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19.精霊術師、影響を及ぼす
しおりを挟む『グオオオオオオオッ!』
「……ぜぇ、ぜぇ、ぜえぇ……」
スノーゴーレムが倒れ、汗だくの戦士ファゼルが斧に寄りかかったとき、周囲の景色が徐々に変わり始めた。
「ご苦労だった、ファゼル君。ヒールッ」
「ファゼル、お疲れ」
「ファゼル、頑張ったねえ」
「…………」
ファゼルは、自身に声をかけてきた白魔術師ドルファン、鑑定士レミリア、黒魔術師マールのほうを見向きもしなかった。
(この戦いが終わったら、俺……レオンを呼び戻すんだ……。そうすりゃ全て丸く収まる。以前よりもやつをこき使うことになるが、どうせ無能には仕事なんてねえから雑用係でも泣いて喜ぶだろうし、ドルファンたちのガス抜きにも使える。何より、俺はリーダーとしての威厳を取り戻せるってわけだ……)
満足げに笑うファゼルだったが、その時間も長くは続かなかった。
『グルルルルルルァァッ!』
「「「「っ!?」」」」
氷の洞窟ダンジョンのボス――氷の狼ハティ――が姿を見せたかと思うと、間髪入れずに怒り狂った様子で襲い掛かってきたからだ。
「ファ、ファゼルッ、激怒状態っ!」
「レ、レミリアッ、そんなの見りゃわかるって――くっ!?」
ファゼルが慌てて回避しようとするも、相手のスピードが一段上回り、咄嗟に防御姿勢に入った。
「ぐああああぁぁっ!」
体格のいいファゼルの体が大きく弾き飛ばされ、凍った岩に背中から激突する。
「ぐふっ……へっ、へへっ。鉄壁だから痛くねえし。い、痛くねえ、痛くねえ……いってええええっ!?」
しばらく余裕の表情だったファゼルだったが、苦悶の形相で雪の上を転がる。その場所には血が滲んでいた。
「ファ、ファゼル!? あれ、どうして……!?」
「ど、どうしてなのお!?」
今までのようにダメージは通らないはずが、極端に痛がる素振りを見せるファゼルに対し、レミリアとマールの懐疑的な視線が向けられる。その眼差しが傍らにいるドルファンに向けられるのは時間の問題だった。
「――ヒッ……ヒールッ……! スピードアップッ、プロテクツッ……! ぼ、僕としたことが白魔術をかけるのを忘れていた。まあ大目に見てくれたまえ」
ファゼルに駆け寄り、白魔術を使うドルファンの姿を見て、レミリアとマールが安堵した顔を見合わせる。
「な、なんだ、そういうことだったのね」
「ホッ……安心したあ」
「さあ、もう大丈夫だからとっとと立つのだ、ハティの爪と牙を集めるのだよ、ファゼル君!」
ファゼルの手を強く引っ張って無理矢理起き上がらせるドルファン。
「……ぐぐっ……な、なんだよ、プロテクトかけてなかっただけかよ……! 道理で痛いし血も出てるわけだぜっ……! はぁ、はぁ……さあ、もう一度襲ってみやがれ、ハティィィッ!」
ファゼルが顔をしかめながらもよろよろと立ち上がり、迫りくるボスのハティと対峙すると、今度は白魔術のスピードアップがかかっていることもあり、軽々と回避してみせた――
「うっ……?」
――はずだったが、彼はまたしても地面を勢いよく転がり回る羽目になった。
「うぐぐ……あ、あれ……? 今のはしっかりかわしたはずなのに、なんで……」
再び雪まみれになりながら起き上がり、怪訝そうに首を傾げるファゼルだったが、まもなくハッとした表情に変わった。
「そ、そうか。このボスには必中攻撃があったんだったな。へっ、けど痛みはほとんどなかった。さすがドルファン。白魔術の腕だけは確かだ。チクッとしただけだったぜ……」
『グルルルル……』
勢いよく通り過ぎたものの、再び戻ってきたハティと対峙しつつ、ニヤリと笑うファゼル。
「今度はこっちの番だ……ん……?」
彼が斧を握り直そうとして、上手くいかないので不思議そうに手元を二度見すると、左手の手首から先が切断されていた。
「……え? ひ、左手がない……? う……うわあああああぁっ!」
「ファ、ファゼルウゥゥッ!? マ、マールゥッ、早くアイスプリズンを使ってえぇっ!」
「あ、ひゃ、ひゃいぃ! アイスプリズンッ……!」
レミリアに指示されたマールが大慌てでハティの周りに出したのは、巨大な氷柱の集まりだった。
『グルルルルルァッ!』
ハティがその隙間から抜け出ようとするが、体が大きいのでかなわず、その代わりに柱には徐々に亀裂が入り始めていた。
「お、俺の手がああああああっ!」
氷柱の前でファゼルが傷口を見ながら泣き叫ぶ中、まもなく5分間の制限時間を迎えてボスの姿は消失し、周りの景色が徐々に元に戻り始めるのであった……。
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