75 / 93
75話 信念
しおりを挟む「ホント、危なかったな、カイン……」
「うん、そうだね、クロードさん……」
「二人とも大変だったね~……」
あれから僕はクロードとともに、彼の妹のミュリアが経営する武具屋まで来ていた。
カウンターの奥に小さな部屋があって、そこでみんなと丸いテーブルを囲んで紅茶をいただくことに。
ふう……本当に、一時はどうなることかと思った。もうしばらく王城は懲り懲りだ。
スキルを封じる幾何学模様があるのは、今回王城へ行くまではてっきりソフィアと手合わせした場所くらいだと思ってたけど、そうじゃなかった。クロードが言うには牢獄や城の外部には脱獄囚、または侵入者対策のためにああいう仕掛けがふんだんに施されてるんだそうだ。
「それにしても、カイン君とお兄ちゃん、なんだか仲良くなったね~」
「「え……?」」
「だって、ここに来るまでずっと手繋いじゃってたし~」
「ミュリア……そりゃしょうがねえだろ? お互いに必死だったんだから。な、カイン」
「う、うん……」
そういや、武具屋に入るまでクロードと手を繋いでたんだっけ。彼の言う通り、それだけ自分たちが窮地に立たされてて、お互いのことを頼りにし合ってたからなんだろうね。
「ふふっ……。それにしても、城が燃えてるのは絶対カイン君を陥れるための罠だってお兄ちゃんが予想してたけど、ばっちり当たってたね~……」
「ああ。まあ俺もさ、カインを助けに行くなんて偉そうに言っておいて、危うく連中の罠にかかりそうだったけどな。シュナイダーは本当に油断できねえ男だ……」
「……」
ほっとしたことは確かなんだけど、一応クロードたちも二つの勢力のうちの一つなんだよね……。巻き込まれないうちに帰ろうかな。
「あ、あのっ、助けてもらって本当にありがとうございました、クロードさん」
「ん、なんだよカイン、急に」
「この御恩はいつか必ず返したいと思います。それじゃ、また――」
「――待てよ、カイン」
「……」
いつになく強い口調でクロードに呼び止められる。王城でのあの厳しい状況でも見られなかった一面を覗いた気がした。
「お兄ちゃん、ダメだよ~……」
「ミュリア、止めても無駄だ。このチャンスを逃すわけにはいかねえ。なあカイン、俺たちの正体についてはもう知ってたんだろ? 俺が第一王子ってシュナイダーに言われたとき、お前はなんら驚きを見せなかったしな」
「うん、一応……」
「どこで知ったのかはともかく、それなら話は早い。第一王子の俺と第二王女のミュリア、それに第一王女のダリアとその直属の部下シュナイダー、この二つの勢力争いがずっと続いてる。この泥沼の戦いを終わらせるためにもカイン、お前の力がどうしても必要なんだ。力を貸してくれないか……?」
「……」
「やつらの汚いやり口をカインも見ただろ? あいつらにだけは王位を継がせるわけにはいかねえんだ。この国が滅茶苦茶になっちまう。だから、俺がこの国の王になれるように協力してくれ、この通りだ……」
「ク、クロードさん……」
第一王子から頭を下げられているという異様な状況。それでもわかりましたと答えない僕も僕だけど……。
「ミュリアも黙ってないで何か言ってくれよ」
「……だからお兄ちゃん、無理強いはダメだって~……」
ここは曖昧にしたらダメだと思うし、はっきり言わないと。それも優しさだよね。
「ごめん、たとえミュリアのお願いであっても僕は協力できない」
「カ、カイン、お前――」
「――いつもここで世話になってるだけじゃなくて、助けてもらったことは本当に嬉しかったし、いつかは恩を返さなきゃって思ってるけど……そういう王位争いとかは今のところ興味なくて……それに、僕はギルド長とかも任されてるし、冒険者としての幅も狭まっちゃうから……」
「あのなあ、カイン……そんなの王位争いが終結すればいつでもできることだろ? このままだとお前が牢獄に閉じ込められたように、ダリアたちに無理矢理協力させられる羽目になるかもしれないんだぞ……?」
「……それでも僕は自分の信念を貫き通したいんだ。これは何よりも僕の中で尊いものだから……ごめん、ミュリア、クロードさん――」
「――カ、カイン、逃さねえぞ……」
怖い顔をしたクロードに行く手を阻まれる。僕はこの人たちと戦わなければならないのか……。
「お兄ちゃん、もうやめて……」
「うっ……」
今のミュリアの言い方、とても静かだけどクロードが黙り込むのもわかるくらい迫力があった。
「ボクね……カイン君の気持ちもよくわかるんだよ。誰かに強制されるんじゃなくて、あくまでも自分の意思で決めたいって。だからこそ、ここまで強くなれたんだと思う」
「……」
「ボクたちはそんなカイン君だからこそ、協力してほしくてもずっと黙ってたんだ」
「……二人とも、本当にごめん……」
「謝らなくていいよ。でも気が変わったらいつでも言ってねっ」
「うん」
「それと……これだけはないと思いたいけど……もしカイン君が敵側になったら、全力で倒しにいくから覚えておいてね。もちろん生け捕りだよっ。ね、お兄ちゃん?」
「あ、あぁ、カイン……そのときは、俺たちのためにたっぷり働いてもらうからな!?」
「う、うん。できればそうならないようにしたいけど……」
クロードもそうだけど、ミュリアの微笑んだ顔、いつもと変わらないようで凄く怖さがあった……。
4
お気に入りに追加
1,487
あなたにおすすめの小説

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる
名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。
冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。
味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。
死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる