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78.精霊術師、怪奇に触れる

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「ぐすっ……しくしく……」

 鬱蒼とした木々に囲まれた暗い森の奥、俺は泣き声を頼りに一人の幼女を探し当てたところだった。

「こんなところでどうしたんだ? 迷子か?」

「…………」

 泣いている幼女の後ろ姿に声をかけるが、まったく応答がない。警戒されているんだろうか?

「俺は怪しいやつじゃないから安心してくれ。どこか怪我でもしたのか?」

「…………」

「なあ、こんなところにいたら危険だから、俺と一緒に帰ろう。怖いなら喋らなくてもいいから」

「……大丈夫、です。泣くのが……仕事、ですから……しくしく……」

 お、ようやく反応してくれたと思ったら妙なことを言い出した。

「泣くのが仕事? それって、一体……」

「……ぐすっ……それはですね――」

「――――ッ!?」

 なんと、振り返った幼女には

「な、なんで――って、あれ……?」

 そこは森の中ではなく、完成したばかりの宿舎の一室だった。な、なんだ、夢か。あー、びっくりした。

 ただ、あの子の泣き声、以前にも聞いたことがあるような……。

「「くー、くー……」」

「……エリス、ティータ……」

 いつの間にか、俺の側でエリスとティータが折り重なるようにして眠っていた。

 なるほど……【彷徨う骸たち】の顔がなかったのと、エリスたちの寝息が泣き声に聞こえて、ああいう夢を見ちゃったんだろうな。

「「んん……」」

「…………」

 二人で抱き合ってるし、無の精霊同士だからっていうのもあるのか、なんだかんだ仲がいいなあ。肩とかお腹が大きくはだけていて目に毒だが。

 さて、狂気の化身のことが気になるし、彼女たちを起こして冒険者ギルドへ出発するか。

 なんせ【彷徨う骸たち】の件で、狂気の恐ろしさを嫌というほど思い知らされたからな。

 あの事件を解決して早くも金貨5枚貯まったが、それまでの洞窟ダンジョンを攻略するよりもずっと厳しいと感じた。

 宿舎からかなり近いこともあり、まもなく俺たちがギルドに到着すると、ソフィアはいつものように安心感のある笑顔で迎えてくれた。

「おはようございます、レオン様、エリスさん、ティータさん」

「おはよう、ソフィアさん」

「ソフィア、おはよー!」

「おはようだわ、ソフィア」

 昨日あんなことがあったのに普通にぐっすり眠ることができたのも、楽の精霊である彼女と契約したおかげだろう。なのにあんなホラーな夢を見たのが尚更不思議ではあるが。

「折角レオン様方がいらしたので、楽しいお話をしたいところではありますけど、また事件が起こったみたいです……」

「「「えぇっ!?」」」

 俺たちは衝撃を受けた顔を見合わせた。昨日事件を解決させたばかりだっていうのに……。これも【彷徨う骸たち】を倒したことで、狂気を逃した影響がすぐに出た格好なのか。

「場所はエネル草原で、中級パーティーの女性が何者かに誘拐される事件が立て続けに発生しています」

「エネル草原……」

「レオン、そこってどんなとこー?」

「どんなところなの、レオン?」

「あぁ、そこはな――」

 俺は興味津々な様子のエリスたちに説明してみせた。

 そこは前回行ったゼカストの森の向こう側にあるところで、遠くにいる人間がしゃがみ込んでもはっきり見えるくらい、かなり見通しのいい草原なんだ。

 だからこそ、俺はそんなところで連続して誘拐事件が起きているってことが信じられなかった。

「ソフィアさん、あんな目撃されやすい場所で、それも中級パーティーの女性だけ狙って誘拐なんてできるんですかね?」

「それが……どんなに警戒してもあっさり誘拐されてしまうとのことです……」

「…………」

 しかも一人でいたとかじゃなくて、パーティーでいるのにか。これはかなり異常な事件だと思うし、狂気の化身が関わっているのは間違いない。

「ねえねえっ、レオン、わたしたちも誘拐されちゃうのー?」

「エリス、私たち【名も無き者たち】はS級パーティーでしょ。超上級なのよ」

「あ、そっかー。残念っ」

「そうね。ちょっと残念かもだわ……」

「…………」

 いくら事件を解決するっていう目的があるとはいえ、誘拐されないのを残念がるなんてエリスとティータくらいじゃないか? まああんまり意味がわかってないのもあるだろうが。

 今回も特別措置の依頼が設けられている。何々……解決した場合は金貨15枚か。前の襲撃事件以上に報酬が大きい。中級オンリーってのもあるんだろうが、それだけ誘拐された人員を取り戻したいっていう切実さが見て取れた。

 さあ、一体どんな中級パーティーがこれを引き受けるのか、しばらくここで様子を見るとしよう。
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