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82.精霊術師、面食らう

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「「「「……」」」」

 エリザ、ジェラート、リーフ、アイシラの四人が、横並びになっていずれも緊張した面持ちでエネル草原を歩いていく中、それを俺たちが影の中で見守っていた。

 みんな、やはり誘拐犯のことが気になるらしく、キョロキョロと周りの様子を窺っていた。ただ、それでもやはり慎重な歩き方といい、さりげない感じの視線の配り方といい、無駄な動きが少ないので中級パーティーなのがよくわかる。

 こういうパーティーから、目撃されることもなく女性を一人だけ連れ去るなんて、正直不可能だと思えるんだがなあ……。ただ、一瞬だけ顔を覗かせた光の精霊は、俺の考えに対して首を横に振っていた。

 じゃあ、可能なんだな。小さな精霊たちは怯えているのか、まったく現れてくれない。好奇心の強い光の精霊でさえもそれ以上姿を見せなかった。

 もしかしたら、この【天使の翼】のうちの誰かが誘拐犯で、誰かを連れ去ったあとに何食わぬ顔で戻ってきて、また同じ面子で誘拐を繰り返しをしている可能性もある。

 前回の件でよくわかった。狂気は名前も変えるし、存在しないはずのメンバーさえ作り出すしで、なんでもありだからな。小さな精霊たちが怯えるのもよくわかる。

 ただ、そうだとしてもほかのパーティーが来ないと何も始まらないはずなのに、依然として草原には誰の姿も見当たらなかった。

 この分だと相当警戒されてるみたいだし、しばらくは何も起きないのかもな――

「――あ、レオン、けど、何か来るみたいだよー」

「え……?」

 エリスの台詞に驚く。目に見えないだって?

「エリスの言う通りね。まるでが来るわよ、レオン」

「風みたいなもの……」

 一体どんなやつが来るのか……そう思った刹那、無風状態の草原に一陣の風が吹いた。

「「「「「――っ!?」」」」」

 俺たちを含めて驚きが広がるのも当然で、草原が激しく揺れたあとに【天使の翼】のメンバーが一人、忽然と消えてしまったのだ。

「う、嘘でしょ……」

「チ、チッキショウ……」

「あーあ、やられちゃったねえ……」

 その場には、大いに衝撃を受けた様子の黒魔術師エリザ、白魔術師ジェラート、踊り子のアイシラの三人が残されていた。つまり、さらわれたのは女装した剣士リーフだったというわけだ。

「リーフが誘拐されちゃった……ひっく……ごめん、私がバカだったわ……」

「大バカだよ、エリザ、てめーは! リーフをさらわれちまっただけじゃねえか!」

「な、何よ、そこまで言わなくてもいいでしょ!? ジェラートがさらわれたらよかったのに!」

「それはこっちの台詞だ、エリザ、てめえが誘拐されりゃよかった!」

「「ゴルルルアッ!」」

「はあ。喧嘩なんかしたって、もうリーフは戻ってきやしないんだよ、おバカ」

「「……」」

 アイシラの鋭すぎる一言で、それまで睨み合っていたエリザとジェラートが項垂れる。だが、問題ない。俺たちはパーティーの影に入ったわけで、この中の誰であっても、その影の中に瞬間移動できるんだ。

 というわけで俺たちは早速、リーフの影に瞬間移動してみることに。

「――むぐぐっ……」

 ロープで体を雁字搦めに縛られ、猿轡を噛まされたリーフがそこにはいた。ここは小屋の中みたいだ。風の音が特徴的なので、おそらくどこかの谷底近くだろう。実際、風の精霊がほんの一瞬だが現れ、ここは崖の近くだと教えてくれた。

「フフッ、そろそろ外してやろう……」

 きざっぽい声とともにそこへ入ってきたのは、顔に複数の傷がある長身の男だった。身なりから察するに盗賊っぽい。

「ぷはっ……ざ、残念でしたー!」

 猿轡を外されたリーフがしたり顔でそう宣言すると、盗賊はいかにも訝しげに
眉をひそめた。

「ン? 何が残念だというのだ?」

「僕はこういう格好をしてるけど、それは誘拐犯のあなたを誘き寄せるために女装してただけで、本当は男だからだよ! ふふっ、残念っ、僕は男だからエッチできませーん」

「フッ……それでもかまわない……」

「あ、あはは、冗談きついなあ――」

「――むしろ、大歓迎さ……」

「え……ええええぇぇっ!?」

 な、なんだこいつ。リーフが女装してると打ち明けたのに、大歓迎だと……? しかもなんら動揺する素振りもなく笑顔で言ってるし、星のブレスレットもまったく反応していない。

「これは明らかに狂ってるし、狂気の化身の仕業だな。よし、出るか、エリス、ティータ」

「んー、レオン、まだ狂ってないと思うよー」

「私もそう思うわ、レオン」

「えっ……」

 俺は一瞬信じられなかったが、精霊王が言うんだから間違いないはず。じゃあ、やつはまだ正常だというのか。なんなんだよ、このキザな盗賊の男は。女性ばかり狙って誘拐してるくせに、両刀使いだっていうのか……?
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