外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し

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58話 叫び声

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「うわ……」

 隠し通路を慎重に進んでいくと、その先には巨大な青銅色の扉があって、思わず声が出てしまうくらい恐ろしい空気を醸し出していた。この先には絶対に行ってはいけない……そんな不吉な気配をこれでもかと感じる。

 でも、折角ここまで来たんだからチャレンジあるのみだ――というわけで、久々に湧いた恐怖心を削除して徐々に扉を開けていく。怪力の腕輪があっても結構重く感じる扉で、錆びてるせいかキイィィっていう悲鳴のような音が周囲にこだました。多分、一人じゃなくてパーティー全員で押して入るのが普通なんだろうね。

 それにしても、なんか通路に入るまでにあった万能感みたいなのが消えてると思ってステータスをちらっと確認したら、いつの間にか【鬼眼】スキルが【鑑定士】スキルに退化してしまってるのがわかった。

【進化】スキルの熟練度が上がれば持続時間も増えるのかもしれない。ちょっと不安になってきたけど、冷却期間クールタイムが終わるまでの我慢だ。

 やがて扉が充分に開いたので、僕はより注意深く先へと進み始める。中は城というより洞窟のような構造になっていて、岩肌が剥き出しになっていた。それでも微妙に光ってるから暗くはないんだけど、どうしてか一歩前に歩くたびに妙に抵抗感があって、真っ暗な中を歩いてるような錯覚に囚われるほどだった。

「あっ……」

 少し進んだところでかなり強烈な風が吹いてきて、流されないように体勢を低くしながらさらに奥へと進んでいく。

 一本道で霧がないといっても、狭くて曲がりくねってて先が見えない上、キュイイィィっていう金切り声みたいな風の音がして不安を煽ってくるようで、僕はマイナスの感情をちょくちょく削除していた。

 ――お、先が段々開けてくるのがわかるし、風も次第に緩やかになってきた。

「……」

 奥には縦横に広い空間があって、斜め上からの太陽光が周辺を明るく照らし出してたわけなんだけど、僕はを見てしばらく動けなかった。

 それはもう地獄といっても過言じゃないくらい、大量の髑髏で埋め尽くされていて地面が見えないほどだったんだ。これが全員S級冒険者なわけがないだろうし、達成できる者が出ないあまりS級まで上がった可能性のほうが高そうだ。それとか、偶然迷い込んだような人も結構いるんだろうね……。

「すー、はー……」

 恐怖とか息苦しさを削除して、僕は山のような髑髏をルーズダガーで掻き分けながら進んでいく。なんだか申し訳ない気持ちにもなるけど、不老草を見つけなきゃいけないから仕方ないんだ……って、そうだ。これに【削除&復元】は使えないかな? 亡霊だって削除できるんだし死んでるならできるはず……。

 試しに使用してみたら、髑髏がパッと消えた。いいぞ、どんどん削除できてる。ただそれでも僕の周りをようやく掃除できた程度だ。髑髏が多すぎるし一つずつしか削除できないから厳しい。これじゃ不老草を見つけるのは大変そうだ……。

「……」

 あれ? 今、空間奥の暗がりのほうから足音っぽいのが聞こえたような……。耳を澄ませてみると、やっぱり聞こえてくる。しかも徐々にこっちへ近づいてきてるのがわかった。

『『――フシュウゥゥゥ……』』

「……あ、あ……」

 僕の前に現れたのは、バカでかい眼球に鳥のような長い足が二つついた二匹のモンスターだった。

 な、なんなんだあれ、口なんて見当たらないしどこから音を出してるんだ……って、それどころじゃない。強敵のオーラを滅茶苦茶出しまくってるし早く【鑑定士】スキルで詳しく調べないと……。

 名前:スプリットガーディアン
 レベル:102
 種族:動物
 属性:風
 サイズ:中型

 能力値:
 腕力S
 敏捷S
 体力S
 器用S
 運勢B
 知性S

 スキル:
【混合】
 効果:
 テクニックA(大)+テクニックB(大)、テクニックB(大)+テクニックA(大)といった具合に、熟練度が最高のテクニックに限り二つ組み合わせて同時に使用することが可能。テクニックA(大)が最初に来る場合、Aの効果がBより優先されたものになる。

 テクニック:
《跳躍・大》

 特殊防御:
 リフレクトアイズ
 効果:
 すべてのダメージの50%を跳ね返す。

 特殊防御2:
 分裂
 効果:
 自身が一体だけになった場合、必ず分裂する。

「ひええぇっ……」

 僕は思わず小さな悲鳴を上げてしまった。こいつのレベル高すぎでしょ……。ちなみに、もう一匹に【鑑定士】スキルを使ったらまったく同じステータスだった。つまり、一匹だけ倒しても分裂するから二匹同時に倒さなきゃいけないってことか……。



 ◆◆◆



「きゃあああああぁぁっ!」

「「「……」」」

 古城ダンジョン一階層、悲鳴を上げながら歩くファリムと、少し離れて後ろを歩く覆面姿のナセル、ロイス、ミミルの三人。

 しばらくの間、彼らは戦闘を挟みつつも互いに談笑する程度の余裕はあったのだが、今ではファリム以外重い沈黙に包まれており、近くにモンスターが発生しても猛然と走って避けるようになっていた。

「きゃああああああぁぁっ……はあ、疲れたぁ……」

 ファリムが叫んだあと、露骨に疲れた表情で項垂れる。

「おいファリム、悲鳴上げるだけなんだからもうちょっと頑張れよ! お前が休んでる間、カインのやつが近くに来てるかもしれないんだぞ!?」

「あのねぇ、ナセル……私がどんだけ今まで叫んできたって思ってるの……?」

「ウムッ、リーダー、ファリムは頑張っているではないかっ」

「そうですよ、リーダーさん。あたしたちは基本喋ってただけですし……。てかもうカインさんは一階層にいないんじゃ……?」

 メンバーのロイスとミミルから立て続けに上がる擁護の声に、ナセルが立ち止まって苛立った様子で地団駄を踏む。

「あのなー! カインのやつが受けたのはおそらく不老草の依頼だし、そこへ向けた隠し通路があるっていう一階層を彷徨ってるのはほぼ間違いねえんだよ。なんせパーティーですら一日中探しても見つけられないことなんてざらにあるみてえだし、カイン一人じゃさすがに――」

「「「――ナセル……」」」

「あ、なんだよ?」

 メンバーが震えた声で後ろを指差したので怪訝そうにナセルが振り返ると、そこには死霊騎士やリザードマンの大群があった。

『『『『『グオオオオォォォォッ……』』』』』

「いっ……いつの間にこんだけ発生してやがった――!? って、おいお前たち! 俺を置いて先に逃げるなあああぁぁぁっ!」

 逃げ遅れた格好になったナセルは転びそうになりながらも、なんとか体勢を整えてパーティーメンバーを猛追し始めるのであった……。
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