外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し

文字の大きさ
上 下
48 / 93

48話 望み

しおりを挟む

「バッ、バカなあぁぁっ……!」

 クアドラの上擦った声に加えて両目が見開かれたままなのが、今の状況を如実に表していた。

【亜人化】スキルによって熊の力を手にした僕は、怪力の腕輪の効果も相俟って猛烈なパワーとスピードでやつを凌駕し、さらに【鑑定士】スキルの受動的パッシブ効果で弱点を的確に攻めることができていたから。

 このペースならクアドラが倒れるのも時間の問題――

「――はっ……」

 まもなく、僕は自分の力が急速に衰えていくのを感じることになった。こ、これは……多分、【亜人化】の効果が解けようとしてるってことだと思う。まずい……。

「お、おおおぉっ……? なんか希望が出てきたああぁぁっ……!」

「……」

 こっちの力が弱まったことは、早速相手にも伝わってしまったらしい。【殺意の波動】といい【瞬殺】といい、強力なスキルの再使用には総じて冷却期間クールタイムが必要なことを考えると、もう望みは……。

 いや、諦めたらダメだ。折角ここまで追い詰めることができたんだし、相手も今までのようにはいかないはず。

「いっくじぇええええぇぇぇっ!」

「くっ……!?」

 僕の前向きな気持ちを摘み取るかのように、クアドラは猛然と攻勢をかけてきた。特殊防御の超再生で致命傷でさえもすぐ回復するだけあって、パワーやスピードはまったく衰えていない。

 ギリギリのところで【殺意の波動】や【瞬殺】を使ってほんの一瞬動きを止める等、工夫を凝らすことでなんとか猛攻を凌いでるような状態だけど、一体どこまで持つのやら……。

【亜人化】の効果が切れたことで僕は気付いたことがあって、人間の体では疲労や頭痛をいくら削除してもそのたびにのようなものができることがわかってきて、それがどんどん少しずつ積み重なっていくような不気味な感覚があった。

 着実に死へと近づいていくのがわかるけど、相手の攻撃に慣れてきてるのもあるのか、進行を遅らせることができてるのも確かなんだ。ここからただ座して死を待つのか、それともなんとかしようって足掻くのか……冒険者なら当然後者のほうを選ぶよね。

 形あるもの必ず終わりが来るっていうなら、相手も同じ条件だしこっちにだってチャンスはあるはず。もう楽になろうなんて思わず、辛抱強く耐えながら反撃の機会を窺うんだ――

「――早くううぅ、早くこいつを兄さんにたらふく食べさせてやりてえってんだよおおぉぉっ……」

「ヒヒッ……ヒッ……?」

「あっ……」

 今か今かと待ち焦がれていたがようやく僕の前に訪れた。クアドラの体が徐々に萎んでいくのがわかる。

 おそらく【進化】スキルの効果が切れたんだ。さっき聞こえてきた妙な笑い声も多分クアドラが言ってた兄さん――ジギル――のもので、【調和】してる状態からただ【寄生】してるだけの状態に後退したってことなんだと思う。

「ちっ、ちっきしょおおおおぉっ、もうちょっとのところでえええぇぇぇっ……!」

【進化】の冷却期間クールタイムのことを考えたらしばらくは使用できないはず。よーし、一気に決めてやろう――って思ったけど、。これにはちゃんとした理由があるんだ。

「はああぁぁっ!」

「ぐおおぉぉっ……!? まっ、まだまだあぁっ、まだ耐えられるぞおおぉぉっ!」

 今のクアドラは僕が手加減しても防戦一方にさせることができていた。【進化】で【寄生】を【調和】に格上げさせなきゃ余裕で戦える。

 超再生があるといっても、レベルやステータスが元に戻ってる影響なのか【殺意の波動】や【瞬殺】で動きが止まる時間も長いし、こっちがやろうと思えば再生する前に倒せる自信がある。

 それをしないのは、まだほかにやがあるからなんだ。そのためには絶望を与えるんじゃなくて希望を与えてあげないとね……。



 ◆◆◆



「おおおっ、あの化け物が何故か縮んでカインに流れが来たぜ! おしっ、カイン、そこだ、一気にやれっ……って、おいっ、なんで仕留めねえんだ!?」

「「「……」」」

 カインを応援する声に一層熱が籠もるナセルだったが、周りにいるファリム、ロイス、ミミルの三人からはこれでもかと冷たい視線を浴びせかけられていた。

「ナセルったら……カインを応援するのはいいけど、いつ援護射撃をしてくれるのかなあ……?」

「オーイエスッ、自分もファリムに完全同意だっ。リーダー、このままでは戦いが終わってしまうと思うのだがっ!?」

「はあ。リーダーさんって正直ビビッてませんかぁ? 援護射撃がきっかけで化け物に狙われる可能性も考えてて、もうこのままカインさんにあの化け物を倒しちゃってくれって思ってますよね……?」

「そっ……そそっ、それはお前たちが穿った見方をしてるだけだっ! 俺はみんなの安全も考えた上で、カインの勝利が確定する絶妙のタイミングを見計らってるわけでなあ――」

「――ククッ、残念ながらもう勝負はついているぞ……」

「「「「えっ……?」」」」

 ナセルたちが振り返ると、そこには仮面の男が立っていたがすぐに血を吐きながら横たわった。

「っと、こういうわけだ。カインはまさに吾輩のスキル【死んだ振り】とはまではいかんが、勝負は決まっているのにで寝た振りをしているのだよ。フハハッ!」

 既にナセルたちは逃走済みで聞いてはいなかったが、それでも男は満足そうに右の口角を吊り上げてみせた。

(おそらく、クアドラのスキルを獲得するべくそのタイミングを狙っているのだろう。策士だな。吾輩同様、ダリア様の忠実なしもべになる予定のカインよっ……!)
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

処理中です...