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第三三回 芝居

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 全ての魔法に対する耐性80%という自分の固有能力も判明し、あとはジョブを何にするか決めるだけになった。

 もちろん、アトリが薦めた通り召喚師、魔術師、呪術師、法術師、結界術師の五大魔法職のいずれかにするつもりだ。ジョブ授与の儀式は午後六時までに教会で申請すれば行われるそうなので、それまでじっくり考えることにする。

 そのためにまずはゆっくり休める場所が必要ってことで、早速例の魔法の家を買いに行ったわけだが、道具屋は閉まっていた。

 まさかの野宿かと心配していた矢先、俺は大事なことに気付く。食事と鑑定で2300グラード使ったとはいえ、まだ700グラードもあるからホテルで宿泊すればよいだけだということに……。これが貧乏性というやつかとみんなと笑いつつ、俺たちは宿が立ち並ぶ大通りで宿泊先を探すことにした。

「――申し訳ありませんが、ここは既に満室でして……」

「……」

 店員に頭を下げられて、俺たちは大人しく引き下がるしかなかった。これで何度目だろうか、店先で断られたのは……。

 さすが、各地から人が集まる商都なだけあって、どこの宿も満室状態だった。これじゃ夜の公園が町のようになるのも無理はないと思える……。

 こうなれば俺の地の魔法で公園に簡易な家でも建てようかと提案したが、アトリによればどれだけ持続性があろうと、術者の意識レベルが下がった時点――つまり俺が眠った時点――で魔法で作ったものは消えてしまうのだそうだ。

 大通りにある宿はもう探し尽くし、裏通りの宿にも全て断られた。こうなったら野宿しかないんだろうか……。

 溜息を引き連れながら、俺たちは大通りからかなり離れた二十六件目の宿に入る。最早訪ねてない宿を探すのすら難しい状況、ここがダメだともう厳しいだろう。アトリは、俺に野宿をさせるわけにはいかないとはりきってくれていたが、さすがに疲れも見えてきた。

 ……ん? 宿のカウンターで受付の男と話していたアトリが笑顔で振り返ってきた。

「コーゾー様! お部屋が一つだけあるそうです!」

「……おおっ……」

「「「わー!」」」

 出入り口まで戻ってきたアトリが歓喜の声に迎えられる。

「アトリ、これで野宿せずに済みそうだな……」

「はい。ただ、一名しかダメみたいで……」

「……どういうことだ? 集団じゃダメだっていうのか……?」

「はい……。ここはそういう決まりで、一部屋お一人様しか泊まれないということらしいです。複数だと、騒音とかゴミが問題になる可能性があるからと……。そういうわけで、コーゾー様だけでもここに……」

「……いや、それならこの宿も諦めよう。俺一人だけ泊まるわけにはいかない。それならみんなで野宿したほうがマシだ」

「コーゾー様……お気持ちは嬉しいのですが、勇者様を野宿させるわけにはいかないのです……」

「アトリ……俺はそんなの気にしない」

「……でも……あ……」

「ん? どうした?」

「いい考えがあります。私たちを奴隷ってことにすれば……」

「それって……つまり、奴隷は人としてカウントされないってことなのか?」

「はい。奴隷は基本的に人としては扱われませんし、ご主人様の言うことが絶対ですから、チップを添えてお店の方に事情を話せば納得していただけると思います」

「なるほど……って、お、おい!」

 何を思ったか、アトリがビリビリと自分のエプロンを破り始めた。

「これからしばらく、あくまでも私はコーゾー様の奴隷です。少しの間、芝居をお願いします……」

「あ、アトリ……」

 酷いものだ。アトリは服がボロボロで胸や肩がはだけて髪も乱れて、正視するのもためらうほど奴隷のようになっていた……。

「ヤファ、あなたも……」

「な、何をするのだ、アトリ! やめるのだ!」

「ちょっとの辛抱ですから、大人しくしなさい!」

「……うぅ……」

 当然のように奴隷のヤファも髪や服を乱される羽目になった。短時間で二人とも見事に奴隷っぽくなってる……。

「アトリ、あたちは隠れてれば問題ないわよねっ」

「シャイルは妖精なので、隠れてなくても大丈夫ですよ」

「ほっ……、でもなんかふくざちゅ……」

「ふふっ。真似してみます?」

「ヤダ!」

「ただの妖精のシャイルはともかく……わたくしはどうなりますの?」

「た、ただの妖精? あんたこそ、ただのお人形のくせに!」

「お黙り!」

「何よ!」

「こらこら、喧嘩したらダメですよ。リーゼは、黙っていれば可愛いお人形さんとして見られますから、私が抱っこするのでじっとしててください」

「はい……」

「ププッ……」

「……って、そこにいる下品な妖精! 指差して笑わないでほしいのですわ!」

「ここまでおいでっ。べろべろべーだ」

「ムキー!」

 リーゼが俺の肩にいるシャイルを悔しそうに見上げつつ、ヤファの尻尾を引っ張っている。

「り、リーゼ、やめるのだ! あたいの尻尾は八つ当たりの道具じゃないのだ!」

「「「わーわー!」」」

「……」

 シャイルたちは本当に仲がいいな……。



「――というわけだ。奴隷どもには厳しく言っておくから、頼む」

 俺は宿泊代の150グラードに50グラードをチップとして上乗せして受付の男に握らせた。これで残り500グラードだから痛いが、もちろん顔には出さない。あくまでも奴隷を従えた金持ちのお偉いさんのように振る舞う。

「了解しました、お客様……」

「ほら、さっさと来い、奴隷ども! 少しでも騒いだら承知しないからな!」

「「はい……」」

 アトリとヤファが俺の怒号に体を震わせ、縮こまるようにして俺のあとをついてくる。

「見て、奴隷よ」

「……あら、人間の子もいるのね」

「きっと親に売られたのよ。可哀想……」

 ひそひそと、宿の店員たちから憐れみの声が聞こえてきた。芝居だとわかっていても胸が痛む。ヤファは実際に奴隷だし、アトリも妙に似合ってた上に演技が上手だったからだろう……。
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