83 / 87
83.精霊術師、呑み込まれる
しおりを挟むエリスとティータによると、まだ狂気が発現していないってことで、俺たちはまだしばらくリーフの影の中で様子を見ることに。
例の盗賊は、『これから君を含めて、多くの女性の中から花嫁を選ぶ儀式があるけど、その前に私は食事を済ませて精力をつけるから、もう少しの間だけ待っていてくれたまえ、ベイビー』なんていう寒い台詞を言い放って姿を消した。
女装したリーフに対し、男でも全然かまわないどころか、歓迎するとさえ言ってのけた連続誘拐犯……こんな変態はすぐにでも倒してしまいたいところだが、狂気が姿を見せる前に俺たちが飛び出せば逃げられてしまうわけで、それこそ今までの苦労が水の泡だからな。
「ううぅっ、このままじゃ僕、純情を奪われちゃうよう。ヤダヤダー! お嫁にいけないっ。助けてぇ、エリザ、ジェラート、アイシラー!」
泣き叫ぶリーフ。いくら女装してるからって、お嫁にいけないって……。なんか彼の仕草とか見てると女の子より女の子っぽいし、そういうのも含めてあの盗賊に気に入られたのかもしれない。
「――やあ、待たせたね、ベイビー」
「ひぃっ……」
やがて、盗賊が帰ってきてリーフが嫌々ながら小屋から連れ出される。
やはりそこは谷底にあって、しばらく歩いた先の崖の下では、十人ほどの女性たちが縛られた状態で座っていた。これがさらわれた中級パーティーの女性陣か。好みが偏ってるのか、みんなボーイッシュで中性的な子ばかりだ。
リーフも女の子っぽいとはいえ、中身は男だし盗賊の好みだったのかもしれない。ってことは、狂気は相手の性別まで瞬時に見抜いてしまうってことか? 末恐ろしいな……。
「コホンッ……ある程度集まったし、これから二回目の私の花嫁選びの儀式をさせてもらうよ、ベイビーたち。ちゅっ……」
投げキッスをしつつ、舐めるように女性陣を見つめる盗賊。二回目の嫁選びって言ってるし、一回目があったのか。なのにまた嫁探しって、そのときは気に入った相手が見つからなかったってことだろうか。
「ちなみに、私の花嫁として選ばれなかった者たちは、口封じのためにその場で一人残らず処刑させてもらうけど、悪く思わないでくれたまえ、ベイビーたち」
「「「「「……」」」」」
さすが、みんな中級パーティーの一人なだけあって悲鳴を上げる者はいなかったが、それでもこの世が終わったといわんばかりの暗澹たる面持ちだった。リーフなんて涙目でガクガク震えちゃってるし。
「ま、もし仮に嫁として選ばれたとしても、飽きたらその時点で殺して埋めるし、また誘拐の繰り返しなんだけどね。ごめんね、ベイビーたち」
「…………」
これは、さすがに狂ってるんじゃないかと思ってエリスたちの顔を見たが、同じタイミングで首を横に振られた。
おいおい、これでもまだ発現してないのか。さすが、初級じゃなくて中級パーティーを狙っているだけあって、正常な状態からもう狂気の度合いがかなり強いんだな……。
「でもね、レオン。さっきから狂気が外に出たがってるような気がするよー。ねえ、ティータ」
「そうね、エリス。私もそんな気がするわ。狂気が出てくるタイミングとしてはもうすぐなはずよ、レオン」
「なるほど……」
エリスとティータの言う通りなら、もうちょっと辛抱するだけでいいか。盗賊から強めの狂気が出掛かってる影響かイライラしてくるが、しらみつぶしに無効化しつつ我慢だ。
「さあ、私の花嫁は誰にしようかなあ、誰かな誰かなあ、フッ……」
「「「「「うぅ……」」」」」
絶対に選ばれたくないけど、選ばれなかったら処刑されてしまうので選ばれたい。そんな相反する感情のせいか、なんとも絶望的な空気が漂う中、変態盗賊の嫁探しはいよいよ佳境を迎えつつあった。
さあ、この中から一体誰が花嫁として選ばれるのやら。そんなの知りたくもないはずなのに、何故だか無性に知りたくなってくる。
いつの間にか夢中になっていて、なんとも奇妙な話だ。これも知らず知らずのうちに狂気に呑まれてしまっているせいだろうか。それがわかるだけ、まだまともなほうなのかもしれないが……。
0
お気に入りに追加
1,300
あなたにおすすめの小説
道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。
名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~
名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」
「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」
「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」
「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」
「くっ……」
問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。
彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。
さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。
「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」
「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」
「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」
拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。
これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~
名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる