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55話 冒険心
しおりを挟む「それっ……!」
僕は都の郊外にある古城ダンジョンを目指し、建物の屋根から屋根へと《跳躍・大》を使って飛び越えていく。このレベルまでいくと本当にスキルのような便利さで、連続して使うと飛ぶような爽快感を味わうことができた。
今日の目標は、夕方までに例のS級の依頼を達成しつつ、古城ダンジョンも攻略することだ。A級冒険者だけで構成されたパーティーでも攻略には朝から晩までかかるっていうから厳しそうではあるけど、だからこそチャレンジしてみたいんだ。
「――おぉっ……」
やがて、朝靄に包まれた断崖絶壁上の古城ダンジョンがその不気味な佇まいを見せ始めた。数多くあるダンジョンの中でもトップの座を争うほど高い人気を誇っていて、初心者から上級者まで訪れる人は絶えないらしい。
それは一定時間が経つと階層ごとに内部構造がガラリと変化するっていう特異性だったり、不老草とかいう浪漫溢れる植物が生えてたりっていうのもあるけど、外面の雰囲気がとにかくでかいし薄気味悪いしで、いかにもダンジョンって感じがあって冒険心をくすぐられるからなんだろうね。
「「「――君、止まりなさい!」」」
「え……?」
入り口前で兵士たちに呼び止められる。あ、そうだった。S級以上じゃないと一人では入れないんだ。ひけらかしたくないあまり例の褒章をつけてなかった。
以前だとA級から単独で入場できたみたいだけど、以前エリスから聞いた話だとA級冒険者が一人で挑戦することが流行して、死人が続出したことからS級以上じゃないとダメになったらしい。
「ダンジョンに未熟な冒険者を一人で入らせるわけにはいかんのだよ」
「一人ならS級以上じゃないとダメだって聞いてないのかー?」
「そういうわけだから、今すぐ回れ右して冒険者ギルドでお友達を見つけてこようね? ボクちゃん、わかりまちたかぁー?」
「「「わははっ!」」」
「はあ……」
まあ、まだまだ都じゃ僕の知名度はないみたいだからしょうがないか。というわけで胸に金竜の褒章を飾ると、兵士たちが青ざめた顔で敬礼してきた。
「「「おっ、お役目ご苦労様でありますうぅっ……!」」」
「あははっ、君たちもね」
彼らの手の平を返す速さに呆れつつ、僕は古城ダンジョンの入り口に立った。
ここから古城を見上げていると、追放された日のことをまざまざと思い出す。期待感を膨らませながら、さあ挑戦しようってところでいきなりナセルたちに追放を言い渡されちゃったんだよね……。
あれから大分月日が流れたように思えるけど、実際はまだ一月くらいしか経ってないんだ。あいつら、今頃何してるかな……? 今となってはもう関係ないんだけどね。
さて……念願のS級冒険者にはなれたけど、ダンジョン自体初めての挑戦だし気合入れて行くとしようか……。
◆◆◆
「もうすぐ、もうすぐだ。ここにいれば、例の依頼を受けたカインのやつが絶対にやって来るはずだ……」
古城ダンジョンの入り口前、眠そうな仲間たちを従えて興奮した様子のナセルが、今か今かとカインが現れるのを待ち構えていた。
「あいつが【削除&なんたら】っていうゴミスキルでなんであそこまで成り上がったのかは知らねえが、それも含めて知りてえし必ずあいつを懐柔してみせる……っておい、お前たち、ちゃんと聞いてるのか?」
「ふわあ……聞いてるよ、一応……。でもさあ、ナセル。今更カインが私たちの説得に応じてパーティーに戻ってきてくれるって本気で思ってる?」
「イエスッ、リーダー……ふぁああ……じっ、自分もファリムと同意見だ。今もあの男は追放されたことを根に持っているはずっ!」
「ねむねむぅ……リーダーさん、あたしもファリムさんとロイスさんの言う通りだと思います。もうカインさんはあれだけ偉くなられてるんですし、何を言ってもきっとスルーされちゃいますよぉ……」
不安な色も覗かせるファリム、ロイス、ミミルの三人だったが、ナセルがそれを一蹴するかのように不敵な笑みを浮かべてみせる。
「おい、早とちりするなよ。確かに俺はカインを懐柔するつもりだとは言ったが、ここでとは言ってねえ」
「「「えっ……?」」」
「まあ、これから言うことをよく聞けって、お前たち……。誰かに聞かれたら困るし、もうちょっとこっちに寄れ――」
「「「――おおっ……!」」」
ナセルが小声で何やら話すと、当初は怪訝そうだった仲間たちの顔がいずれも晴れやかなものに変わっていった。
「凄いじゃない、ナセル……。カインの成長速度も異常だけど、ナセルの悪知恵も格段にレベルアップしてるんじゃない!?」
「オー、ワンダフルッ。革命的作戦だ、これは……!」
「リーダーさん、頼もしいですぅっ」
「へへっ。カインが武力で無双するなら、こっちは知力で無双してやるってんだよ――って、おい、早速やつが来たぞ!」
「「「あっ……!」」」
兵士に呼び止められたカインの姿を確認してまもなく、ナセルたちは意気揚々と古城ダンジョンへと入っていくのだった……。
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