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61.精霊術師、プレッシャーをかける

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 いよいよ、待ちに待ったが訪れようとしていた。

 敵対勢力【堕天使の宴】の黒幕――第二王女――との約束の時間である夜の九時が近づいてきたということもあり、俺たちは冒険者ギルドへと入った。

 大勢の兵士たちが待ち受けているとかそういう気配もなく、普段と変わらない空気が漂っていた。

 ソフィアは何かよからぬことが起きそうだと言っていたし、俺自身も胸騒ぎがあったわけだが、今のところ大丈夫そうだな。

 ただ、何もないと思わせておいてトラップ発動、なんてこともありうるわけで、しばらく警戒心は解かないほうがいいだろう。

「レオン、ここで何か食べるのぉー?」

「何を食べるの、レオン?」

「いやいや、ここは食べるところじゃないから」

「「ふーん……」」

 ギルドの待合室は、エリスとティータが勘違いするのもわかるくらい、一見カフェのように分厚い仕切りが幾つも設けられている。

 しかも、防音効果もそれなりにあるってことで、パーティーが今後の作戦を決めたり、引き抜き工作等の誘いをしたりと、秘密を聞かれないように工夫された構造になっているんだ。

 逆に言えば、ここであればなんらかの伏兵を置くことも可能なわけだが、察知能力に優れるエリスたちが匂わせてこないので大丈夫のはず。とりあえず、もうそろそろ九時になるから適当にどこかに座るとしよう。

