。いよいよ反魔師らしくなってきたな。おそらく、杖が輝いている間なら魔法を打ち消せるとかそんな感じなんだろう。
「さすがコーゾー様です」
「ですですっ!」
「マスター、ちゅごーい」
「お見事ですわ、ご主人様……」
「偉人なのだー!」
「……」
みんなに褒められて嬉しいが、やはり照れ臭いな……。
「……ふっ。新しい術がなんだというのだ。結局それを使いこなせるかどうかだろう。ま、貴様には無理だろうが……」
「精々頑張るよ、ラズエル」
「……う? ……ちょ、調子の狂う凶悪犯だ……」
ラズエルのやつ、一瞬ぽかんとしてたな。怒らせてやろうと思ったのに当てが外れたからだろう。みんなも顔を見合わせて笑っていた。
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