外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し

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87話 挑戦者

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「あ……」

 気が付くと僕はベッドの前に立っていて、そこで眠る少女アリスを見下ろす格好になっていた。

 あのときみたいに目は開いてなくてちゃんと閉じられてるし、こっちが紛れもない現実なんだろうね。ってことは、見開かれた両目を見たときには既に彼女の【精神世界】スキルの効果を受けてたってことかな。

「――う、あ、あれ……」

 あ、傍らで倒れてたペルゼン伯爵が目を覚ました。彼もずっと閉じ込められてたんだよね。

「ペルゼンさん、大丈夫ですか?」

「……え、あ、は、はい……って、ま、まさか……【精神世界】から私を救い出していただけたのですかっ……!?」

「はい、なんとか脱出できましたよ。苦労しましたけど……」

「もっ……もももっ、申し訳ありませんでしたあああぁぁっ……!」

 床に頭を打ち付けるようにしてひれ伏するペルゼン伯爵。

「ただでさえ、死ぬような思いをして依頼をこなしていただけたのに、罠にかけるようなことをしてしまって……ただ……僭越ながら、S級冒険者であるあなた様ならなんとかできるのでは……を救っていただけるのではと、そう期待していたのも事実なのです……」

「私ども……?」

 ペルゼン伯爵のほかに誰かいたっけ?

「……そ、それは、そこで眠っているアリスのことであります」

「え、えぇ……?」

「この子にはとても苦しめられましたが、私が恐怖を感じつつもこのおかしな日常を受け入れているところもあったのは、この子のやっていることがとても悲しく、そのことに同情のようなものを感じていたからであります。他人を傷つけることでしか生きることの実感を得られぬ、そんな不幸な境遇ではないか、と……」

「……それはそうかもしれないですね。でも、ペルゼンさんは確かに凄く優しいけど、甘やかしすぎなんだと思います。現実から逃げるだけじゃ幸せは掴めないんだってことをわからせてあげないといけないと思うし、現実の厳しさが自分を苦しめるためだけに存在してるわけじゃないってことも教えてあげるべきかと……」

「……お、おおっ、確かに……仰る通りです……。冒険者様は、その若さでとても立派な考えを持っておられますな……」

「いや、僕も偉そうに言ってるだけでまだまだ未熟なんですよ。本当に生意気な子供なんです。自分だけの力じゃどうにもならなくて、他人の力を借りてるから生きてられるんだって、日々実感してます」

 というか、スキルにしてもそうだからね。僕は今思えば色んな人を傷つけてきた。でも、誰も傷つけずに生きられるなんて思うほうが傲慢なんだと思う。優しさでさえ人を傷つけることがあるのに――

「――う……」

「「あっ……」」

 アリスが目覚めるのがわかって緊張が走るけど、彼女の表情はそれまでの自信に満ち溢れたものと違って、どこか不安げで目元には薄らと涙さえ浮かんでいた。

「……アリス、おにーさんに負けちゃったんだね……」

「負けた……?」

「うん……」

「それって、むしろ誇ることだって思うんだけど……」

「えぇっ……? な、なんで……?」

「負けたって思うってことは、挑戦したんだってこと。現実と戦ったことの証明なんだ。僕は挑戦しないことを選ぶくらいだったら、負けるほうを選ぶ。どんなに傷ついても立ち向かうことを選ぶ……。それは僕が凄いからじゃない。そのほうが楽しいから……それが冒険者だからなんだ……」

「……そっかぁ。冒険者って楽しそうだね。アリスもいつかそんな風になれるかなあ……?」

「なれるさ!」

「でも、アリスは体も弱いし……」

「冒険者っていうのはね、アリス。それに関わる人たちも冒険してるようなもんなんだって僕は思うんだ。どんな武器や防具を売買するか、どんな依頼を受けるのか、どんな愚痴や自慢話を聞かされるのか……そういう関わりも含めて現実は回ってるんだ。だからアリス、君の気持ち次第なんだよ……って、なんか一方的に喋っちゃってたね……」

「……ううん、おにーさんのお話、凄く楽しかったよ。じゃあ今度はアリスの番ねっ」

「うん」

「アリスね、小さいときはもっと体が弱くて、不憫に思ったのかお母さんに殺されかけたの」

「……」

「怖かったから、時々転びながらも逃げて逃げて……。アリスがびくびくしながら帰ってきたときに、お母さんにごめんねって泣きながら謝られて嬉しかったけど、それから一年くらいして病気で亡くなっちゃったんだ。今思うと、お母さんもこんな風にずっと心を病んでて、現実から逃げ出したかったのかなって……」

「うん、アリスのお母さんも辛かったんだろうね」

「でも、おにーさんの話を聞いて勇気が出てきちゃった。もう【精神世界】なんていらないっ」

「いらないって……あ、それじゃ僕にくれる?」

「えぇっ……?」

「もしそのいらないっていう言葉が本気なら、ここで使ってみて」

「え、いいの……?」

「う、うん……」

 僕は、立ち上がった彼女の足元に魔法陣が出てきて、止まるタイミングで削除してやった。何かに使えるかもしれないから欲しかったんだ。

「では、今度はこの私がアリスのチャレンジをサポートしていきます」

「「えぇっ?」」

 僕とアリスの驚いた声が重なる。

「あんなに酷い目に遭わせたのに、伯爵おじさん、どうして……?」

「私も、自分の娘を病で亡くしたことがありましてね……まだ言葉もろくに話せないくらいの年頃でしたが、他人事とは思えぬのです。少しずつ、お互いの心の隙間を埋めることができれば、と……」

「……」

 項垂れるアリスの頬を、光るものが伝うのがわかった……。
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