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第三五回 未知

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「決めたよ、なんのジョブにするか」

「「「「え?」」」」

 アトリたちが唖然としているのもわかる気がする。

 さっきまで鳴り響いていた、朝の六時を知らせる鐘の音より目覚めの効果はあったみたいだ。昨日の俺の様子じゃ、到底朝までに決められそうには見えなかっただろうしな。

「魔術師になろうと思う」

 意識が途絶える寸前、あの魔女の姿が脳裏に浮かんだことで決めたんだ。

 普通の魔術師だとあの威力や詠唱後の魔法の立ち上がりのスピードは出せないとアトリに言われたが、それに少しでも近付けることができたら満足だ。威力だけなら召喚師が一番だろうが、それだけだと味気ない気がしたんだ。

「ついにご決断なさったんですね……。いいと思いますよ」

 アトリに言われるとなんだか心強い。

「……ま、あたちもそれでいいと思う。でも、呪術師も面白かったなって思うのよね」

 シャイルが俺の肩で腕組みをしている。一応呪術師についての話は聞いてたんだな。

「闇属性の陰気な妖精らしいご意見ですわね」

「はあ? じゃあお人形のあんたは何がいいって思ってたのよ?」

「わたくしは法術師がいいかなと思いましたわ。野蛮なシャイルや、獣のヤファにご主人様が天罰を与える意味でも……。オーッホッホッホ!」

「「リーゼエェ!」」

「ひいぃ!」

 みんな朝っぱらから元気いいなあ……。

「ちなみにヤファは何がいいって思ってたんだ?」

「……んー。あたい、説明をまったく思い出せないからわからないのだっ」

 ヤファの台詞でみんな噴き出してる。この子らしいな。

「でも、これだけはわかるのだ。何を選んでも、何が起きてもコーゾーについていくってことは……!」

「……」

 ヤファの台詞に全員が神妙な顔でうなずいている。それだけ俺を信じてくれてるってことか。プレッシャーは当然あるがやりがいもある。俺にどこまでできるかはわからないが精一杯やるつもりだ。少しくらい期待に応えてやらないと悪いしな。



 あれから俺たちは朝食として宿から支給されたパンを分けて、みんなと食べながら教会に向かっていた。

 不味いわけじゃないが、なんとも味気ない……。以前アトリが食べさせてくれたパンがどれだけ美味いかがわかる。なんせ、朝から行列ができるくらい人気の店らしいしな。時間に余裕があるならそこに行きたいくらいだが、今はなるべく急がないといけない。セリアたちがまだ俺たちを探している可能性もあるから、ジョブチェンジは早めに済ませておきたいんだ。



 ――しばらくして教会の入り口が見えてきた。隣の鑑定屋は相変わらず人気で早くも行列ができている。

「マスター、こっちの方角は凶みたい」

「……そうか。仕方ない。迂回しよう」

 シャイルに止められたので裏道を通ることに。面倒だが、もしかしたらあの行列の中にセリアたちがいる可能性もあるわけだからな……。

 裏道から進み始めて数分後、いよいよ教会の敷地内に足を踏み入れることができた。鑑定屋ほどじゃないがここも結構人がいるのがわかる。

「……あ、あのー……」

「ん?」

 教会の入り口で立っていた少女に声をかけられる。緑色のローブを着た、とても長い薄水色の髪を後ろで一本に纏めた少女だ。

「コーゾーさんですよね? あの、お話があります……」

 ……なんだ? 俺の名前を知ってるだと? 俺はこんな子しらないが……。

「だ、誰なんですか、あなたはっ……」

 アトリが俺の前に立って声を荒げる。

「あ、自分は怪しいものじゃないですっ! 鑑定師見習いのターニャと申します。よろしくですー!」

 ターニャと名乗った少女に笑顔でぺこりと頭を下げられる。なんだか人懐っこい感じの子だ。鑑定師見習いってことは、まさか……。

「まさか、すぐそこにある鑑定屋『ディープ・フォレスト』の?」

「あ、はいそうです! よくわかりましたねっ!」

「……」

 そういや、あそこで視線を感じたことがあったが、この子がいたからっぽいな……。

「鑑定師様の見習いの方なのですね。コーゾー様にどういったご用件なんですか?」

 鑑定師の知り合いのアトリが知らないってことは、最近助手として入った子なのかもしれないな。

「あのっ、師匠から伝言があるので言います! えと、えと……」

「落ち着いて」

「落ち着いてください……」

「す、すみません……。すー、はー……あの、コーゾーさんが未知のジョブに就ける可能性が高いので、そのことを伝えるように、と……」

「……ええ?」

 未知のジョブだと……?

「えーっと……そうだ! し、失礼いたしました! すべての属性魔法を5まで上げるようにと。そうすれば前代未聞のジョブが発現するであろうと、そう仰られてました……!」

「……こ、コーゾー様、とんでもないことに……」

「……ああ……」

「マスター、すごひ……」

「さすがはご主人様ですわ……」

「コーゾー、すんごいのだぁ……」

 アトリたちの声は一様に震えていたが、その気持ちもよくわかる。なんせ誰もなったことがないジョブに俺がなれるというんだからな……。

「……アトリ、さくっとレベル上げしてくるか」

「そ、そうですね。コーゾー様ならレベル5なんてすぐでしょうし……」

「あ、あのっ! 師匠が、未知のジョブにチェンジしたらもう一度来てほしいそうですー! お金もいらないそうですよっ!」

「ああ、わかった。ありがとう、ターニャ」

「はい! ではではっ!」

 鑑定屋に向かって猛然と走っていくターニャ。多分、新しいジョブについてのアドバイスをしてくれるんだろう。ありがたい話だ。
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