上 下
3 / 87

3.精霊術師、真相を知る

しおりを挟む

「お、俺……?」

 本当に自分が声をかけられたのかと疑ってしまうが、彼女が微笑みつつうなずいてくれたので安心することができた。

 受付嬢ソフィア……近くで見るとよくわかる。熾天使と言われるだけあって本当に美しすぎる人だ。おそらく、俺が喧嘩を仲裁したってことで報酬をわざわざ持ってきてくれたんだろう。ありがたい話だ。

「身を挺して喧嘩を仲裁なさるなんて、本当に勇気のある行動です……」

「ど、どうも。無謀ともいいますがね」

「いえ、そんなことはないです。だってあなたは、あの鉄壁パーティーの一人ではないですか」

「え、ええっ? 俺のことを知ってるんですか……?」

 あの熾天使が俺のことを知っていたという事実に思わず声が上擦るが、彼女はそんなことを気にする素振りもなく笑ってくれた。

「もちろんです。だって、レオン様はここ最近で一番依頼を達成してると評判のパーティーにいらしたので」

「…………」

 俺の名前まで知ってくれてるなんて……。あまりの嬉しさに呆然としてしまうも、周りから羨むような棘のある視線に突っつかれて我に返る。

 そうだな、現実問題として、俺はもうあのパーティーの一人ではないんだし、嘘をつくのも失礼だからちゃんと言ったほうがいいだろう。

「ああ、その件については、俺は何も関係ありませんので」

「ええ?」

「メンバーのドルファンっていう白魔術師が凄いだけなんで……俺自体は大したことないし、がっかりさせちゃってすみません」

「あ、あの……レオン様、今、ドルファンと仰いましたか?」

「え、はい」

 なんだ? 受付嬢ソフィアがはっとした顔で俺を見上げてきた。

「実はその件で、最近妙な噂を耳にしたことがあるのです。一部ではかなり評判の悪い方のようでして、支援の腕は普通なのに、パーティーの特徴を事前に調べてそれを自分の手柄にするとかで」

「え、ええ……?」

 そういえば、ドルファンがパーティーに入ってきたのは一番あとだったような。そうだ、確か最初のほうで依頼を受けていたとき、あの男はいなかった。その頃から既にダメージを受けたような覚えはあまりないんだよな。ってことは、一体……?

「…………」

 ダメだ、考えてもわかりそうにない。最初のほうはモンスターが弱いだけで、ドルファンに関しては元々普通の白魔術師だったけど、俺のパーティーで成長したっていう可能性もあるんじゃないかな。

 それとも、俺に何か力があるとか……いや、なんの精霊とも仮契約すらできてないんだし、まさかな……。

「と、とにかく、俺はもうあのパーティーを追放されちゃったんで……関わりのないことです」

 あいつらがどうなろうと関係ないし、今の俺は自分のことで精一杯だからな。

「追放だなんて、そんな……。レオン様はあんなに頑張っていらしたのに。何一つ文句を言わずに重い荷物を抱えておられましたよね……」

「そんなところまで見てくれてたんですか」

「はい。あんなにも身を粉にして貢献できる方がパーティーにいるなら、どれだけ心強いかといつも思っていました」

「ど、どうも。照れます」

「ふふふ。あなたならきっと……いえ、必ずや成功するでしょう」

「ええ?」

「私は今まで色んな冒険者の方々を見てきましたが、あなたには特にがあります。絶対に諦めないでください」

「ど、どうも……」

「あと、これが喧嘩仲裁の報酬です。では、私は仕事が残っていますのでこの辺で失礼しますねっ」

 ソフィアは笑顔で俺にお金の入った小袋を渡すと、あっという間にカウンターの奥へと消えていった。

 おおっ……中を覗いたら、銀貨3枚、銅貨50枚も入っていた。これは助かる……。

 それにしても、彼女は物凄くシャイだって聞いてたけど、そんなことは微塵も感じなかった。頭が良くて余計なことを喋るタイプじゃないからそう思われた可能性のほうが高そうだな。

 オーラ、か……。正直諦めかけてたが、ソフィアのおかげでやる気が出てきた。もう少しあがていみるとしようか。

 というわけで俺は早速、目を皿にして依頼を探し始める。これから一週間くらいのホテル代と飯代は手に入れたが、その次があるかどうかは自分次第だからだ。

 んー……やっぱりいいのがないなあ。もうすぐ夕方になりそうだし今日はやめておくか――って、待てよ。俺はを思わず二度見してしまった。諦めかけてたら、凄い依頼を発見した……。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し
ファンタジー
道具屋の店主モルネトは、ある日訪れてきた勇者パーティーから一方的に因縁をつけられた挙句、理不尽なリンチを受ける。さらに道具屋を燃やされ、何もかも失ったモルネトだったが、神様から同じ一日を無限に繰り返すカードを授かったことで開き直り、善人から悪人へと変貌を遂げる。最早怖い者知らずとなったモルネトは、どうしようもない人生を最高にハッピーなものに変えていく。綺麗事一切なしの底辺道具屋成り上がり物語。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ユウ
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...