上 下
27 / 87

27.精霊術師、ペットにされる

しおりを挟む

「「「……」」」

 多くの冒険者で賑わうギルドの待合室、その片隅には、まったく存在感のない三人がいた。

 彼らは、A級に降格したばかりのパーティー、【天翔ける翼】の面々――戦士ファゼル、鑑定士レミリア、黒魔術師マールである。

「――やあ、戻ってきたよ、諸君」

「「「あ……」」」

 そこに陽気な顔をした白魔術師のドルファンが戻ってくるなり、彼らのどんよりとした表情に一筋の光が宿った。

「お、遅いじゃない、何やってたのよ、ドルファン……」

「ホントだよぉ。ドルファンさん、お帰りっ」

「あ、あぁ、ただいまだ」

「ちょっと、ファゼル、お帰りくらい言いなさいよ」

「そうだよ、ファゼル。ドルファンさんまで抜けちゃったら、マールたちは本当に終わりになっちゃうのに!」

「……お、おか、えり……」

「「「……」」」

 ボソッと呟くファゼルに対し、気まずそうに顔を向け合うメンバーたち。

「それより、ドルファン、腹痛は白魔術と関係ないとか言っちゃって、本当にごめん……」

「ん、な、なんだ、レミリア、急にどうしたのかね?」

「さっきね、誰かが、お腹を壊したら魔術の調子が悪くなったとか話してて……」

「……そ、それはそうだろう! 無知な君たちにはわからんかもしれんが、魔術と腸には密接な関係があるのだよ……」

 口元を引き攣らせながら気まずそうに話すドルファン。

「ドルファンさぁん、まだ調子が悪いのぉ?」

「も、もう心配ない、マールよ」

「あ、マールのこと、名前で呼んでくれたぁっ。嬉しいよぉっ!」

「なっ、馴れ馴れしく抱き付くな、このメスガキめがっ!」

「あぁんっ」

 マールを勢いよく突き飛ばすドルファン。その顔には、いつもの傲慢な笑みがすっかり戻っていた。

「腹の具合は治ったからもう大丈夫だ。というかだな、もしあのとき、僕が超優秀な白魔術をかけていなければ、どうなっていたと思うのかね? ファゼル君は手首どころか胴体を切断されていたはずだ……」

「そ、そうなんだ。じゃあ、手首だけで済んだのは不幸中の幸いだったんだね……」

「だねえ。ドルファンさんがいて本当によかったぁ……」

 レミリアとマールが互いに同調した様子でうなずき合う。

(……本当にちょろいクソゴミパーティーだ。そろそろ逃げようかと思ったが、もう少し骨をしゃぶってからでもいいか。ただ、アホのファゼルをなんとかしないとしゃぶろうにもしゃぶれんな――)

「――レ、レオン……」

「ファ、ファゼル? なんでレオンの名前なんか出すのよ……!?」

「へ、変なのお……」

「…………」

 ドルファンがはっとした顔になったのは、ファゼルがレオンの名前を口に出した直後だった。

(そうだ……その手があった。とりあえずレオンの話題を振ってこの間抜けを励ませばいい。昔が懐かしいからこそ、やつの名前を出すのだろうから)

「コホンッ……ファゼルよ、レオンの姿なら、さっきこの辺で見かけたぞ」

「な、なんだって!?」

「ファ、ファゼル? 一体どうしたのよ、急に興奮しちゃって」

「ファゼル、どうしちゃったの? なんだか怖いよぉ……」

「う、うるせえ! レオンはどこだ!? やつさえ戻ってくれば、全部うまくいくような気がするんだ!」

「「「……」」」

 ファゼルのあまりの興奮する様に、呆然とするメンバー。

「ま、まあ待ちたまえ。レオンは惨めにもどこかのパーティーの雑用係だった。ファゼル、左手を失った君がマシに見えるほど、あまりにも無様だった……」

「……そうか。ま、レオンの能力なら雑用係くらいしかできねえだろうな。てか、それならこっちに来るように伝えればいいんだ」

「何故だね?」

「やつは幸運の置物だった。今から考えたらな。だから、連れ戻すべきだって思うんだ……」

「ふむ……」

「確かに一理あるかも? レオンのことは嫌いだけど、あいつがいた頃のほうがよかったような……」

「マールもそう思うっ」

「レミリアもマールもそう思うだろ? レオンの野郎は多分、不幸を吸って他人を幸せにする益虫タイプなんだ……。で、やつは今どこにいるんだ? ドルファン」

「それが、行方不明になってしまってね……」

「「「えぇっ!?」」」

「ただ、まだそう遠くへは行っていないだろう。それに、レオンも戻りたがっていた」

「ほ、本当か?」

「うむ。前のほうがマシだったと言っていた。リーダーはガサツで、ほかのメンバーはうるさかったが、それでも頼り甲斐があったと。なのに、ファゼル、君がそのザマでは、レオンも戻りたいとは思うまい」

「くっ……そ、そうだよな。左手を失って失意のどん底にいる今の俺じゃ……レオンにさえ笑われちまう……」

「それは違うぞ。左手がなくても堂々としていればいいのだ。男の勲章だと思って、レオンも誇りに思うはずだ」

「わ、わかった。俺がレオンの飼い主だからな。堂々とするぜ!」

「あはは、その言い方だとレオンがペットみたいだけど、ファゼル、その調子よ」

「うんうん! 幸運を連れて来るペットのレオンを飼おうよ!」

「…………」

 喜ぶファゼルたちを見て、内心見下したように目を細めるドルファン。

(本当にバカな連中だから滑稽だ。こいつらをやる気にさせて、もっとボロボロにしてから始末したほうが後腐れもないだろう。も見つけたしな……)



 ◇ ◇ ◇



「ねえねえ、レオンッ、はなあにー?」

「ん……」

 俺たちはこれから、馬車のある厩舎へ向かおうとしていたところだった。

 エリスが何かを指差したのでその方向を見ると、髭を蓄えた男に鈴がついた首輪と紐をつけられて楽し気に歩く猫耳の亜人だった。格好もやたらと際どい。

「あれは、奴隷――いや、ペットっていうんだよ」

 本当は奴隷なんだが、こっちのほうがソフトだと思って訂正した。似たようなものかもしれないが。

「えー、人間みたいに歩いてるのに?」

「あ、あぁ」

 その質問にはなんとも返答し辛いが、まあそういう世界だからな。

「じゃあ、わたしもレオンのペットなの……?」

「おいおい……エリスは精霊王なんだから、どっちかっていうと俺のほうが……」

「そうなんだぁ! じゃあ、あの子みたいに紐つけちゃおうか!」

「……いや、遠慮しておく」

「えーっ! レオンが嫌なら、わたしの首につけてもいいよ?」

「いやいや……」

 エリスは長く世間から隔離されてた影響でなんでも新鮮に見えるから、目に見えるものを真似したくなっちゃうんだろうな。そんな他愛のない会話をしつつ、俺たちは目的地を目指すのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

処理中です...