上 下
55 / 93

55話 冒険心

しおりを挟む

「それっ……!」

 僕は都の郊外にある古城ダンジョンを目指し、建物の屋根から屋根へと《跳躍・大》を使って飛び越えていく。このレベルまでいくと本当にスキルのような便利さで、連続して使うと飛ぶような爽快感を味わうことができた。

 今日の目標は、夕方までに例のS級の依頼を達成しつつ、古城ダンジョンも攻略することだ。A級冒険者だけで構成されたパーティーでも攻略には朝から晩までかかるっていうから厳しそうではあるけど、だからこそチャレンジしてみたいんだ。

「――おぉっ……」

 やがて、朝靄に包まれた断崖絶壁上の古城ダンジョンがその不気味な佇まいを見せ始めた。数多くあるダンジョンの中でもトップの座を争うほど高い人気を誇っていて、初心者から上級者まで訪れる人は絶えないらしい。

 それは一定時間が経つと階層ごとに内部構造がガラリと変化するっていう特異性だったり、不老草とかいう浪漫溢れる植物が生えてたりっていうのもあるけど、外面の雰囲気がとにかくでかいし薄気味悪いしで、いかにもダンジョンって感じがあって冒険心をくすぐられるからなんだろうね。

「「「――君、止まりなさい!」」」

「え……?」

 入り口前で兵士たちに呼び止められる。あ、そうだった。S級以上じゃないと一人では入れないんだ。ひけらかしたくないあまり例の褒章をつけてなかった。

 以前だとA級から単独で入場できたみたいだけど、以前エリスから聞いた話だとA級冒険者が一人で挑戦することが流行して、死人が続出したことからS級以上じゃないとダメになったらしい。

「ダンジョンに未熟な冒険者を一人で入らせるわけにはいかんのだよ」

「一人ならS級以上じゃないとダメだって聞いてないのかー?」

「そういうわけだから、今すぐ回れ右して冒険者ギルドでお友達を見つけてこようね? ボクちゃん、わかりまちたかぁー?」

「「「わははっ!」」」

「はあ……」

 まあ、まだまだ都じゃ僕の知名度はないみたいだからしょうがないか。というわけで胸に金竜の褒章を飾ると、兵士たちが青ざめた顔で敬礼してきた。

「「「おっ、お役目ご苦労様でありますうぅっ……!」」」

「あははっ、君たちもね」

 彼らの手の平を返す速さに呆れつつ、僕は古城ダンジョンの入り口に立った。

 ここから古城を見上げていると、追放された日のことをまざまざと思い出す。期待感を膨らませながら、さあ挑戦しようってところでいきなりナセルたちに追放を言い渡されちゃったんだよね……。

 あれから大分月日が流れたように思えるけど、実際はまだ一月くらいしか経ってないんだ。あいつら、今頃何してるかな……? 今となってはもう関係ないんだけどね。

 さて……念願のS級冒険者にはなれたけど、ダンジョン自体初めての挑戦だし気合入れて行くとしようか……。



 ◆◆◆



「もうすぐ、もうすぐだ。ここにいれば、を受けたカインのやつが絶対にやって来るはずだ……」

 古城ダンジョンの入り口前、眠そうな仲間たちを従えて興奮した様子のナセルが、今か今かとカインが現れるのを待ち構えていた。

「あいつが【削除&なんたら】っていうゴミスキルでなんであそこまで成り上がったのかは知らねえが、それも含めて知りてえし必ずあいつを懐柔してみせる……っておい、お前たち、ちゃんと聞いてるのか?」

「ふわあ……聞いてるよ、一応……。でもさあ、ナセル。今更カインが私たちの説得に応じてパーティーに戻ってきてくれるって本気で思ってる?」

「イエスッ、リーダー……ふぁああ……じっ、自分もファリムと同意見だ。今もあの男は追放されたことを根に持っているはずっ!」

「ねむねむぅ……リーダーさん、あたしもファリムさんとロイスさんの言う通りだと思います。もうカインさんはあれだけ偉くなられてるんですし、何を言ってもきっとスルーされちゃいますよぉ……」

 不安な色も覗かせるファリム、ロイス、ミミルの三人だったが、ナセルがそれを一蹴するかのように不敵な笑みを浮かべてみせる。

「おい、早とちりするなよ。確かに俺はカインを懐柔するつもりだとは言ったが、

「「「えっ……?」」」

「まあ、これから言うことをよく聞けって、お前たち……。誰かに聞かれたら困るし、もうちょっとこっちに寄れ――」

「「「――おおっ……!」」」

 ナセルが小声で何やら話すと、当初は怪訝そうだった仲間たちの顔がいずれも晴れやかなものに変わっていった。

「凄いじゃない、ナセル……。カインの成長速度も異常だけど、ナセルの悪知恵も格段にレベルアップしてるんじゃない!?」

「オー、ワンダフルッ。革命的作戦だ、これは……!」

「リーダーさん、頼もしいですぅっ」

「へへっ。カインが武力で無双するなら、こっちは知力で無双してやるってんだよ――って、おい、早速やつが来たぞ!」

「「「あっ……!」」」

 兵士に呼び止められたカインの姿を確認してまもなく、ナセルたちは意気揚々と古城ダンジョンへと入っていくのだった……。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

公爵家次男はちょっと変わりモノ? ~ここは乙女ゲームの世界だから、デブなら婚約破棄されると思っていました~

松原 透
ファンタジー
異世界に転生した俺は、婚約破棄をされるため誰も成し得なかったデブに進化する。 なぜそんな事になったのか……目が覚めると、ローバン公爵家次男のアレスという少年の姿に変わっていた。 生まれ変わったことで、異世界を満喫していた俺は冒険者に憧れる。訓練中に、魔獣に襲われていたミーアを助けることになったが……。 しかし俺は、失敗をしてしまう。責任を取らされる形で、ミーアを婚約者として迎え入れることになった。その婚約者に奇妙な違和感を感じていた。 二人である場所へと行ったことで、この異世界が乙女ゲームだったことを理解した。 婚約破棄されるためのデブとなり、陰ながらミーアを守るため奮闘する日々が始まる……はずだった。 カクヨム様 小説家になろう様でも掲載してます。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

処理中です...