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第十八回 冒険者の巣
しおりを挟む「――はっ!?」
大きな鐘の音が響き渡ってきて目を覚ます。俺が見上げてるのは天井じゃなく、薄暗い空だった。どうやら朝の六時を知らせているらしい。
そうか……いつの間にか魔法の家が消えちゃってたんだな。十二時前に建てたものだし仕方ないか……。
「ん……」
「お、起きたか。おはよう、アトリ」
「……あっ、コーゾー様、おはようございます。家、なくなっちゃいましたねぇ……」
「だな……」
アトリ、鐘の音がしてもすぐには起きてこなかった。この世界の住人だし、ある程度慣れてるのかもしれない。
……というか、シャイルもリーゼもヤファもまだ寝てることに今気付いた。どんだけ熟睡してるんだか……。
「お前たち、朝だぞ」
「朝ですよ!」
アトリと一緒に肩を揺り起こすと、みんなようやく起きてきた。
「おはよう……。あれ、あたちのおうちは……?」
「おはようですわ……。ところでわたくしのおうちはどこに……」
「おはようなのだぁ……って、あたいのおうちがないのだあ!」
「……ふふ」
「あははっ……」
みんな揃ってきょろきょろするもんだから、俺はアトリと顔を見合わせて笑ってしまった。
朝食用にとっておいた果物をみんなで分け合って食べたあと、俺たちは早速冒険者ギルドに向かった。なんせもう財布がすっからかんだから、早く登録して報酬のために依頼をこなす必要があった。
「コーゾー様、もう少しですよー」
「コーゾー、あとちょっとなのだ!」
「ご主人様、残り僅かですわよっ」
「マスター、もーちょい!」
「――ふう……」
先に上がったみんなの励ましもあって、ようやく急激な坂を上り終わった……。
「お疲れ様です。凄い汗ですね……」
「ああ、ありがとう」
アトリがハンカチで汗を拭ってくれた。照れるけど悪い気はしない。
冒険者ギルドは教会近くの高台にあるということで、出発してから十五分ほどで到着したわけだが、その前にある坂を上るのがことのほかきつくて、最後のほうは杖をついてしまうほどだった。みんな体力あるなあ。俺がないだけかもしれないが……。
「コーゾー様、後ろを見てください、綺麗ですね……」
「……おお……」
アトリに言われて振り返ると、見る見る明るくなりつつある町の景色を見渡すことができた。
「とっても綺麗ねっ」
「まるでわたくしみたいですわ……」
「んなわけないでしょ、人形」
「うるさいですわよ、妖精」
「そこは、あたいみたいな美しい景色と言えばいいのだー」
「「犬!」」
「ガルルッ!」
まーた始まった……。
「ほらほら、喧嘩しちゃダメですよー」
アトリが宥めるも、三人の取っ組み合いは収まる気配がない。無尽蔵の体力だな……。
「やりすぎると昼飯減らすぞー」
「「「はーい!」」」
みんな俺の一言であっさりと喧嘩を止めたからアトリも苦笑している。朝食があっさりだったせいか効果覿面だった。というわけで、高台のすぐ脇にあるギルドに向かう。
『サバイバル・ロッド』という文字と杖の紋章が入ったアイアン看板を潜り、石壁に囲まれた扉を開く。
中は薄暗いが結構広くて、ざっと見ただけでも丸いテーブルが六つほどあり、冒険者らしき屈強そうな連中が盃を手に向かい合っていた。
思っていた通り、酒場みたいな空気だな。壁には貼り紙が四枚ほどあるのが見える。あれは依頼者の貼り紙だろうか? その割には少ないが……。
というかなんかここ、冒険者ギルドという割にやたらと過疎ってるように見えるな。冒険者の顔を見ても浮かない表情が多い。朝だからだろうか。それとも、たまたまこういう日だったのか……。
「コーゾー様、登録する前に依頼を見てみましょう」
「ああ」
何か異変を感じたのか、アトリが神妙な顔で貼り紙のほうに小走りで向かっていった。
「……変です」
「え?」
アトリが貼り紙の前で振り返ってきたが、その顔は呆然としていた。
「どうしたんだ?」
「どしたの?」
「どうしたんですの?」
「どうしたのだー?」
俺だけじゃなく、シャイルたちも心配そうにアトリを見ている。
「それが……近くにある洞窟に関連する依頼の貼り紙しかありませんでした。しかも、薬草とかキノコ類の採取といったいつもの依頼なのに、いずれも難易度Sなんです……」
「それってどういう……」
「報酬は多いですが、命の危険も著しく高いことを示しています。おそらく、ここまでなっているのは……」
アトリが放心した顔のままギルドの受付まで走っていく。相当ヤバイことになってそうだな、これは……。
俺が近付いたとき、カウンター前のアトリが振り返ったんだが、その顔には露骨に怯えの色が見て取れた。受付嬢に話を聞いたっぽいな。
「……コーゾー様、今日はもう登録だけにして、依頼を受けるのは止めにしましょう……」
「いや、その前に理由を説明してくれ」
「……魔女の魔術師が洞窟にいるらしいんです」
「……魔女……」
アトリの住んでいた都を滅ぼしたっていう、あの魔女か……。同一人物かはともかく、そんな恐ろしいやつがいたらそりゃ難易度Sにもなるな。だからほかの依頼に人気が集中してこの結果なんだろう……。
「あ、あたち、怖くないもん……」
「シャイル、わたくしだって、こ、怖くありませんわっ」
「シャ、シャイルもリーゼも思いっ切り怖がってるのだ……」
「「ヤファもでしょ!」」
「こ、これは武者震いなのだっ……」
みんなぶるぶる震えて怖がってる様子。さすがにここは退くしかなさそうだな……。
「コーゾー様、とりあえず登録だけ済ませておきましょう。ここで待っていれば新たな依頼が来るかもしれませんし」
「あ、ああ。どうやれば?」
「精神鏡を覗き込んだあと、それを白紙に向けるだけですよ」
「……おおっ……」
自分の情報が異世界言語として紙に記されていく。それを受付嬢に提出し、登録証を受け取ることで晴れて俺もギルドの一員となった。その際、登録料として100グラードを要求されて焦ったが、アトリがこのときのために使わないよう、靴の中に忍ばせておいたという銀貨一枚を手渡して、無事手続きは完了した。これで俺は冒険者として依頼を受け、報酬を貰うことができるようになったわけだ。今の状況は厳しいが……。
「ミヤシタコーゾー様、ギルド構成員としてのご健闘、お祈りしております……」
「あ、ああ……」
大きな胸元まで伸びたオレンジ髪の受付嬢に笑顔でぺこりと頭を下げられる。二十歳くらいだろうか。ハート形のピアスといい、なんだか色っぽい子だ……。
「さっ、コーゾー様、座って依頼が来るのを待ちましょうか!」
「ちょ、ちょっと……」
アトリに腕を引っ張られて、カウンターから遠い奥のテーブルまで連れていかれた。いつものように笑顔だが、なんだか強引だったな……。
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