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45.精霊術師、目のやり場に困る
しおりを挟む「「ひゃっ!?」」
「…………」
例のパーティーを追って地の洞窟ダンジョンへ入った俺たちだったが、思わぬ洗礼を受ける羽目になってしまった。
中は視界が遮られるほど蔦が伸び放題で、自分たちの姿を消しても擦り抜けることができなかったんだ。
というのも、洞窟全体に広がる蔦は決して倒すことができない一種の強力なモンスターのようなもので、その魔力の総力を考えると一部であっても無視して進むことはできないんだとか。
しかも、どんどん体に巻き付いてくるため、いちいち切断しないと体が締め付けられて結構苦しい。全部切ってやろうと思っても再生スピードが尋常じゃないため、巻き付いてくるのを切りながら少しずつ先に進むしかなかった。
「ひゃうぅ。もー、どんどん巻き付いてくるよぉー」
「……ホ、ホントね。あうっ」
エリスとティータは特に蔦から好かれてるみたいで、俺よりも体に巻き付いていて少しでも放置すると緑色の服が出来上がりつつあった。
それはいいんだが、彼女たちの体が中途半端に蔦に絡みつかれていると煽情的で、かなり目のやり場に困ったんだ。と、とにかく、今はあのパーティーに追いつくことだけ考えないと……。
「「「――っ……!?」」」
蔦と格闘しながら進んでいると、やがて前方から微かに会話する声が聞こえてきた。
どうやらもうすぐのようだ。こんなスローペースでも追いつくってことは、相手もこのしつこい植物を前に苦戦してるんだろう。ここからは俺たちがここにいるとバレないように、さらに慎重に前進していかないといけない。
お、見えてきた見えてきた。茂った蔦の一部を掻き分けて、やつらの様子を見守ることに。
「ほらほら、早く燃やしなっ、アダン! 何ぐずぐずしてるんだいっ!」
いかにも不機嫌そうに他人任せな台詞を吐いたのは、自身へ向かってくる蔦をショートソードで切り払う短髪の女剣士だった。
「……はあ。わかってるって、ルディ。だりー……」
なんともだるそうに蔦を燃やしているのが、ローブを着た長髪の男の黒魔術師だ。やる気の無さに比例して火力も弱いらしく、あまり燃え広がってないのがわかる。
「こ、こんなんじゃ全然先に進めないですし、どんどん蔦で道が塞がってきちゃいますよ……」
白衣を纏った白魔術師っぽい若い男が、今にも泣きそうな顔になっている。
「……そこまで言うならお前もやれ、イシュト」
「でも、僕は白魔術をやるのに忙しいのに……って、わ、わかったからそんなに睨まないでよ、リヴァン……」
左手でダガーを持った盗賊らしき男に凄まれ、白魔術師が渋々といった様子で杖で蔦を払い始めた。
なんだか見た感じ、かなり頼りないパーティーに思える。本当に彼らが俺たちを脅した連中なのかわからなくなってきた。
ただ、見た目だけじゃわからないところもあるので、もうしばらく観察してみることに。
そうしていくうちに、俺は目の前のパーティーの特徴を徐々に掴んでいった。どうやらあの女剣士のルディっていうやつがリーダーのようで、ファゼルのように短気な性格っぽい。
彼女にやたらと怒鳴られているのが、やる気も魔力も低そうな黒魔術師のアダンで、それでも神経は太いのか何度叱られようとも平然としていた。
それとは対照的に、オドオドした様子で何かと周りを気にしているのが白魔術師のイシュトで、かなり神経質っぽいが白魔法を切らすことなく周囲にかけていた。この男の爪の垢をドルファンに飲ませたいくらいだ。
よくわからないのがリヴァンという左利きの盗賊の男で、周りとあまり会話することもなく黙々と蔦をダガーで切り取っていた。なんだか、自分を押し殺しているように見えるのは気のせいだろうか。
「このままぐずぐずしてたら、また【名も無き者たち】に記録を作られちゃうよ!」
「「「っ!」」」
ルディの発言をきっかけにして、俺はエリス、ティータと顔を見合わせる。もうこれは、彼らが【堕天使の宴】だと確定したようなものだろう。
ってことは、彼らは今まで本来の力を出さず、適当にやっていたってことだろうか。とにかく、そうと決まったなら目に物を見せてやらねば……。
「「「「はっ……!?」」」」
そう思った矢先、彼らの周囲を蔦が勢いよく取り囲み始めた。これは、ただの蔦じゃない。おそらく、地の洞窟の本来の意味での棲息モンスター、邪面草の仕業だ。
岩肌に邪悪な人の顔をした根を張り、そこから普通のものより強力な蔦を伸ばして獲物の体力を奪い取ろうとするのだ。
SS級パーティーである彼らがこれにどう対処するか見物だな。邪面草は大して強いモンスターではないが、今までと違って多少本気を出さないとまずい状況だし、仕置きをする前に高みの見物とさせてもらおうか……。
「な、なんなんだい、こりゃ。きりがないから逃げるよっ!」
「おっけー。助かる」
「は、早く逃げなきゃっ!」
「……了解」
「「「……」」」
な、なんてことだ。俺たちは目のやり場に困って、互いに呆れた顔を見合わせることになった。出現した邪面草に対し、彼らは対処しきれずに一斉に逃げ始めたのだ。
一瞬、追いかけようかと思ったものの、やめることにした。これじゃ、やっつける気も起きないからだ。本当に彼らはSS級パーティーの【堕天使の宴】なのか……?
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