「ここでいいか」

「ぺたんっ」

 ありゃ……エリスがテーブルの上に座ってしまった。俺と向かい合う格好だが、ワンピースの裾から下着が見えるのでなんとも目のやり場に困る。

「おいおい、エリス、そんなところに座っちゃダメだぞ」

「えー!? だってー、ここって何かを食べるところじゃないんでしょ? それとも、レオン、わたしを食べちゃう?」

「…………」

 エリスがテーブル上で寝転がってしまった。まったく……。

「もう。マナーが悪いわよ、エリス」

 ティータが椅子の上に土足で立って注意している。うーん、どっちも似たもの同士だな……。

「あ、誰かこっちへ来るよー」

「来るわね……」

「お……」

 少し遅れているものの、約束の時間に間に合わせてきたか。まもなくエリスとティータの言う通り、コツコツという足音が徐々に近づいてきた。

「――オッホン……」

 なんとも偉そうな咳払いとともに俺たちの前に現れたのは、目や鼻の下、口の部分のみに穴がある白い仮面をつけた人物だった。

 初めて目にするかのような、この上なく艶のある高級そうな装飾品、服装で身を固めているし、彼女が第二王女なのはほぼ間違いないだろう。

「ギルドカードは拝見したよ。【堕天使の宴】のリーダーさん」

 さて、俺の言葉に対してどう反応するのやら。なんらかの嘘をつこうとしても、こっちにはそれを見破る星のブレスレットがあるので問題ない。

「……そ、そうか。見たならば、余と貴様らの立場の違い、思い知ったであろう? 今ならば特別に許してやるから、とっとと謝罪しつつカードを返すのだ!」

「「「……」」」

 俺はエリスらとぽかんとした顔を見合わせた。こいつ、自分の立場が本当にわかっているのか……。

「そんなことを言える立場なのか? もう話は終わりにして、このギルドカードをみんなに見せびらかすかな」

「ちょ、ちょっと待て! レオンとか言ったな? 貴様はあれだろう、金が欲しいんだろうから、それで手を打ってやるので、ありがたく思えっ!」

「「「はあ……」」」

 俺たちの呆れ顔や溜め息が被ったことで、世間知らずの王女に対していい具合にプレッシャーを与えている模様。

「か、金が目的ではないのか!? む、無理をするな! って、もしかして、よ、余の体を求めているというのか……!? け、汚らわしい……!」

「「「……」」」

 一人で身悶えててなんだか滑稽だ……って、そろそろこっちの怒りを見せつけてやらないといけないな。

 そういうわけで、俺は計画通り、テーブルの防御力を無効化しつつ杖で木っ端微塵にしてやった。

「な、なっ……!? き、貴様ら、まさか余に危害を加えようというのか? よ、余は王女だぞ!?」

「わかってますよ、第二王女マリアン様」

「くっ!? わ、わかっているなら、余に武器を向けるなっ! それ以上近付くでないっ!」

「はあぁっ!」

「ぎっ!?」

 俺は王女の周りにあるものを対象に、手当たり次第に破壊していった。体に危害を加えるくらいの勢いで。

 ん、白目を剥いて倒れたと思ったら痙攣してるし、気を失ったっぽいな。まあこれくらいでいいか。さすがに暴れすぎたせいで、なんだなんだと野次馬たちが集まってきたし。

「「「「「あれ……?」」」」」

 破壊と再生のペンダントの効果で壊したものが元通りになり、集まってきたやつらが幻でも見たと思ったのか、不思議そうな顔をしながら立ち去っていく。

「――う……?」

「あ、王女様が起きたよ、おはよー!」

「おはようだわ、王女様」

「おはよう、王女様」

「えっ……」

 唖然とした表情で周囲を見渡す第二王女マリアン。ちなみに仮面は外しているわけだが、気の強そうな顔だと予想していたところ、逆に大人しそうな容姿だったので驚かされた。

「な、なんだ、今までのは余の夢だったか――」

「――頬に血がついてますよ、王女様」

「へ……? なっ!?」

 頬を触った指を見て、マリアンがギョッとした顔になる。

「俺が破壊したものが飛び散って、それで怪我しちゃったみたいですね……」

「…………」

 俺の発言に対して血の気が引いたらしく、見る見る青ざめていく王女。

「……よ、余が悪かったと思っている。ごめん……」

 マリアンがあっさり過ちを認めて謝ってきたが、ごめんの一言で済む問題じゃないんだよなあ。星のブレスレットが点滅したことから、これが偽りの謝罪であり全然反省していないのはバレバレだ。

「ごめんって……俺たちは何度も何度もあなたに危害を加えられたんですよ? それも、無関係の人も巻き添えにして!」

「そうだよー!」

「許せないわね……」

「……ほ、本当に、悪かった。そなたら【名も無き者たち】には、心底申し訳ないことをしてしまった。余が作った【堕天使の宴】はすぐに解散させるつもりだ。だから、余がこのパーティーを作ったという秘密だけはバラさないでくれ……」

 ……お、星のブレスレットが反応しないし嘘じゃないらしいが、あとで気が変わったとか言われる可能性もある。

「……言葉だけですか……?」

「「言葉だけ?」」

「こ、これっ、そこの者っ、ヒソヒソ――」

「――はっ!」

 お、従者っぽいのが駆け寄ってきたかと思うと、王女の話に耳を傾けたのち、素早く走り去っていった。

「えっとだな、【堕天使の宴」の面々は今、闇の洞窟ダンジョンにおり、貴様ら――い、いや、そなたらを待ち伏せしているため、すぐにこちらへ呼び戻すように手配した。これでよかろう」

「じゃあ、あなたが本当にパーティーを解散させて、メンバーが戻ってくるところをこの目で確認したらカードを返しますよ」

「む、むう……」

「何か文句が?」

「あるのー?」

「あるのかしら……?」

「い、いやっ……しかし、恐れ入った。余をここまで追い詰めるとは。冒険者というものを舐めすぎていたようだ……」

「冒険者を舐めていた……? じゃあ、【堕天使の宴】の面々は冒険者じゃないっていうんですか?」

「いや、冒険者ではあるが、その中でもとして疎外されてきた者たちであるのだ……」

「…………」

 そういえば、なんかパーティーとしては協調性があまり見られないやつらだったような。

「元々聞く予定でしたけど、あなたがそんな連中を集めて俺たちを執拗に妨害してきた理由を聞かせてもらいますよ」

 わざわざそんな連中を集めたってことで、俺たちの邪魔をしたのはただ単にダンジョンの記録を守るためってわけでもなさそうだ。

「わ、わかった。話すから、そんなに睨まないでくれ……」

 この人、今にも泣きそうになっている。俺たちに対してここまでしておいて意外と打たれ弱いんだな。まもなく、彼女は咳払いをしつつ、おもむろに語り始めた……。
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