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第四八回 機会
しおりを挟む俺たちはルコカ村の外にいた。といっても近場の森だ。
依頼に書かれていた木の枝や丸太等を収集する際、風の魔法が重宝した。何気に花火の影響もあり、火属性を除いて魔法レベルが1上がって6になったことで威力も上がり、慣れてくると一分ほどで太い樹木を倒せるようになった。
繰り返すうちに大分コツを掴んできた感じだな。こう、風を一か所に凝縮する感じでやると、集中力はいるが良い切れ味が出せるんだ。
ただ、レベルが5から6になったことで消費もかなり上がったのか維持するのがすぐに辛くなった。それでも休憩中、アトリが《ウィンドブレード》でいっぱい枝を切ってくれたし、シャイルたちも競うように拾い集めてくれたから助かったが。
「――もうこんなに……」
「しゅごいっ」
「いっぱいですわねぇ」
「沢山なのだ!」
アトリたちが呆然と見つめるのも無理はない。俺が地と火の魔法で作った大きな焼き物には、これで小屋が建つんじゃないかというくらい大量に木材が積まれていたのだ。
これだけあれば軽く200グラードは超えるだろうし、合計で500グラードになって薬草も買えるだろう。あの男が嘘をついてないならだが。仮にそうだとしても食費や宿泊費等に変わるだけだし、やってて損はない。
「……お、重いのだ……」
ヤファが一人で抱えてくれてるがさすがに重そうだ。
「ヤファ、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫……じゃないかもしれないのだ!」
アトリが心配するのもわかるくらいヤファはふらついてる。彼女ほどの怪力なら潰れることはまずないと思うが、それでも運搬するのに時間がかかりそうだな……。
「おもそー」
「ですわね……」
「シャイルとリーゼも手伝うのだあ!」
「「ひー!」」
大量の木材を抱えて進み出したヤファは凄い迫力があって、普段小馬鹿にしてるシャイルとリーゼもたじたじの様子だった。それでもやはり歩きにくそうだったので、俺が無の魔法で手伝うとスムーズに歩き始めた。
「あ、少し楽になったのだー」
「よし、そろそろ帰るか」
「――あ……」
急にアトリがはっとした顔になる。
「どうした、アトリ?」
「何かいます……」
「まさか、例のモールスネークってやつが近くに?」
彼女によると、モールスネークは近隣に生息する蛇の姿をした魔物であり、生きたまま人間を飲み込めるほど大きく、攻撃的ながらも慎重な性質で、地中を移動して獲物の足元まで忍び寄り、一気に襲いかかってくるという。
朝や昼に出てくるケースはあまりないと聞いたが、まったく可能性がないわけじゃないしな。アトリが切れ目なしに《マインドウォーク》を使ってるから、正体はすぐわかるはずだ……。
「……いえ、これは……ま、魔女……」
「……な、なんだって……?」
なんで魔女がこんなところに……。
「近いのか……?」
「はい。ただ……何故か私たちのほうには来ません。こっちに気付いてはいるようですが。それに、なんていうか……気配がおかしいんです」
「どういうことだ?」
「とても弱々しいです……」
「弱ってるってことか……」
「多分……それに、すぐ近くにいます……」
「……」
弱っていようが、近くにいるだけあって俺ですらその気配を感じ取ることができた。とにかく全身の毛が逆立つような感覚なのだ。
こうなると最早逃げることは無理だし、俺たちに危害を加える気がないなら刺激しないようにじっとしていたほうがよさそうだ。シャイルたちもそれがわかるのか、一様に緊張した顔で伏せるようにして息を潜めている。
――……来た……って、あれは……。
確かに魔女だったが、それは俺たちがよく知っている存在だった。黒いとんがり帽子を被り、同色のローブを着た幼女がふらふらとした足取りで歩いていた。間違いない、あの子だ……。
てか、ルコカ村のほうから出てきたっぽいな。もしかしたら同じ宿にいたのかもしれない。歩くのもやっとな感じだ。
「アトリ、魔女が歩いてる方向には何があるんだ?」
「……沼地のほうに向かってるみたいですね」
「……」
そういえば、魔女は洞窟でも薬草を集めてたっけか。沼地を目指してるなら、今回の目的も薬草で間違いなさそうだな。
「コーゾー様、行きましょう」
「アトリ……」
「大丈夫です。あの人と一緒なら沼地に行っても……」
「……いいのか?」
「あの人が倒れるようなことがあれば、コーゾー様を引き摺ってでも帰りますけどね」
「あ、ああ。そのときは帰ろう」
「はいっ」
アトリの微笑みに救われる。あの怪しい男から本当に薬草が買えるかはわからないわけで、この機会は逃したくない。
「ちょっと待って、マスター。この木材はどうするの?」
「ご主人様、こんなの持っていけませんわ」
「コーゾー、これすんごく重いのだ……」
「……」
シャイルたちに言われて気付く。みんなで集めた大量の木材、どうしようか。このまま沼地に持っていくのは無理があるし、全部ギルドに持っていく暇もないし、放置すれば誰かに盗られてしまうだろう。
「……隠そう」
というわけで、俺たちは木材の塊を幾つかに分けて、目印の大きな石と一緒に近くの茂みに忍ばせておいた。
……よし、これくらいでいいだろう。こうしてる間にも、もう既に魔女の姿は見えなくなってしまった。急いで彼女のあとを追わなければ……。
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