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第二八回 成長

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「はっきり言おう。俺ならその倍は出す」

「「……なっ……」」

 男たちの顔に動揺の色がはっきりと見て取れた。よし、先制パンチとしては上等だな。

「もう一度言う。俺たちを見逃してくれるなら、その倍の1000グラードを出す」

「しょ、証拠はあるのかよ? それだけ出せるっていう証拠はよぉ……」

「そ、そうだ。証拠はあるのか……?」

「……」

 ここで薬草を見せれば証明になる。だが、それだけはまずい。鴨が葱を背負ってるようなもんで、ならず者をさらに調子づかせてしまうだけだからだ。

「証拠だって? はっはっは!」

 俺は豪快に笑って見せた。

「お、おい! てめえなんで笑いやがる!」

「あんた、俺たちを舐めてるのか!?」

 俺の行動が予期しないものだったせいか、二人とも驚きと怒りが入り混じったような顔をしている。この辺でいいだろう。既に俺が手綱を握っている状態だ。

「はは……いや、悪かった。だって、そんなはした金で証拠を出せなんて言うもんだから、つい……」

「「はした金!?」」

 二人とも目を丸くしたまま顔を見合わせると、揃って片方の口角を吊り上げて俺のほうに向きなおった。

「だ、だったら助けてやるからよこせ!」

「そ、そうだ。はした金なんだろ……?」

「……」

 俺は露骨に呆れ顔を作ると、溜息交じりに首を横に振った。

「こんな危険な場所に行くのにわざわざ金を持っていくわけがないだろ」

「「……」」

 二人とも言葉が出ない様子で呆然としている。なんせ、魔女がいるかもしれない洞窟だから説得力はあったようだ。

「俺たちを捕まえても、500グラードだけで終わる。だが見逃してくれるなら、その倍の金が手に入る。試してみる価値はあるだろう。もちろん、信用できないなら俺たちのあとを追いかけて来ればいい」

「……わ、わかった。そうさせてもらうぜ。おめー、話がわかるじゃねえか。……ロニー、儲かったな」

「だな、エルガド……」

 二人ともニヤニヤしてすっかりご満悦な様子。彼らは500グラードも儲かり、俺たちは命拾いした上に2000グラードを手にできるというわけだ。

「コーゾー様、さすがです……」

「マスター、凄い」

「話術の達人ですわっ」

「コーゾーはできる男なのだ!」

「……魔女と対話した経験が生きたみたいだ……」

 俺はアトリたちに対して苦笑するしかできなかった。こうも褒められると痒いんだ。元々、俺は小説家の卵でしかなかったからな。今はまだ無力な底辺勇者なりに頑張ったということだ。魔女のときと違って余裕もあったし、少しは成長していると自分でも思う。

「――あら、勇者さんたち、まだこんなところにいたの?」

「……あ……」

 いつの間にか、俺のすぐ後ろに魔女が立っていた。……二人組との交渉に必死だったせいか、まったく気付かなかった……。

「……ま、ま、まままま……魔女……」

「……あ、あひ……」

 エルガドとロニーの二人組が、揃って零れそうなほど目を見開いてガタガタ震えていた。

「ひ……ひぎいいぃぃぃ!」

 ロニーが堪らずといった様子で背中を向けて逃げ出す。

「……あれは勇者さんの知り合い?」

「いや、違う」

「あらそう。それじゃなんか鬱陶しいから殺すわね。《エル・ウィンドカッター》」

「……」

 涼しい風が吹き抜けていったかと思うと、後ろから鈍い音が立て続けに聞こえてきて、恐る恐る振り返る。

「……こ、これは……」

「「「ひぃ……」」」

「みんな、見ちゃダメです……」

 アトリがシャイルたちの前に立ち塞がる。それも無理のない話だった。ロニーの首や手足がその辺に散乱していたからだ。

「……た、助けてくれ……。《ファイアーケージ》……!」

 いつの間にか消えていた炎の檻だったが、エルガドが再び作り出して一人だけ中に閉じこもる形になった。

「……あなた、それなんのつもり?」

「た、頼むうぅ……。見逃してくれ……」

 俺たちからしてみたら考えられない光景だった。無敵状態であるはずのエルガドが、呆れ顔の魔女に向かって涙目でひざまずき、命乞いをしているのだから……。

「こんなことする時点で勇者さんの知り合いじゃないみたいだし、殺すね」

「い、嫌だ。まだ死にたくねえ。助けてくれ……助けて……ママァ……」

「《エル・アーススピア》」

「……ごっ……?」

 男の体は、地面から突き出てきた大きな岩の槍によって頭部まで貫かれていた。風の魔法もそうだが、なんて威力だ……。

「《インヴィジブルボックス》」

 静寂の中、魔女は宙に向かって手を伸ばしたかと思うと、そこからあの帽子を取り出して被った。

「またね、勇者さんたち」

「……魔女よ、待ってくれ。今回、俺の昇格はなしか?」

「……昇格?」

 魔女が数歩進んでから立ち止まる。

「ほら、俺に対する勇者さんって呼び方から……」

「……当たり前でしょ。調子に乗らないで」

 魔女は呆れた様子で振り返りもしなかった。

 正直、俺は若干後悔している。どうしても彼女に何か言いたくなって、ついくだらないことを言ってしまった。なんでこんなことを口にしたんだろうか……。

「……悪かったな」

「また会えたら、考えとく」

「あ、ああ……」

 俺たちは洞窟前で、徐々に小さくなっていく魔女の後ろ姿を見送っていた。その姿が遠くなって、初めて俺は自分が何故話しかけたのかわかった気がした。およそ人間らしさとはかけ離れているはずの彼女のどこかに寂しさを見つけたからだ……。
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