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85.精霊術師、意表を突く
しおりを挟む「クククッ……」
「やぁん」
「くぅっ」
「…………」
谷底で行われている、強めの狂気を纏った変態盗賊と俺たちの戦いは、まさに異次元な速度を誇る相手が優勢だった。
それでも、エリスとティータの服が延々と切られ続けるだけで、とくにピンチってわけでもないんだけどな。
いくら中級の狂気であっても、精霊王が誇る圧倒的な物理無効化能力には抗えない様子で、短剣であっても鋭い草でちまちまと攻撃し続けてるようなものだ。
ただ、このままだときりがないし、既にもうかなり際どい状態になっているエリスたちが素っ裸になってしまう。そんなことになったら目に毒ってのもあるが、狂気を強めてしまう恐れもあるし、精霊王のプライドにかけてもそれだけは避けたい。
盗賊の速度や防御力を無効化しようにも、狂気の影響で捻じ曲げられて希薄化されるだけでなく、すぐに解除されてしまうため、とにかくタイミングこそが重要なんだ。
やつの弱点を的確に見つけ出し、色々と無効化しつつ打ち破りたい。
ただ、【彷徨う骸たち】パーティーが被っていた髑髏のお面のように、この盗賊にはわかりやすい急所が見当たらないんだよな。
狂気、それも強めのものならなんでもありな気がするが、間違っちゃいけないのは、相手が狂気を纏っているからといって根本的なものを見失わないことだと思う。それは、渇望、狂気を生み出す源泉のようなものだ。
変態盗賊は、中性的な風貌を持つ女性ばかりこれでもかと拉致していた。ここに大きなヒントがあるように思う。それは、つまり――
「――はっ……」
そうか、遂にわかったぞ。ド変態野郎の致命的な弱点が。
「エリス、ティータ、あとは頼むっ!」
「「レオンッ……!?」」
狂気を纏った男がエリスたちにしか興味がないのをいいことに、俺は急いで小屋へと走った。そこにやつの弱点があると思ったからだ。
「――ううーん……エリザ、ジェラート、アイシラ、助けて……」
そこでは気絶したリーフが寝言を発していたが、例の盗賊が側にいないせいか狂気が薄らいでるようだった。
俺は彼を抱っこすると小屋を出てエリスたちの元へと戻った。そう、リーフこそが盗賊の弱点だと確信したからだ。
「おーい、聞いてるか? お前の大切なものは俺が預かってるぞ!」
俺は見えない盗賊にアピールしてやったものの、リーフを人質にするつもりはない。そんなことをしても無意味だし、やつの狂気は和らぐどころか、大事なものを守ろうとしてさらに強くなるだけだろうしな。
「お前の選んだ花嫁は、もうすぐ完全な女となる。嬉しいか!?」
「ナッ……ナニイィッ!?」
やはりやつは俺の台詞に対し、即座に反応してきた。わかりやすい。
「何故なら、俺がこいつのアソコを消してやるからだ!」
「ヤ……ヤメロオオオォォッ!」
盗賊は、女装したリーフを花嫁として選んだ。それは、彼が完全な女ではなく、女装した男で彼の好みと合致していたからだ。そこで、アソコをなくせばただの女性となり、その時点で理想のボーイッシュな花嫁消失する。
リーフには悪いような気がするが、仕方ない。永遠に効果が続くってわけでもないし、かつてエリスが手を消したやつみたいにいつかは元に戻るからな。ただ、今の俺は魔力がかなり高くなってるので長引くだろうけど。
「――ぬあっ!?」
よし、間抜けな声が飛んできたと思ったら、盗賊の姿が見えた。
「見えたー!」
「見えたわね」
「…………」
エリスたちも大事なところが見えちゃってるけどな……って、そんなことより、リーフのあそこを無効化して以降、盗賊は狂ったように俺たちの周りを走り回ってるが、狂気の影響が薄くなったのか大したスピードじゃなくなっていた。
ってことで、早速やつを追いかけて色々無効化してやるとともに、風刃の杖で叩きのめしてやった。
「うぎゃああああぁぁっ!」
お、遂に狂気を追い払ったらしく、やつの姿形がたちまち歪み、別の姿になっていった。しかも二人倒れている。一人は、やたらと勇ましい感じの女性で、もう一人は――って、こいつは、白魔術師のドルファンじゃないか。やはりやつが絡んでいたのか……。
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